スレイヤーズ2次創作のための20のお題

11 【探索】

「で、こんな所で浮浪者なんぞをしているのか、あんたは」
スラリと剣を抜き、ゼルガディスはその切っ先を、ガウリイの喉元に当てる。
殺気が無かったとはいえ、それを止め無かったガウリイに、ゼルガディスは更に怒りを感じた。
「あんたは、分からないのか!あいつが、何で、そんな行動に出たのか!」
「じゃあ、ゼルには、分かるのか?」
「少なくとも、あんたよりは分かっているさ!」
苦い表情のガウリイの喉から、一滴血が流れる。
力が入り過ぎたゼルガディスの手が、彼に向けていた剣に、その力を伝え、少しだけ傷付けたからだ。
「考えてもみろ!いくら、長年の仲だからといって、貞操を、簡単に投げ出す筈ないだろ!」
「……でも、実際、あいつは、」
「色気が欲しい。そんな理由、本気で信じてるのか?あんた!」
「なら、リナは……何で」
「これ以上の事を、俺が言う事は出来ん。自分で考えろ」
ガウリイの喉元から、切っ先を下げると、ゼルガディスは剣を鞘に収めた。
その後は、ただ静かな時が流れ、まるで互いが居ないかの様に過ごし、やがて、朝が訪れる。
腕組みしたまま、身体を休めていたゼルガディスは、素っ気ない声を、少し離れた場所に向ける。
「で、どうする?」
「探す。で、本当の事を聞く。想像は、自分の都合が良い方に、いくらだって出来る。ま、良くない理由だったとして、受け入れられるか、自信は無いけどな」
朝日を浴びて、自嘲気味に笑うガウリイは、晴れやかな表情をしていた。
「決めたか。なら、行くぞ」
「知ってるのか?!!」
端的に言い、立ち上がったゼルガディスに、ガウリイの驚愕の視線が注がれた。
だが、ゼルガディスは呆れた様に溜め息を吐く。
「誰が、あいつの所に行くと言った?そんなに会いたいなら、さっさと探しに行けば良かったんだ」
「リナに捨てられた。て思ってたから、会う勇気が持てなかったんだ」
「ふん!だがな、探し出した結果、あんたの望む答えが待っているとは、限らんぞ。本当に、あいつに見限られたかも知れんしな」
情けない顔で頬を掻いたガウリイに、ゼルガディスの追い討ちの言葉。
意地の悪い事を言った。とゼルガディス自身思ったが、彼女を任せられるのは彼だけだろう。と密かに身を引いたというのに、この事態。彼を奮い立たせたい気持ちもあったが、許せない気持ちもあり、つい言ってしまったのだ。
その言葉に、ガウリイの表情が曇る。
「折角人が決意したのに、嫌な事言うなよ……」
「それ位で挫けるのか?あんた達は、そんな簡単に見限る様な間柄だったのか?」
キツイ言い方になるのは、否めなかった。ゼルガディスは、ずっと、ガウリイが羨ましくて堪らなかった。彼女の信頼と信用を一番得ていた彼を。
だというのに、彼は、眉を下げた。
「そうじゃない、つもりだったけど、今は……」
「考えろ、あいつの行動理由を。それが、あんたへの、あいつの精一杯の言葉だ」
それでも、はっぱを掛けてしまうのは、彼にしか、彼女を救えないのだ。と、痛感しているからだ。自分が、彼女を見付け、支えになろうとしても、根本的な所を、支える事が出来ないと。
良くも悪くも、ゼルガディスと彼女は、系統が似ている。なので、彼女が何かしらを考え、今回の様な行動に出たのだと、簡単に予想出来る。そして、その決意は固く、容易に彼女の懐に、潜り込めない事も。
「あいつの……言葉。もし、ゼルが言う通りなら、オレは、それを聞かなきゃいけないな」
ゆったりと立ち上がったガウリイが、真剣な表情で、空を見上げた。
秋色に染まった木々の間から、流れる白い雲が彼の目に映る。
その彼に、白いマントを翻したゼルガディスが、声を掛ける。
