スレイヤーズ2次創作のための20のお題07 【真夜中】 |
三年ぶりの邂逅の、蒼白なガウリイの様子に、黒髪の男は、「釣りの間の暇潰しの相手になれ」と、釣りを開始した。 そして、 「……命を掛けて護りたいと思っている奴に…捨てられたんだ」 立ち尽くしていたガウリイが、ガクリと膝を落とし、腰を降ろした。 「女か?」 男はニヤリと笑い、そちらを見る。 「ああ」 「ほぉ、良い経験じゃねぇか。振られるのも経験の内だ。テメェみたいな青二才を選ばなかったそいつは、相当賢い女だな」 暗い顔で頷いたガウリイの肩を、バンバンと叩き、男は盛大に笑う。 だが、彼の表情が一切変わらないのを見ると、眉を顰めた。 「人に捨てられたから、テメェを捨てる。それはちぃっとばかり、単純すぎやしねぇか?」 ガシッ!とガウリイの肩を掴み、飄々とした表情で、男はチラリと視線を送る。 「単純なんだオレは。あいつに必要とされてないなら、オレなんて要らない」 「随分入れ込んでやがる。そんなに良い女なのか?」 「ああ」 今まで、感情の読めない表情であったが、その時だけは、目に、声に力が籠り、彼の想いが、男に伝わった。 「どんな女か、見てみてぇな。俺程じゃねぇが、そこそこ整った顔したテメェを捨てたのも、そこまでテメェに言わせるのも、中々興味深い話だ。土産話に聞かせてくれや」 「…そうだな…」 ポツリ、ポツリとガウリイは語り出す。男と別れてからの自分自身を。 何が出来るのか?と思っていた時に、盗賊に囲まれていた彼女に出会い、訳有りそうな様子に、付いて行く事にした事から始まり、魔王との戦い、暗殺者との戦いがあり、魔族に狙われ戦ったり、その中で、彼女に惹かれていった事。 そして、彼女の良い所も悪い所も語るが、名前は言わなかった。彼女の名前を出すと、今、彼女が側に居ない事実が辛くなるからだ。 その話に、相槌を打ったり、ツッコミを入れたりしながら、男は釣竿を動かす。 そして話は中盤に入り、魔族との戦いで[光の剣]を無くしたとガウリイが言うと。勿体無いと嘆き、本気で悔しがる男は、前に会った頃となんら変わらず、ガウリイは懐かしさに少しだけ笑う。 話は進み、[光の剣]の代わりを探す旅の話に突入。また魔族との戦いが待ち受けていた事、その戦いの最中、今の剣を見付けた事を語り、ガウリイはその剣の柄を、強く握った。 「何となく、あいつとオレは離れない。て信じていたんだ。幾つもの戦いで互いの背中を任せたし、それとなく、ずっと一緒に居る。て伝えてもあった。なのに……」 「二年以上も一緒に居て、それだけかよ。そりゃ、見限られて当然だろうが。女てのは確かな物を欲しがるんだぜ?言葉もそうだが、物だって必要だ。ちゃんとした言葉、くれてやった事ねえだろ?」 男の視線は、湖に向けられたままだが、ガウリイは何故か居心地悪くなった。彼の言葉に、責める口調は無いのだが、どことなく不機嫌な印象を感じたからだ。 それは恐らく、男が娘を持つ父親だ。と知っているからだろう。 いつまでも煮え切らない男が、娘の側を離れなかったら、快く思わない筈だ。 だから、と言う訳ではないが、ガウリイは気まずそうに口を開く。 「一緒に旅をするのに理由は要らない。とは言った事あるが…」 「馬鹿か。ちゃんとした言葉てのはな、“好き”やら、“愛してる”て気持ちを伝える淀み無い言葉か、未来を見据えた言葉…つまり、“結婚”を匂わせる言葉の事だろ」 「あいつの実家に行きたい。てのは?」 「ほお?それはそれは、なのに振られた。脈なしだな、こりゃ。諦めろ」 「え???」 あまりにもあっさりと「諦めろ」を言われ、ガウリイの頭が真っ白に。 「ま、こんなもんか。戻るぞ」 ガウリイが気付くと、男は既に立っており、彼の頭をギュ〜と上から押していた。 