スレイヤーズ2次創作のための20のお題12 【治癒】 |
「付き合え」 アナグルシティを遠く離れ、次の町まであと僅か。といった所で、ゼルガディスは、剣を抜き、ガウリイに、その切っ先を向ける。 一瞬目を見開き、瞬きを繰り返した後、ゼルガディスの真剣な表情に、ガウリイは、目を細めて頷いた。 草原を突っ切る街道を、二人は外れ、草原へと入る。 秋色に染まった草原に入り、ガウリイは剣を抜き、ゼルガディスと向き合う。 二人の間に、キンと冴えた風が流れる。 両者の腕前は、共に一流の域を越えている。ゼルガディスは、一流の剣の腕と、魔導。ガウリイは、剣のみだが、その腕前は、上級魔族に一太刀を浴びせられる程、冴えていた。 但し、ガウリイがその腕前を、維持しているかは分からない。どんな手練れでも、一日でも鍛練を怠れば、直ぐに、腕が鈍る。 森の中で、2ヶ月もの野宿生活をしていた彼は、護るべき相手を失い、鍛練をしていたのだろうか? 「腕は落ちていない様だな」 どこか残念がる様な響きを含ませた、ゼルガディスの言葉。 結末は、早かった。 腕を負傷し、剣を飛ばされたゼルガディスは、地面に座り込み、彼を見上げる。 ガウリイは苦笑を浮かべ口を開いた。 「情けない話だけどな、剣の腕を上げれば、リナが戻ってきてくれるかも。と思って、鍛練だけはしてたんだ」 「本当に情けない話すぎて、笑えないな」 ふんと鼻で笑ったゼルガディスに、ガウリイの苦笑が深くなる。 「だよな」 「大体、あいつと再会するのが怖かった癖に、戻ってきてくれるかもだと?矛盾しているだろうが」 「そう、なんだけどな……」 「支離滅裂な事を考える暇があったら、サッサと行動に移せば良かったんだ。無駄な時間を過ごした分、探し出すのは手間だぞ?」 「覚悟は、している」 痛みを堪えた笑みを浮かべ、ガウリイはゼルガディスを真っ直ぐ見た。 それは、彼の決意の強さを感じさせ、ゼルガディスは視線を傷口へと向ける。 「なら、良いがな」 そっけなく言い、彼は傷口に左手を当て、短い詠唱の後、力を解放。 『治癒』 傷は、血が滴る程深いが、大事な神経と腱を傷付けていない。 剣と剣との真剣勝負で、ゼルガディスが魔法を使わなかったとはいえ、一流の剣の腕を持つ彼に、ガウリイは、それだけの判断を、瞬時にやってのけたのだ。 それは、二人の決定的な実力差を物語っており、ゼルガディスを苦い表情にさせた。 傷が塞がるのを、見守っているガウリイの表情は、どこか遠い所でも見ている様に、目が細くなっている。 その彼の口が、懐かしむ様な声を発する。 「それ、暖かいよな」 一瞬声の方に目をやってから、ゼルガディスは無言のまま、傷口へと視線を戻す。 魔法を発動させているので、会話を返す事が出来ないのだ。 ガウリイも、反応を期待していた訳ではなく、只の独り言のつもりだったので、気にした風もなく、思い出し笑いを浮かべ、続ける。 「怪我した時、それで治してくれるんだけどな、不機嫌そうに文句言うんだ。だけど、なんか、気持ちが暖かくなるんだよな」 「この魔法は、対象者自身の治癒力を活性化させる呪文だ。その作用で身体が暖かくなる。それを勘違いしているんだろう」 独り言だと分かっていても、ゼルガディスは静かな声で指摘をしてしまった。 それ程、ガウリイの声に、痛みを感じたのだ。 が、そんな声の主は、それを小さく笑う。 「かもな」 剣だけが唯一の武器の彼は、どうしても接近戦になってしまう。 いくら超人的な剣の腕を持っていようと、相手が人外、しかも空間を、一瞬で移動してしまう相手では、怪我の一つや二つは当たり前になる。 そんな相手ばかりと一戦交えていたガウリイと彼女。 