「ぼさっとするな、行くぞ」
声に反応し、ガウリイは足早に、そちらへと向かう。
「アテでもあるのか?」
ゼルガディスの歩みが、何かの目的を持った者の、力強さを感じた。
今の、二人の目的は、“リナの捜索”である事は明白だったので、その質問は、ガウリイにとって、当たり前の事であった。
「アテは……まあ、無くは無いがな、今向かっているのは、直ぐそこのアナグルシティだ」
アナグルシティとは、今二人が居る森の近くにある、セイルーン領内の、小さな町。
森での野宿生活の合間に、必要な物を買うのに、ガウリイが、利用した事がある町であった。
「あそこで、何かしたのか?」
「あんたらの噂は、ここ2ヶ月程、聞いてない。あいつの噂さえだ」
「じゃあ、そこに何があるんだ?」
彼女を探すと決めたガウリイからしたら、彼女が寄った経歴の無い町など、興味は無いのであろう。不服と不審の混じったその声に、ゼルガディスは溜め息を吐いてから口を開く。
「俺がここに来たのは、そこの人間に頼まれたからだ。時折、ふらっと訪れる浮浪者が、不気味でならないから、なんとかしてくれ。とな」
「……もしかして、オレの事か?」
「だろうな。その依頼を受けたのは、一週間前。で、調査の為に、この森の近くにある幾つかの町に行けば、そこでも、浮浪者の噂だ。しかも、その噂の人相の人間は、様子は違うが、どうも知っている人物に思えて仕方がない。信じられない気持ちで、森に入り、2日経った昨日、その想像していた人物とばったり。と言う訳さ」
「……すまん、迷惑掛けた」
「全くだ。こんな怪しい人間に依頼する位だ、町の人間も、余程切羽詰まっていたのだろうな」
自嘲気味に口を歪ませたゼルガディス。
調べ物の為に寄った、小さなその町で、異形の身の彼に怯えながらも、依頼をしてきた町の人間を思い出したからだ。
溜め息を一つ吐いただけで、ビクリと震えられ、案内された町長の所では、町の規模に見合わない依頼料を提示され、と、彼自身仕方ない事だ。と分かっていても、少しだけ胸が苦くなるのだ。
その彼に、眉を寄せたガウリイが、自覚の無い問い掛けをする。
「そんなに怪しいかオレ?」
「手入れをされてない髪と髭、薄汚れた甲冑と衣服。それだけならまだしも、どこを見ているのかも分からない程ボンヤリした瞳、それが、いきなり鋭い視線で擦れ違った女性を凝視する。十分、不審人物に値すると思うが」
「あ〜…」
思い当たる事が多すぎて、ガウリイは頬を掻いた。
少しでも彼女と似ている部分がある女性を、つい見てしまう自覚はあったが、身なりに気を配らなくなった事には、今更気付いたのだ。
水浴び位は、気が向けばしていたが、髪も髭も放ったまま、服は洗っておらず、甲冑の手入れもずっとしていなかったと。
そんなガウリイを連れて、ゼルガディスはアナグルシティの町長の元へ、報告の為に向かった。
彼を連れて、町を去る事を伝えると、町長は安堵の溜め息を吐いた。
そして、ゼルガディスは直ぐに町を出て行く旨を伝え、町長の家を出、多すぎた依頼料の一部を取り出し、適当な麻袋に入れ、庭木の枝に下げた。
「さて、行くか」
「で、どこに行くんだ?」
薄く笑みを浮かべ言ったゼルガディスに、ガウリイは首を傾げる。
行き先について、ずっとゼルガディスは公言していなかったからだ。
「あんたは、もう少し思慮を働かせたらどうだ?」
ニヤリと笑み、ゼルガディスは踵を返し、町を南下する道へと向かう。
その横に大股で追い付き、ガウリイは口の端を上げて、口を開く。
「ゼルは厳しいなあ」
「今更な事を」
「まあ、親切だったら、気持ち悪いのは、確かだよな」
「違いない」
くっくっくっと、喉で笑い合いながら、二人の男は、町を出て行くのであった。
≪続く≫