スレイヤーズ2次創作のための20のお題

13 【かさぶた】

てっきり同行してくれるものだ。と思っていたガウリイに、ゼルガディスは非情にも、「別の道へ行く」と宣言をした。
慌ててそちらへ視線を送ったガウリイに、ゼルガディスは続ける。
「効率的に、情報を探すなら、それぞれ動いた方が良いだろう?」
確かに、そうだろう。手掛かりが全く無い今、より多くの情報を集める為には、別行動が好ましい。
ゼルガディスの言葉に納得し、ガウリイは素朴な疑問を口にする。
「ゼルは、どこに行くんだ?」
「ゼフィーリアに向かうつもりだ」
「……多分、そこにリナは居ない。何となくだけどな」
返って来た言葉に、ガウリイは、鉛の様な重みを心臓に感じた。彼女を探すと決めたが、それでも、その地名に、苦しさを感じるのだ。
だが、何となく、彼女はそこに居ないだろう。と感じているのも確か。
ガウリイが、寂しそうな笑みを浮かべると、トン!と彼の胸板を、ゼルガディスが軽く叩き、口を開く。
「あんたが言うなら、そうなんだろうな。この身体を戻す為の、旅のついでだ。それに、ゼフィーリアの田舎町までが、せいぜいだしな」
「そっか」
「道すがら、手掛かりを見付けたら、あんたに知らせる」
胸板を叩いた拳を開くゼルガディス。
その手の平には、緑色のオーブが一つ。
「通信用の道具だ。何か情報があった時は、これで知らせる」
「助かる」
「で、そっちが見付けたら、これを、あいつに渡せ」
ガウリイがオーブを手にすると、ゼルガディスは懐から古びた羊皮紙を取り出し、人差し指と中指で挟んで持ち、ガウリイの目の前に翳した。
「それを使う為の資料だ」
「随分古いな……」
「レゾの残したものだからな。言っておくが、それは返して貰うぞ」
「おう」
ピッ!とゼルガディスの指から、羊皮紙を抜き取り、ガウリイはオーブと一緒に、荷物袋に突っ込んだ。
「じゃあな」
「ああ」
別れは、呆気ないもので、片手を挙げ、別の道へと進んだゼルガディスを、ガウリイは一瞬だけ見送り、直ぐに視線を前へと向けた。
彼女を早く見付ける事こそが、尻を叩いてくれた彼に対する、お礼になる。と信じて、前へ、前へと、足を動かしているのだ。
先を急いでいても、情報を求める事を、ガウリイは忘れていない。
余り時間を掛けられないが、どの町でも一番情報が手に入るのは、酒場だ。そこに行き、情報を聞く。
そんな日々を過ごす中、中には彼女と名前の響きが近いだけだったり、容姿が少し似ているだけの人物の情報に会う事も。
その情報に、踊らされる度、期待は裏切られ、ガウリイの心の見えない傷を抉る。
その傷は、彼女が去った時に出来たもので、かさぶたにはならず、いつも晒されたままだ。
それを意識する時、ガウリイは実感してしまう。彼女は、何も言わずに消えてしまった。という事実を。
半月経ち、セイルーンの王都を目前にし、ガウリイは人知れず溜め息を吐く。
というのも、彼女に関する情報が、今まで出て来なかったからだ。
結界に囲まれたこの世界。決して広いとは言えないが、人一人を探すとなると、途方もなく広く、探している方向が間違っている可能性もある。
情報が無いという事は、方向を間違っている可能性は、更に濃く、ガウリイを、焦燥に駆り立てるには、十分であった。
ガシガシと頭を掻いて、歩き出そうとしたガウリイに、声が掛けられた。
「ガウリイ……様?」
戸惑いがちなその声は、今のガウリイにとって、一番聞きたくないものであった。
「ガウリイ様ですわよね!?」
聞こえなかった振りをして、立ち去ろうとしたが、相手の方が、早かった。
驚きの混じった声を発したと同時に、ガウリイの腕を掴み、彼の足を止めさせたのだ。
「シルフィール……久しぶりだな」
「ええ……」
