スレイヤーズ2次創作のための20のお題01 【古い宿】 |
ガウリイが、寂れた村に辿り着いたのは、夕闇に染まった頃であった。 疲れた身体を引き摺り、宿を見付けたのは、夕飯時を少し過ぎた頃。 暗闇に浮かび上がるそこは、レンガの外壁が風化して崩れ掛かっており、蔦が生き物の様に、外壁を覆っている。 暗さと相まって、社会から取り残された寂しさと、不気味さがあり、相棒が居たならば、顔を青褪めていただろう。と思い、ガウリイは首を激しく横に振った。 ともすれば、溢れ出そうな寂しさと、空虚、焦り、悲しみ、怒り、そして……愛しさ、色々な感情が絡み、淀み、途方も無い旅の先に、獣の様に咆哮を上げ、泣き叫びたくなるのだ。 まるで、この宿は、今の自分の様だ。と、悲しみの色で建物を見上げ、彼は建物へと入る。 外見と同じで、中も傷んだ板や柱が目立つ。だが、埃っぽさや、カビ臭さは無いので、人が手入れしているのは分かる。 「あら、珍しい。お客さん?」 「ああ。一部屋頼む」 意外にも、奥から出て来たのは、老人ではなく、中年にギリギリ入らないであろう、丁度ガウリイと同じ年頃に見える女性。 「見た目はこんなだけど、部屋は綺麗にしてあるから、安心して」 「休めれば良い。所で、聞きたいんだが、この顔に見覚えないか?」 宿帳に名前を記入し、ガウリイは懐から、皮の布を出し、それに挟んでいた一枚の羊皮紙を取り出した。 4つ折りにされていたそれは、ずっと持っているのだろう。折り目がくたびれており、端の方は擦り切れている。 それを一瞥し、女性は小さく首を振った。 「残念だけど」 「そうか」 目に見えて落ち込む彼に、女性は「だけど」と口を開いた。 それに、彼は弾けた様に、下げた頭を上げる。 「3ヶ月前、近所のベッツェさんが、顔色の悪い女の子を、泊めた。て言ってたわ。旅行の帰り道、足取りが危うかったその子を見付けて、無理矢理連れて帰ったんですって」 「今もそこに?!!」 今まで、どんよりとした目付きだった彼の目に、鮮やかな光が差した。 ならず者の様な印象から、獲物を見付けた獣の印象へ。それ以上に、歓喜の色が、色濃く現れる。 「いいえ。次の日の朝、客室から消えて居なくなったの。宿賃のつもりだったのかしら?銅貨が10枚、冷えたベッドに置いてあったそうよ」 ガウリイの様子から、期待に添えない内容を続けなければならなかった事に、心苦しかったのだろう、女性は申し訳なさそうに言った。 「……そうか。明日、そのベッツェさんに会いに行きたいんだが」 「今すぐじゃなくて良いの?」 落胆した声で言ったガウリイを、女性は意外に思った。 彼の様子から、「今すぐにでも」と言われると思ったからだ。 「いや、落ち着いて話を聞きたいからな。一晩寝て、頭を冷やすよ」 「そう。あ、少し待ってて」 言って女性は受付の奥へと消えた。 羊皮紙を丁寧に折り畳み、皮の布に挟んでから、懐へ入れ、ガウリイは安堵の溜め息を吐いた。 強引に引っ張ったら切れそうな程、細い手掛かりの糸。それを切らずに済んだ事に安堵したのだ。 「はい、鍵。部屋は階段を上がってすぐ右よ。それと、剃刀」 受付に戻って来た女性が差し出してきたのは、部屋の鍵と、剃刀・それに必要であろうクリーム。 「無精髭、剃った方が素敵よ貴方」 「あー」 女性が自身の頬で髭を剃る仕草をしてみたので、ガウリイは自分の頬に触れた。追い付く事に必死なのと、身なりに気を配る必要がなかった事で、すっかり伸びた髭の感触が手に伝わる。 この宿に見合った簡素な夕食を摂り、風呂を浴び、ガウリイは部屋へと入った。掃除がキチンとされているが、どこか薄暗いものを感じさせる部屋だ。 月明かりに浮かび上がった彼の顔には、既に髭がなかった。 風呂から出てすぐ、脱衣場で剃り落としたのだ。 だが、以前の様な精彩さが無い。 頬は窶れ、肌は荒れくすみ、髪の艶が衰えていた。 「リナ……」 愛しさの籠った声で呟き、彼の眠れない、長い夜が始まる。 どうして、こんな事になってしまったのか、ただただそれだけが、頭の中を占めたまま。 |
≪続く≫ |