スレイヤーズ2次創作のための20のお題

14 【セイルーン王宮】(番外編)

ガウリイが王宮を出てから、暫くして、アメリアの元に、1人の客が訪れた。
「お久しぶりです」
艶やかな黒い髪は、腰の中程まであり、淑やかに微笑む姿は、同性さえも見惚れる程。
客は、短い期間だが、アメリアと共に、旅をした仲間の、シルフィールであった。
「久しぶり。元気そうね」
彼女と向かい合っているのは、アメリアの自室。
まだ公務が残っているが、休憩しようと思っていた所、彼女の訪問があり、こちらに招いたのだ。
「アメリアさんも」
「でも、身体が鈍ってるのよ」
「ふふ、わたくしもですわ」
紅茶を片手に、他愛ない事で談笑。一般の人間なら、どうて事ないが、アメリアにとって、貴重な相手である。
なので、セイルーンに居る間は、必ず寄って貰う事にしてある。
「……それで、お話が変わるのですが……」
シルフィールは、思い切った様に、真剣な表情を浮かべ、アメリアを見、続ける。
「ガウリイ様が、いらっしゃいましたわよね?」
「ええ。どこで、それを?」
疑問ではなく、確認の言葉に、アメリアの表情が、強ばった。
連絡を寄越したゼルガディスの話と、実際の相違点を、思い出したのだ。
鈍くなっていた筈の金髪は、触り心地良さそうに艶やかで、汚れていたという甲冑は、綺麗に磨かれていて、薄汚れていた身体も、綺麗になっていた。
それは、誰かが、手を加えたのでは無いか。と、思ったのだ。
そして、その誰かは、目の前に居る人物では。と。
「叔父様の所へ、行く途中に出会い、直接お聞きしましたの」
外れて欲しかった予想が、微笑みで肯定され、アメリアは内心苦い気分になった。
シルフィールの、彼への想いは知っている。
だが、彼の身なりに苦言するのは、失踪中の彼女を、軽んじた行為に、アメリアは感じた。
「シルフィールさん、貴女の気持ちは知ってるわ。だからと言って、ガウリイさんの身なりに、口出しする権利は、無いと思うのだけれど?」
厳しい事を言っている。と自覚しながらも、アメリアは、言わずにはいられなかった。
例え、シルフィールに、彼女の代わりになろう。という意志がなくとも、その行為は、許せなかったのだ。
「ガウリイ様のご様子、知ってらっしゃったのですね。なら、余計な事を、してしまいましたわ」
暫く呆然としていたが、シルフィールは、苦笑を浮かべた。
そして、微笑みへと変える。
「王宮を訪問するには、相応しくないと思い、身綺麗にしてしまいましたの。他意はございませんわ」
「そう……キツイ言い方して、ごめん」
わざわざ他意が無いとまで、言わせた事に、アメリアは、先程の自分の言葉が、過ぎた行為だった。と気付き、頭を下げた。
そして、ただ自分を訪ねる。その為だけに、気を使わせてしまう、自分の立場を、この時だけは、悔やんだ。
だが、その立場があるからこそ、ガウリイが、アメリアを頼ったのも、事実である。
「いえ。それに、わたくし、正式に振られましたから」
「えっ?!!」
笑顔のまま、告げられた言葉に、アメリアは、驚きの表情で、そちらを見た。
清々しい笑顔が、そこにはあった。
「リナさんが、不在の時に。と思われたら、仕方ないのですが。気持ちに、区切りを付けたかったのですの」
「そう……」
「そんな事よりも、リナさんの事ですわ。情報は、あったのでしょうか?」
返す言葉に、アメリアが困っていると、シルフィールは、微笑みを無くし、本題に戻した。
それに、首を横に振るアメリア。
「まったく」
「……そこまで、深刻なのですわね。ご家族は何と?」
「それなのよね……」
家族という単語に、姉と名乗る人物からの、手紙を思い出し、アメリアは頭痛を感じた。
彼女の失踪を、知っているのは良い。良くも悪くも、噂が絶えない人物であったから。
が、半年で探し出せ。という文面の、意図が分からない。
その間、動かないという彼女の家族は、彼女の、失踪理由と、居場所を、知っているから、悠長に構えているのかも、知れない。
漠然と予想しながらも、アメリアは、その手紙の内容を、シルフィールに伝えた。
「春が終わるまで……何が、あるのでしょう」
「え?」
恐らく、考えている事を、そのまま口にした。と思われる、シルフィールの言葉に、アメリアは、大きく目を見開いた。
「ただの、憶測なのですけれど。春が終わる頃に、何かがあると、リナさんのお姉さんは、思っていらっしゃる様に、思いますわ」
「……シルフィールさん、鋭い」
思ってもみなかった角度からの、シルフィールの憶測。
それが、当たっている。と、何となく感じ、アメリアは感嘆の溜め息を吐いた。
すると、シルフィールが、首を横に振る。
「いえ、リナさんは、良く騒動に、巻き込まれていますから、そう思っただけですわ」
「でも、多分当たってる」
「アメリアさん、ダウジングしてみませんか?」
表情を固くしたアメリアに、シルフィールは、穏やかに提案した。
だが、アメリアの表情は固いままで、首を横に振る。
「駄目だったわ。探索もね」
「探索は、プロテクトで防げますが、ダウジングまで?」
「一応、反応がある所、幾つかあったのよ。近くの魔導士協会の人に、確認して貰ったんだけど、どれも外れ」
驚きを隠せないシルフィールに、アメリアは疲れた表情を見せた。
出来る手だては、全てしたが、その全てが、空振りに終わったからだ。
精神世界での探索、魔導士協会への問い合わせ、ダウジング、占いに至るまで。
セイルーンの情報網にも、彼女の姿はなく。
最後の頼みの綱である、身内からの手紙は、安否を語る物でなかった。
為す術が断たれた事を、思い出し、アメリアは、不安に押し潰されそうになった。
「ガウリイ様を、信じましょう」
カップを握る、アメリアの手を、ふわりと握り、シルフィールは、力強く言った。
「それは、勿論……」
ガウリイを信じる。それは、アメリアにも判る。今は、それしか無いと。
現に、信じている。だが、それで、不安がなくなる訳ではない。
それを感じたのか、シルフィールが、更に言葉を足す。
「では、ガウリイ様に祈りましょう。リナさんを、見付けて頂ける様に。と」
「ガウリイさんに?」
祈るなら、スィーフィードじゃないだろうか?と素朴な疑問を、シルフィールに向けるアメリア。
だが、あっさりと、頷き返される。
「ええ。リナさんの発見を、誰よりも望み、その為に、尽力を果たしているのは、ガウリイ様ですもの」
「スィーフィード様に、叱られるわ」
苦笑を浮かべたが、それが一番だ。とも思えた。
祈りの形で、手を組み、2人は祈った。
あの2人の再会と、待ち受けている“何か“が、良い事である様にと。