スレイヤーズ2次創作のための20のお題

03 【魔導書】

彼女を、一言で言ってしまえば、滅茶苦茶。
乙女の趣味と言って、盗賊をいびり倒し、盗品を奪う。その手段と行動力は、男らしいまでの強引さと、大胆さ。
鍵開けを乙女の嗜みと言い切り、お金に対する執着が強く、銅貨1枚でさえも彼女の前で無駄にしようものなら、命はないであろう。そして、盗品を少しでも高く売る為の努力と時間・労力は惜しまない。と、とにかく、行動が滅茶苦茶であった。
その滅茶苦茶な行動がなし得るのは、彼女の滅茶苦茶な実力によるものだ。
彼女の実力を説明するのに手っ取り早いのは、彼女の二つ名であろう。
『ドラまた』『盗賊殺し』『魔王の食べ残し』『歩いた後には、ペンペン草さえも生えない』と、数え挙げたらキリがなく、どれも悪名なのが、彼女の行動の滅茶苦茶具合を表している。
実際、彼女の実力は、「手加減一発、岩をも砕く」が故郷の格言らしく、手加減したと言った魔法は、盛大に人を空に飛ばし、数多くの魔法を自在に操り、繰り出す魔法は、凶悪なまでに強力。戦士としての心得もあり、剣の腕は、駆け出しの兵士以上、並みの剣士よりやや劣る程度。身軽さを活かし、スピードに重きを置いた身体捌き。魔導と剣術・体術、それらを上手く使い分け、戦況に乗じて、柔軟に対応出来ると、頭の回転の良さまで備えていた。
ただ、派手な呪文を好み、穏便に出来ない性質で、自ら面倒事に首を突っ込み、小さい事を何故か大きくしてしまう性分が、彼女の悪名を広める結果となってしまった。
しかも、「悪人に人権は無い」と憚る事なく断言したり、強引な事件の解決を試みたり、破天荒極まりない。
勿論、そんな要素を抱えた彼女の性格は、決して誉められたものではなかった。
短気で、暴れ出したら手がつけられず、我が侭で、強欲、自分の欲求にトコトン正直。
そんな彼女だが、外見は、控え目な背、華奢な身体付きで、幼さを残した可愛らしい顔立ちをしていた。そう、彼女は、黙ってさえいれば、彼女が自称する通り、“美少女”なのだ。
だが、その見た目に油断し、下心で近付いた男、強奪目的で近付いた男、はたまた彼女を小馬鹿にした人間は、問答無用で数秒の内に、地面に転がる運命になる。
しかし、それらは、外面的なものだ。
彼女を良く知る者達は、そんな滅茶苦茶な彼女を、決して嫌いになれない。
彼女は、表立って見せないが、戦いを知らぬ弱い者には、甘く、不器用な優しさを見せ、それを指摘されると、真っ赤になって否定する可愛らしい一面もある。面と向かって、内面を誉められると、照れてしまうのだ。
そして、戦いに於いての、彼女の存在は大きさは、甚大で。彼女が居ると居ないとでは、士気が断然違う。
一撃必殺を使える事もあるのだが、彼女の指揮が的確に行われるからで。
年上も年下も、彼女に指示されると、文句を言う事はあっても、反対はしない。と言うよりも、反論のしようがなかった。
彼女が後ろで大きな呪文を唱えているだけで、皆安心して、目の前の敵と合間見える事が出来た。
いつも大きく構え、どんな敵にも、彼女は怯む事なく、不敵に笑うので、彼女が何とかしてくれる。と心のどこかで安堵するからだ。
その期待通り、彼女は強靭な敵を、いくつも葬り、勝ちを納めてみせた。
だが、辛い戦いがあった事も確かだ。
そんな時は、表面では、平気そうに見せていても、内面では深く心痛している事は、相棒の剣士であるガウリイは感じとっていた。
