【物騒美人五題】

◆◆ 一言が命取り ◆◆
「そっか、フィリアって、デッカイとかげの偉い人の仲間なんだな?」
無駄に整った顔で、ガウリイは邪気も無く笑ってみせた。
が、次の瞬間、その笑顔と共に、大きな身体は、青空を流れるお星様になる。
金髪を靡かせ、飛んでいった彼を、リナ達は呆れた顔で見送り、
「トカゲなんて失礼な事、言わないで下さい!!」
人を空高くまで打ち上げたモーニングスターを、追い撃ちで空へと投げた金髪の女性が居た。
スカートからリボンの結ばれた尻尾が、はみ出ているが、風に靡く綺麗な金髪、巫女らしく清楚な整った顔に、同性さえも見惚れてしまう体系の彼女は、だれしもが認める美人と言えよう。
そんな彼女は、普段は、楚々とした人物なのだが、機嫌を損ねると、鈍い光を持つ、トゲトゲの鈍器を振り回してしまう、お茶目な一面を持っている。
コッソリ見ていた、某陰険・中間管理職が、「ガウリイさんも、やりますね」と悔しがっていたとか、いなかったとか。
◆◆ 睨まれるのも一興 ◆◆
「彼女、時間ある?」
「そうだな……あんたを不能にする位なら、時間はあるかもな」
見知らぬ男に声を掛けられ、振り返ったその蒼い瞳が、ギラリと光った。
いつもは風に靡かせている金髪は、今は緩く三つ編みにされ、手首まである白いブラウスは、戦士の筋肉を隠し、脛まで届くスカートが、皮肉な程似合っているその人物は、今日何度目とも分からぬナンパ男に、生き地獄をお見舞いしてやった。
そして、グリッと首を回し、そちらを睨む。
「お前ら!覚えてろよ!!」
しっかりメイクされたその顔で、睨まれたのは、
少し離れた所から、ニヤニヤ笑って、ずっと見物していた少女二人。
「美人に睨まれるのって、何だか来るわよね」
「大丈夫ですよ、ガウリイさん!十分綺麗ですから!!」
背筋を走った震えに、身体を震わせたのは、”女装中の彼”の相棒リナ。
そして、慰め所か、追い討ちを掛けたのは、セイルーンの姫君のアメリア。
そんな二人が結託し、種が仕込まれたカード遊びの、罰ゲームの風景である。
◆◆ その顔が堪らない ◆◆
「んふふふふvリナ?どういう事かしら?」
ご近所でも、美人で有名な彼女の、極上の笑顔。
それは、その彼女の妹に、堪らない恐怖を感じさせるものだった。
◆◆ 崩れる鉄壁 ◆◆
その女性は、気高い心を持っており、その人徳は深く、感性の低い人間には理解しがたい現象さえも、簡単に成し得てしまう感性の良さを持っている。
流れる黒髪は、ビロードの様に艶があり、すらりと伸びた身長に、悩ましい程抜群なプロポーション、切れ長の目は、知性を感じさせ、形の良い唇と、火の打ち所が無い完璧な彼女は、いつも自信が溢れた表情を浮かべているのだが、一つだけ弱点があった。
血を見ると、繊細な彼女は、倒れてしまうのだ。
「つうかさ、何?この嘘ばっかの本。こいつは弱点ばかりでしょうが」
《高貴な彼女》という、本を手にした、”彼女”を良く知る少女は、執筆者に切々と訴えるが、”彼女”を崇拝している女性に、届く事は無い。
◆◆ 気まぐれな君 ◆◆
「あの方を語るだなんて畏れ多い……噂話だって、出来やしない」
と語るのは、北のどこかの山に、氷漬けになっている、紅い瞳の青年で、その表情は、何故か恐怖に怯えている。
「あの方程、美しい者は居ないだろうな」
とは、野性的な美女の言葉。
「名前を口にする事さえ、許されないお方ですわ」
とは、深い藍を纏った美女の。
「偉大なるお方だ」
とは、最近仲間に姿を見なくなったと噂されている御仁。
「語る事なんか、何も無いよ」
とは、かの方に歯向かい、消滅させられた者の言葉。
「理解しようてのが、どだい無理な存在だろ」
とは、やさぐれ、自ら道を踏み外した男の言葉。
「そうですねえ。皆様がおっしゃられた通りなので。付け加えるとしたら、とても、気まぐれなお方だとしか、僕には言えません」
とは、いつも笑顔が取り柄の青年の言葉。
彼等が言う”あの方”こそが、全ての物語の始まりであり、終わりである。