スレイヤーズ2次創作のための20のお題

20 【閉鎖】

無邪気で、素直な、あの幼女が、彼女と血縁関係であるのは、その面影で判る。
5ヶ月程前、確かに初めてであった彼女と、あの幼女では、幾ら何でも、親子関係であるとは、ガウリイには思えない。
「なあ、もしかして、あの子の事、気にしてるのか?」
「それも、ある」
「両親は?」
「………」
歯切れの悪い彼女。聞かれたくない事を、聞いてしまったのか、口を閉ざしてしまった。
暫く、無言で向き合っていると、彼女が、観念した様に、口を開く。
「あたしと、あんたよ」
「へ?!え゛え?!!」
予想もしていなかった事実に、ガウリイは大袈裟に後退った。
疑惑の視線が、彼女に向けられる中、彼女は痛みを堪える表情を浮かべた。
「賭けは、勝ったんだけどね、ここに来てから、体調おかしくって」
勝ったと聞き、ガウリイの視線が、おのずと、細い腰に向けられる。
「もともと、予想してたのよ。身体の事があったから。だから、準備してたのよ」
「何を?」
「コピーホムンクルスを製造する設備。で、医者と相談して、出産の日を決めた。で、その設備に、あの子を入れたの」
「???」
「製造技術応用して、成長させたのよ。上手くいくかどうか、賭けだったけど。でね、考えたんだ」
言葉を切る彼女。
誘われる様に、ガウリイは、視線を合わせる。
そして、彼女が苦笑を浮かべた。
「この先、何年生きられるか、分からないから。あの子が、一人でも生きられるだけ、成長させ様。て」
「だから……」
「そう言う事」
「なら、尚更だ。一緒になろう。パパを、海から出してやれよ」
ストンと、胸のつっかえが取れ、全て納得出来、ガウリイは、男として、決めるべく言い、両手を広げた。
「駄目よ。あんたを、幸せに出来る自信、ないわ」
「リナ」
「駄目よ」
穏やかな呼び掛けに、力なく頭を横に振る彼女。
さすがに、堪忍袋が切れ、
「たくっ!!」
乱暴に、彼女の腕を捉え、唇を合わせる。
そして、そっと抱き締めた。
「幸せにして貰おうなんて、思っていない。リナと一緒になりたいだけなんだ」
「良いの?」
「良いも悪いもない。オレが、そうしたい」
「有難う」
おずおずと伸ばされた、細い腕が、背中に回され、ガウリイはホゥと、溜め息を吐いた。
「めでたしめでたし?」
幼い声に、2人が慌てて離れると、部屋への入口に、幼女が立っていた。
「おう。ママのキスを貰って、呪いが解けた。オレが、君のパパだよ」
「パパ?」
にっこり笑って言ったガウリイに、幼女は不思議そうな顔を、彼女に向ける。
赤らめた顔で、優しい笑みを浮かべた彼女が、一つ頷くと、幼女は、ガウリイに近寄る。
迎えるべく、膝と腰を折り、視線を合わせたガウリイ。
小さな手が、大きな顔を、ペタペタと触れる。
「くらげさん、パパなの?」
「ああ。悪い魔法使いに、呪い掛けられて、パパだ。て忘れてたんだ。悲しい思いさせて、ごめんな?」
「リィナね、かなしくなかったよ。パパ、うみだから、うみいたの」
キラキラと見上げていた幼女が、ガウリイの瞳を指差す。
その、幼い発言に、ガウリイは問い掛ける。
「リィナ?」
「そうだよ。リィナ。のろい、まだあるの?」
「みたいだ。解く為のキス、貰えるか?」
顔を下げ、目を瞑ると、小さな口付けが、送られる。
目を開くと、額がくっつきそうな程近くに、小さな顔があり、ガウリイに、笑みが広がる。
「ああ、思い出した。リィナだ。何で、忘れていたんだろうな?」
「のろいでしょ?」
不思議そうな幼女を抱き締め、「ただいま」と言うと、「おかえりパパ」と、腕の中から、返ってきた。
「ママ、おひめさま!」
「有難う」
春の、ある晴れた日、古い神殿に、3人は居た。
白いドレス姿の母親を、リィナがキラキラとした目で見、そんな2人を、ガウリイは目を細め、見ている。
「リナ、夏になったら、船が来るんだろ?両親に、挨拶させてくれるか?」