そして、仲間には、筋を通したがり、仲間をトラブルに巻き込んだ事を、気にする繊細な所さえもある。
それに、滅茶苦茶な実力は、勤勉さから産まれたものだ。
相棒のガウリイに剣を習いたい。と言い出したのは、彼女が暗殺者に狙われた時だった。
その暗殺者は、剣の腕が一流で、魔法も扱う厄介な相手であった。が、相棒のガウリイは、その暗殺者と互角に戦える事が出来たので、彼に任せれば良いものを、彼女は、適わないからと言って、指をくわえて見ているのは嫌だ。と、ガウリイに剣の指南をお願いしたのだ。
そして、忘れてならないのが、魔導の知識だ。
いくつもの魔法を扱うという事は、とりもなおさず、それだけの知識がある。という事。
それが如実なのが、彼女が魔導士協会に行った時だ。彼女の名前を聞き付けた、多くの魔導士が彼女を囲み、年配の魔導士さえ、彼女の考察に舌を巻き、感銘を受けていた。
それ程、彼女の魔導の知識は深く、多岐に渡っていると言える。
つまり、彼女と魔導は切っても切れない。
それを支えるのが、彼女の知識欲。それが旺盛で、仕事や事件が無いと、彼女は行った土地で、必ず魔導書をチェックしに行く。
そして、新しい魔導知識に出会うと、時間が立つのを忘れ、食事さえも忘れそうになるのだ。
そんな時は、相棒のガウリイが、頃合いを見て食事に誘っているが、本の世界に入り込んだ彼女は、声を掛けた位では気付かない。本を取り上げ、文句を言ってきた所に、「飯」と言うと、やっと気付くのだ。
そういう所がなければ、ガウリイは、彼女が魔導書に掛かりっきりになる事を、好ましく思う。豊かな表情が消え、真剣な表情で文字を追う彼女の傍らで、剣や防具の整備をしたり、ただ呆けっとしている、そんな静かな時間が好きだからだ。
そして、新たな知識を、得意げに講釈する彼女は、普通の年頃の女の子の様な表情で、意味は分からなくとも、ニコニコと聞く時間も、彼は好きだった。
彼の傍らから居なくなる数日前も、やはり彼女は真剣な目で、本を読んでいた。彼女が読む本は、難易度が高い物なので、詳しい内容は、気にしていなかった。
ただ、何か、いつもとは違う本の様な感じを、ガウリイは感じていた。
彼が、「どんな本だったんだ?」と、興味本意で聞いてみたら、「難しい言葉で、下らない事が書いてあっただけ」と、不機嫌な声が返ってきたので、彼女が気に入る内容ではなかったのだろう。「面白くなかったから、新しいの借りてくるわ」と、借りたその日に返しにいく程に。
魔力増幅器を失ってからの彼女は、魔導への知識欲が、更に貪欲になっていて、それまで以上に、新しい知識を求めていたので、珍しい事ではなかった。
一日に読む量が格段に増え、寝る時間さえ惜しいのか、時折眠そうにしている時もあった。
勿論、それを放って置く相棒では無い。無理矢理ベッドに押し付け、「少し寝ろ」と強く言い、彼女が眠るまで、監視していた。
彼女は、面白くなさそうな顔をしていたが、彼も譲る気は無く、珍しく強引な彼に、結局は彼女も折れ、直ぐに深い眠りに入っていた。
その深い寝息に、彼は只、一抹の不安を感じた。彼女は、魔導書にでも取り憑かれているのではないか?と。そして、魔導を理解出来ない自分を、捨ててしまうのでは?と。
そんな不安を抱えたまま、ガウリイは彼女と、彼女の故郷であるゼフィーリアに向かっていた。
辛い。の一言では足りない程、重い戦いの痛みを、少しでも和らげ、癒す事が目的であったが、目的地に着く前に、二人の旅は、突然の終幕を迎えた。
≪続く≫