渋々足を止めたガウリイの前に立ち、心配そうな表情をしたのは、シルフィール・ネルス・ラーダ。
神官服に身を包んだその人物が、ガウリイに想いを寄せている事は、公然の秘密となっている。
その彼女、普段はサイラーグの再興の為に尽力しており、時折、神官の勉強の為に、セイルーンの親戚の元へと訪れている。
今回も、そんな道中であった。で、街中で、見知った後ろ姿を見付けた。声を掛けようとし、よくよく見てみると、甲冑は薄汚れているし、髪の艶もくすんでいるのに気付いた。
そして、腕を掴んでまで振り返らせると、その顔には、色素の薄い髭が伸びているので、更に驚く事に。
風貌がすっかり変わってしまったガウリイと、側に居るはずの彼女が、見受けられず、シルフィールは、ガウリイの事を案じた。
「所で、何かあったのですか?一瞬、別人かと思いましたわ」
「ちょっと…な」
「リナさんが居ない事に、関係あるのですか?」
「まあ……」
曖昧に答えを濁すガウリイに、シルフィールの心にある、かさぶたが疼く。
ガウリイが、彼女しか見ていない事は、痛い程分かっていた。
そして、彼女も悪からず想っている事も。
短い時間だが、共に居てシルフィールは気付いた。彼女には適わない。と。
それでも、最後の足掻きにと、ある戦いの後の、旅の区切りに、その後の予定を、ガウリイに問うた。
その答えは、彼女と共に生きる。という意思を、さりげなく見せ付けられる。という優しくも、残酷なものであった。
その後の二人の関係は、シルフィールの元まで届く噂には、全く含まれていなかった。
それでも、次に二人に会う時は、きっと、自分の想いを断ち切る事が出来る程には、変化しているのだろう。と、諦めと同時に、期待もしていた。
月日が経つにつれ、別れの時に、傷付いた心に、かさぶたが出来、二人の事を祝福出来る心の準備も出来た。というのに、再会出来たのは、思慕を寄せていた彼一人。
期待は裏切られ、中途半端な想いが、かさぶたの奥から、芽生え様としてくる。
だが、その想いは、決して芽吹く事は無い。と、ガウリイの態度が、語っている。
中途半端な失恋をしたから、諦めが付かない。それならば、いっそ……。
数秒無言で、ガウリイを見詰めた後、シルフィールは、口を開く。
「ガウリイ様は、一度でも、わたくしを、一人の女性として、見て下さった事、ございますか?」
いきなりの、話題の変化に、ガウリイは鈍い痛みを感じた。
今のシルフィールは、まさに、今の自分と同じなのだ。宙ぶらりんな想いを持て余し、前に進む事が、出来なくなってしまっている。
放って置けば、その内に、新たな相手を見付けるだろう。と、敢えて断言を避けていたが、その残酷さに気付くと同時に、シルフィールの一途さを、可愛いとも感じた。
「君は、十分魅力的だと思う。女性として、非の打ち所が無い。けど、オレが、あいつじゃないと駄目なんだ。すまん」
「いえ。はっきりおっしゃって下さって、有り難うございます」
分かっていた事だが、それでも、はっきりと言葉を聞いたシルフィールは、やっと解放された想いに、すっとした気持ちで微笑みを浮かべた。
「何があったのか、おっしゃらなくて結構ですわ。ですが、お手伝い出来る事があれば、遠慮なくおっしゃって下さい」
「いや……アメリアの力を借りに行く途中なんだ」
「まあ!!アメリアさんの?!なら、もう少し、恰好をしっかりなさって下さいな!いくら、王宮に顔が効くとは言え、その恰好はあんまりですわ!」
セイルーンの王女の力を借りる。それは、事態はかなり深刻だと、予想するのは容易く、シルフィールは一瞬驚き、そして、ガウリイの身嗜みが、それには相応しく無い事に、目くじらを立て、ガウリイを近くの宿屋へと引っ張っていった。
≪続く≫