「いきなり、こんな所連れて来て、何するのか、と思ったら、こんなの用意してたなんてね」
ガウリイの言葉を無視し、いや、恥ずかしいのだろう、わざと話題を反らし、文句を言う彼女。
目隠しで、ここまで連れて来られ、着替えてくれ、と包みを渡された結果が、今の状況である。
「本当は、ちゃんと挨拶してから。て思ったんだけどな、リナとリィナ、2人の事に、早く責任が持ちたくてな。嫌か?」
「嫌だったら、着てないわよ」
「そっか」
拗ねた様な表情と声に、ガウリイはおかしそうに微笑み、右手を差し出す。
「リィナ、手を繋ごう」
「うん!」
立派なドレスの彼女とは違い、少しだけ着飾った2人が、手を繋ぎ、
「リナ、そっち」
「え?何か、変じゃない?」
言いながら、リィナの右手を、彼女の左手が取る。
「かもな」
「たのしいね」
「もう……」
賑やかに、神殿の中に進む3人。
長椅子の並んだ礼拝堂は、シーンと静まり返っていて、3人の靴音を響かせる。
「神官が、居ないけど?」
「要らない。これは、オレのケジメだから」
一つの影もないそこに、不信そうにした彼女に、ガウリイは力強く言って、神像を見上げる。
この地に来たのは、冬の名残があった頃だった。
出産・手術の後、彼女が、忙しさの余り、経過を見ていない。と知ったガウリイは、彼女が休める様に、仕事を見付け、生活の基盤を作った。
そして、その間に考えていた企みを、今日実行に移したという訳だ。
ガウリイと彼女の足が止まり、遅れて、リィナの足も止まる。
「オレの幸せは、自分で得る。その為には、リナもリィナも、必要なんだ、側に、いさせてくれるか?」
神像の前での、ガウリイの誓いに、
「パパ、もう、うみ、いっちゃだめ!」
メッ!と怒った口調で、リィナは返し、
「物好き」
彼女は、困った表情を浮かべた。
「今更だな」
苦笑を浮かべ、ガウリイはしゃがみ、愛しい娘の額に、キスを送り、微笑む。
「誓いのキスな」
「リィナも!」
「おう」
有難い言葉に、頭を下げると、精一杯、背を伸ばしたリィナから、額にキスを貰い受け、ガウリイは、小さな頭を撫でる。
「じゃあ、次は、ママとだな」
悪戯っぽく笑い、見上げると、彼女はアタフタと焦り始める。
「え?いや、そんな……」
「ママ、パパ、きらい?」
キュゥ!と、精一杯の力で、彼女の左手が握られ、
「リナ」
いつもと違い、低い場所から、真剣な眼差しを向けられ、彼女が、赤い顔で、観念した。
「分かったわよ!もう!」
しゃがんだままの、広い肩に、細い指が置かれ、額に口付け……
の筈が、急に、首を伸ばしたガウリイ。唇同士が合わさり、
「らぶらぶ〜♪」
嬉しそうなリィナの声が、無邪気に礼拝堂に響く。
「ガウリイ!」
「ははは!」
硬直から抜け出し、叫ぶ彼女に、ガウリイは楽しそうに笑い、礼拝堂は更に賑やかに。
−コツ
その音に、ガウリイの笑いが引き、そちらに視線を送る。
釣られて、彼女も。それに続き、リィナも笑うのを止め、そちらに向く。
「全く、ヒヤヒヤさせおって」
地に付かんばかりの、白い髪と髭、法衣を身に纏い、曲がった背骨を、太い杖で支えた老爺が、礼拝堂の入口に居た。
「じいさん、一体?」
その人物が、導いてくれたのだ。と瞬時に理解し、ガウリイは不思議そうな表情をし。
その隣で、彼女が、うわ言の様に、口を開く。
「ラウディじいちゃん」
「だぁれ?」
目をパチクリとさせたリィナに、老爺は、ニィッと笑う。
「お主らに、祝福じゃよ」
声と共に、姿は掻き消え、天井から、光と、花びらが舞い散る。
夏と冬の限られた期間しか、解放されないこの島は、閉鎖されているのに、それを感じさせない程、穏やかで、明るい。
そんな今を作ったのは、彼女と、先程の老爺。
「諦め悪いのは、血筋かの」
楽しそうな、老爺の呟きは、澄んだ青空へと、白い鳩に乗って、運ばれて行った。
≪完≫