当然、怪我は絶えず、その度に、彼女は、「またこんな傷を作って!!」とプリプリ怒りながらも、しっかりと魔法を施してくれた。 治した後も、彼女は説教混じりに、無茶な注文を入れる。なんとか怪我を最小で抑える努力をしているガウリイに、もっと飛べ、だの、もっと身体を捻ろ、と。 その無茶が、到底無理なのは、彼女も分かっていながらも、彼女はそれを欠かす事は無い。それが、彼女なりの、心配の仕方なのだ。 「3ヶ月前に、キツイ戦いがあったんだ。その時の敵、知り合いでよ。そいつが、狂った原因がな、大事な奴が、つまらない理由で、死んだからなんだ」 彼女との事を思い出していたガウリイは、不意に口を開いた。 あの時の事は、今思い出しても、ガウリイを不快にさせる程、嫌な記憶として、刻まれている。 覇権争いで、助かる筈の命が、見捨てられ、一人の男を狂わせた。 そして、その狂気に囚われた男は、二人に世界を掛けた戦いを仕掛け、彼女の手によって、一生を終えた。 「多分な、その事で、責任感じていたんだと思う。あの二人に関わらなければ、て。で、その流れで、オレを巻き込んだ。て思い込んだんじゃないか、と思ってる」 ぼんやり言って、ガウリイは悲しそうに笑う。 「どんな理由なのか、なんて、本人に直接聞けば良いだろう」 治療を終えたゼルガディスが、溜め息混じりに言ったかと思えば…… ゴッッ!!と、ガウリイの左の脇腹に、硬い拳を、勢いよくぶつけた。 「うぉっ?!!!」 「これ以上、遅れる気か?行くぞ」 そして、涙目のガウリイに、背中を向けて、さっさと歩き出す。 暫く呆然とその白い背中を見ていたガウリイだったが、痛む脇腹に手を当て、 「今の、滅茶苦茶痛かったぞ、ゼル」 慌てて追い付き、ボソリと文句を言った。 それを鼻で笑い、ゼルガディスは口角を上げる。 「痛くなければ、意味があるまい?クラゲ頭を目覚めさせるには、あれ位しないとな」 暴力的な親切に、ガウリイは苦笑を浮かべ、そう言えば、あの黒髪の男もだ。と気付き、くっくっくっと、喉で笑い出す。 隣で、いきなり肩を震わせたので、ゼルガディスの仏頂面が、更に険しいモノに。 いつも以上に厳しい表情の彼に、ガウリイは笑いながらも、口を開く。 「痣になったら、消してくれよ」 「断る」 「それ位、良いだろ?」 余地の無い即答に、ガウリイの笑みが深くなる。 そちらを見ようともしないゼルガディスは、ふん!と鼻を鳴らし言う。 「それは、あいつの役目だ」 「そう……だよな」 頷いたガウリイの表情は、決意を露にしていた。 そして、何か良い事を思い付いたのか、ポン!と手を叩き、 「そうだ、アメリアに治して貰う為に、致命傷の傷を付けてやろうか?」 「なんで、いきなりアメリアが出て来る?大体、その場合、辿り着けないだろうが」 「遠慮するなよ。オレが責任持って運んでやるから。な?」 思いっきり嫌そうな顔をしたゼルガディスの左肩を掴み、ニヤリと笑った。 冗談っぽく言われたが、それを実行されては堪らないと、ゼルガディスは顔を青くして叫ぶ。 「大きなお世話だ!それに、知っているだろうが!俺は大きい街には入れないと!!」 「大丈夫だって。アメリアが……」 言葉の途中で、ガウリイの口が固まる。 その意味に気付き、ゼルガディスは頷いた。 「そうだ。セイルーンという大国の情報網なら、何か分かるかもしれん」 「セイルーンか……」 つい…と、ガウリイの視線が、遠くを見詰め、知らず溜め息が漏れる。 暫く二人黙って歩いていたが、次の町の案内看板が見えた所で、 「目的が定まったなら、俺は、別の道を行く」 ゼルガディスから告げられた言葉は、ガウリイにとって、思ってもいない事であった。 |
≪続く≫ |