スレイヤーズ2次創作のための20のお題

15 【残り時間】

待ちに待った人物からの連絡は、驚く内容であったのと同時に、アメリアを落胆させた。
自分を頼って欲しいのに、やっときたと思った連絡が、仲間を心配する内容であったからだ。そっけない癖に、意外と面倒見が良い、彼らしいと言えば、そうなのだが。
そして、それで聞かされたのが、リナの失踪と、変わり果てたガウリイの様子。
だが、実際現れたガウリイは、若干鈍くなったものの、艶のある金髪は整っており、服は大分汚れているが、甲冑は綺麗なもの、目を見張る変化と言えば、顎から伸びた、色素の薄い髭だけ。
「それは、5日前に届いたの」
封筒を手にし、硬直したガウリイに、アメリアはそう告げた。
ゼルガディスの連絡から一週間経った頃、不意にそれは来た。
彼女の姉だ、という差出人は、簡単な挨拶と自己紹介の後、ガウリイが訪れたら、渡して欲しい。とだけ書いた紙が、封筒と同封してあった。
リナの行方が記されているのか、と、開封してみたかったが、それは止めた。その方が、良い気がしたからだ。
目の前で、震える手が、その封筒を開封する。
暫く経って、読み終わったであろうガウリイを、アメリアは、息を飲んで凝視していた。
その視線に、ガウリイが顔を上げ、力無い笑みを浮かべる。
「半年以内に探し出せ。とさ。で、もし探し出せなかった場合、オレは、あいつに会わせて貰えなくなるみたいだ」
封筒に入っていたのは、アメリア宛ての手紙にもあった、簡単な挨拶と自己紹介、そして、
‐こちらが動くまでの猶予は、春が終わるまで。
それまでは、貴方に一任します。
その後、こちらが発見した場合、貴方とは会せるつもりが無い。と思って下さい。‐
とあった。
「半年……いくら何でも……」
何の情報も無い今、そんな条件は、かなり短く、無茶な物。その非情さに、アメリアが、掠れた声を漏らした。
「最後まで足掻いてみるさ」
ゼルガディスと別れたのは、二週間前。彼女の実家から、このセイルーンに手紙を出すと、三週間は掛る。手紙が着いた時期から計算すると、ゼルガディスと出会う前に出された事に。
では、彼女が消息を絶ったのを、どうやって知ったのか?やはり、あの黒髪の男は、リナの父親なんだろうか?
だとすると、この手紙は、もっと早い時期にアメリアの元に届いている筈。
そして、何故半年という期限なのか?
様々な疑問が生まれるが、ガウリイは今すべき事に目を向け、手紙を畳んだ。
「わたしも、精一杯探してみるわ」
「助かる」
アメリアの有難い申し出に、頭を下げるガウリイ。
そっと近寄ったアメリアが、その背中を一撫でし、
−バッチン!
と平手を決めた。
「水臭いわよ。わたしも、ゼルガディスさんも、2人の事を心配しているんだから」
「有難うな。なら、早く見付けないとな。フィルさんに宜しく伝えてくれ」
「ええ。吉報待ってるわ」
にっこり微笑んだアメリアに、小さく頷き、ガウリイは背を向けた。
王宮を出ると、日は中空より西にあり、ふわりと薫ってくる匂いは、お茶と何かの甘い匂い。
穏やかな街を、とりあえず南へと向かった。
王宮を出てからずっと、まるで誘う様な視線を、そちらから感じたからだ。
暫くすると、その気配が、首都から外へと繋がっている道の端で止まる。
そこに立っていたのは、マントと膝まで届きそうな黒い髪を風に靡かせ、切長の黒い瞳を持った、かなり背の高い知的な美女。特筆すべくは、悩ましげな身体を、申し訳程度に隠す布と、鋭い棘をいくつも付けたショルダーガードに、首にはドクロの付いたネックレス。
まず、関わり合う人種では無い。と思いながら、間合いをとって、ガウリイは足を止めた。
相手からは、物騒な気配は感じられない。自信に溢れた微笑みは、どこか彼女を思い出させる。盗賊と対面している時の彼女と、表情が似て見える。
「勘は悪くないみたいね」
まるで、値踏みするかの様に、上から下まで見つめてくるが、商売女の様な、嫌な感じではない。面白がっている。と表現した方が良さそうな感じさえする。
ますます、盗賊を相手している時の彼女と、雰囲気がそっくりだ。とガウリイが、内心思っていると、相手が自らの髪を掻き上げた。
「このまま、南に行きなさい。あの娘、極度の寒がりでしょう?きっと、暖かい地方に居る筈よ」
「あんた………?」
掠れた声になるのは、否めなかった。切望している相手は、確かに酷い寒がりで、冬場は、細い身体が嘘の様に、丸々と着膨れるのだ。
彼女と雰囲気が似ているその女は、腰に手を当て、胸を張り、顎を上げた。
「愚問ね。それを知って何が変わるのかしら?リナを探している貴方には、その手掛りだけで十分でしょう?」
確かにそうなのだが、自分が彼女を探し求めている事を、何故知っているのか?