「戻る?」 「町に決まってるだろうが。町の外れで野宿だなんて、冗談じゃねぇぞ」 日が暮れだし、薄暗い湖を後にし、二人は町に戻る。 「にしても…俺はつくづくテメェの冴えない顔に縁があるみてぇだな」 「るせぇ…」 男が釣り上げた魚を、酒の摘まみに、男二人は宿屋の食堂兼酒場で呑んでいた。 宿に着き、部屋を確保した男が、濡れた服を着替えたガウリイを、誘ったのだ。 「お〜ぉ〜、いっぱしに反論しやがったな?」 面白くなさそうなガウリイの表情に、男は逆になんだか嬉しそうに笑い、笑いながら言う。 「くだらない事考えるな。終わった話は、どうしようもねえんだよ。呑んで忘れろ」 「まさか…その為に?」 「馬鹿か酒がまずくなる顔を見てるのが嫌なだけだ」 グラスを傾けながら言い、ニヤリと笑う男は、顔が整っているのでなかなか様になっている。 「それなら、他の席に行く。それなら、文句無いだろ?」 「危なっかしいガキを、放っておける訳ねぇだろ?問題起こしたら、顔見知りで、責任ある年齢の俺が迷惑被るんだ。他に移動しても、追いかけるからな」 「オレだって良い年なんだ、おっさんには迷惑掛けねぇよ」 「るっせぇな。いいから呑め!半人前がいっちょまえな顔(つら)してんじゃねぇよ」 その言葉と同時に、強いお酒が入った瓶が、男からガウリイに押し付けられた。 ガウリイの手元には、グラスがあるが、男はそれを無視した。 黙ってその瓶に視線を落とすガウリイに、男は溜め息を吐いた。 「テメェを捨てた女が、どんなもんか知らねぇが、テメェがその事を苦にくたばった…なんて聞いて、喜ぶのか?女の事も考えろ」 「?!!」 「分かったら、忘れるこった」 ビクリと震えたガウリイの肩を見、男は静かに言い、黙ってグラスを傾ける。 その視線の先で、ガウリイが瓶から直接、酒を煽り始める。 いつしか夜も更け、既に酔うだけの量を呑んだのだが、ガウリイは酔えずにいた。 「忘れろたって…簡単に忘れられる奴じゃない…」 「当たり前だろうが、簡単に忘れる様な女に、命くれてやるか?時間掛かって当然だ」 ボソリと溢した彼に、男は鼻で笑い、 「どうしても忘れる事出来なかったら、俺の娘を紹介してやるよ。嫁さんに似た美女で、そんじょそこらの女なんか、忘れられるくらい強烈に良い女だ。ま、気に入られるか問題だがな」 と言い、また笑う。 普通、娘を紹介すると言う父親が、居るだろうか?疑問に思いながら、ガウリイは口を開く。 「おっさん、有り難うな。でもよ、何年先になるか分からないから、遠慮しとくよ」 「随分気の長い話だ。そうやって、延々引きずるのか?」 「死ぬまで覚えていたい位なんだ」 金貨を置きながら言い、ガウリイは立ち上がり、 「今日は、酔えそうに無いから、引き上げる」 「俺の部屋は、303だ。付き合ってやるから、いつでも来い」 「男と一つの部屋で過ごすだなんて、ぞっとするな」 掛かった男の言葉に、苦笑し、部屋へと向かった。 「悩める若者は大丈夫そうかい?」 残った男に、宿の主人が声を掛けたのは、ガウリイが居なくなってからすぐだった。 すでにどっぷり夜が更け、客は男のみ。他の宿泊客は、寝静まっている時間だ。 「おう、こんな時間まで悪いな。そうだ、ゼフィーリアのワイン、頼めるか?」 「そりゃ、あるが…もう閉めたいんだがね」 「いや、それなら問題ない。部屋でやるからな」 「そうかい。なら、良いんだ。少しお待ちを」 宿の主人が離れたのを確認し、男は苦笑いを浮かべ、溜め息を吐いた。 「手の掛かるガキなこった」 シンと静まり帰った町は、静かに夜が過ぎるのを待つのみ。 だが、今日の夜は、静かに過ごせないだろうな、と男は予想していた。 |
≪続く≫ |