それとも、誰しもが知っている事なのか?リナの姉といい、目の前の女といい、図りしれない物を感じ、ガウリイは冷や汗を流す。
「あいつを、知っているのか?」
「食い意地張ってて、金勘定は汚い、口も早いけど手も早い、強引な手段で終らせた依頼は数知れず、盗賊からのみならず時には一般人にまで恐れられ、胸が小さいからか許容が狭い、その癖態度はでかい、それから…」
「いや、もう十分だ」
指を折りながら、次々と出て来るのは、確かに彼女そのもので、まだ続きそうな相手を、ガウリイは止めた。
彼女を良く知っているのが、良く分かったからだ。悪口を並べている癖に、目の前の女性は優しげな笑みをうっすらと浮かべていて、悪からず思っている事を、物語っている。
それは、寒がりだというのを知っている時点で、かなり親しいのだろう。と予想出来たが、予想以上であった。
「誰だか知らんが、助かった」
「ふん。このままじゃ、人生に張り合いがないもの。当然の事をしたまでよ」
軽く頭を下げると、軽い足音をさせながら、相手が近寄って来て、
「必ず見付け出しなさい。ガウリイ・ガブリエフ」
擦れ違いざま、ぽそりと言われたのは、間違いなく自身の名前。
慌てて振り返ると、女性は後ろ手に手を振り、そのまま何もなかったかの様に、街へと消える。
自分の名前を知っていた事に驚きながらも、彼女と、どういった関係なのか、酷く気になるが、ガウリイは、セイルーンに背を向けたまま、歩き出す。
かつての仲間である巫女と神官、そして名乗る事のなかった女性の、ひっそりとした祈りを背負い。
旅は、相変わらず困難を極めた。
先を急ぐ為に、野宿が続き、情報は何も入ってこない。今までは目的地があったので、一直線に進んでいた工程は、取り溢しがない様に、出来るだけ多くの町等に寄る為、かなり蛇行していた。
季節は、追い込む様に冬になり、ガウリイを急き立てる。
寒さに強いものの、どうしても足は遅くなり、進める距離は短くなり、野宿が困難になってくる。
早く追いつきたい気持ちと、決められた期限に、焦りは積もっていく。
そんなある日の、寒さの厳しい日の、夕暮れに染まる村。
いつもの様に情報を求め、ガウリイは酒場へと足を伸ばした。
が、そこでは、何の手掛りもなく、疲れた足取りで宿屋へと向かう。
道すがら、すれ違う人間に、姿絵を見せてもみるが、足早に過ぎ去るばかり。が、
「おや、この娘さん」
体型が丸いのか、着込んでいるのか分からないが、背の高い老婆が、その絵を見て、足を止めた。
細い細い手掛りの糸が、ガウリイの手元に、やっと伸ばされたのだ。
それを、残る時間の内に、手操り寄せられるのかは、ガウリイ次第。
≪続く≫