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【白の日】

‐前編‐

聖王都セイルーン。
街の区画自体が、六芒星の魔法陣になっており、結界で守られた、白魔法都市である。
建国されたのは、80年程前。
その頃は、白魔法都市ではなかったし、六芒星の結界もなかった。
それを、整備したのが、一人の王宮魔導士の男である。
この話は、セイルーンが、六芒星で区画されるまでの、その男の話。
その男は、元は、建立まもない町の秩序、平和を守る為の、有志の自警団に所属していた。
その活躍が、正規兵の目に止まり、正規兵に採用されたのが、運命の巡り合わせであった。
正規兵には、志願すれば、魔導の基礎を学ぶ機会が与えられる。
それに志願し、魔導を覚えた男は、白魔法で頭角を現し、王宮魔導士へ推薦された。
剣の腕は、兵士の目に止まる程であるし、魔導に対する真摯な姿と、博識高い頭脳と、誰もが、一目も二目も置く様な、人物であった。
ただ、兵士の頃は、兜とグローブで、魔導士になると、白いフードと、マフラー、グローブで、常に肌を隠しているので、信頼は余り得られなかった。
いつもの様に、王宮魔導士同士で、魔導の更なる向上の為の、勉強会が、王宮図書館で行われていた。
王宮図書館と言うものの、建立まもない王国なので、蔵書は少ない。
王宮魔導士の人数も少なく、机を囲んでいるのは、四人だけ。
王宮を守る義務があるので、皆が交代して、勉強会や休憩をするのだ。
「やっぱり、極めるべきは、黒魔法よ。攻撃は最大の防御。やられる前にやる!王様だって、その方法で、国を作った訳だし」
「しかし、黒魔法は、破壊に繋がる。街を守護する事が、俺達の役目だ。破壊活動をしては、国民の信頼を得られないであろう。そもそも、国を作る事と、維持する事を、同一に考えるべきではない」
議題は何故か、国をどう守るか、に移行した。
建国まもないセイルーンは、常に周囲の国の脅威に、晒されているのが、現状であった。
元は、この土地は、幾つもの小さな民族が、いつも覇権を争っていた土地で、その混乱を納めたのが、フィルナンデ・セイルーンであった。
小さな民族が、争い合っているだけの時は、周囲の国も、あまり干渉して来なかった。
時代は、戦乱の世。
小さな集落を、自らの懐に入れても、戦力も、財政も潤わないので、放って置かれていた。
その小さな力が、一つに纏まり、国が建ったのは、互いの陣地を、互いに荒らしていた内の出来事。
どこの国も、焦りを隠しきれなかったが、すぐには動けなかった。
セイルーンを手に入れるべく、兵を動かせば、他の国々に隙を見せる事になるからだ。
結果、不可侵が続いていたが、そう続くものではない。
少数部隊での、嫌がらせ程度の侵略が、この頃、発生していたのだ。
国が幼い内なら、解体、もしくは、植民地化は容易いので、各国の目は、徐々にセイルーンに、向けられて来ていた。
「しかし、侵略が増えて来ている今、他を圧倒する力は必要では?」
「だが、周囲の国の数は、六つ。どこかを大きな力で排除すれば、他が団結する恐れがある。そうなっては、いかな大きな力でも、排除しきれまい」
「そうですとも。やっと得た平穏です。大き過ぎる力は、無意味な争いを生んでしまいます」
国を守る為に、大きな力を得るか否かで、意見は綺麗に別れていた。
大きな力が必要だと唱えたのは、王宮魔導士の中でも、黒魔法に秀でている女であった。
その横に、気難しい顔をした、同意見の男。
それに対抗したのが、白に包まれた男。
横で、どうも頼りない表情の男が、強すぎる力に脅えた意思を見せていた。
「じゃあ、地道に守り続けろ、て言うの?国が疲弊して、落とされるだけじゃない」
「それに、大きな力は、他への良い圧力にもなる。良い事ばかりでは?」
「今は、建国して間もない、混乱している民衆の統治が、先決だと言っているのだ。大きな力を得ようとすれば、その前に、叩かれる恐れがあるであろう」
「そうですよ。この間も、王様の反対勢力の、反乱があったばかりじゃないですか」
話は平行線を辿り、結局、結論は出ないまま、時間が終了となり、場はお開きとなった。
王宮魔導士には、幾つかの位がある。
王宮魔導士を纏める長を筆頭に、黒・白・精霊魔法の代表、ここまでが、王と直接謁見出来る。
先程まで、論議を競っていたのは、王に会う権利のない位の王宮魔導士である。
一応、女と白い男が、上への報告義務を持っていて、魔導論議の成果を報告する為、2人は並んで歩いていた。
「あんたってさ、慎重すぎるんじゃない?」
「あんたは、血の気が多すぎだ」
あれだけ、論議を激しくしていた割に、廊下を歩く2人は、随分と親しげである。
「女だからって、守られるだけなんて、真っ平なの。あたし」
「俺は、争いは好かん。争いは、悲しみしか、生まないからな」
「じゃあ、何で、兵士なんてやってたのよ?戦争に出る可能性があるのに」
「託されたヤツがいる。そいつを守る為には、この国の平和を守るのが、一番だと思ったんだよ」
「ふぅん?彼女居たんだ。頭のかた〜い男だと思っていたら、隅に置けないわねぇ」
ニタニタ笑う女に、男が嫌そうに、溜め息を吐いた。
「彼女ではない。どうして女てのは、すぐそういう発想するんだ」
「じゃあ男の子なの?守りたい人て。意外だわ。あんたって、男の子は、鍛えて育てる方だと思ってたから」
「いや、預かっているのは、女だが?」
興味津々な女に、白い男は、不思議そうな声を発した。
それに、女が眉を寄せる。
「どういう事?その女の子、守りたいんでしょ?彼女じゃないなら、何なわけ?」
「そいつの父親が、命を掛けて守った命だからな。なら、託された俺も、命を掛けなければ、失礼だろう」
「……その子、小さいの?」
「いや、あんたと同じ位だ」
不意に、女の足が止まる。
それに気付き、男も足を止め、振り向く。
「どうした?」
「あたし、そういうのって大嫌い。命を掛けて守る?言葉だけなら綺麗な話よ。だけど、現実としては、酷な話だわ。その子は、自分を守る為に、父親が犠牲になって、喜んでいた?違うでしょ?その上、また別の人間が、自分の為に、犠牲になる事を、喜ぶと思っているの?」
ギラリとした視線と、強く作られた拳、口調に含まれているのは、責める色。
対面している筈なのに、まるで別の誰かへと、言っている様に感じて、男は息を飲んだ。
表情は怒っているのに、今にも泣くのではないかと、錯覚してしまう空気を纏った女。
彼女も、男も、外の国から来た人間であった。
この国には、そういった、外からの亡命者は、幾らか居る。
戦乱の中、亡命するのは、反逆行為として、強く罰せられるので、多くはいないが、それでも、こうして亡命を果たした人物はいた。
色んな民族から出来たこの国は、秩序がまだ整っておらず。その中に、外からの亡命者が入って来たので、国として纏まるのを、遅れさせている要因になっている。
亡命者は、国からの追っ手を恐れ、どこから来たのかは、決して言わない。
その為、女の事情という物を、男は知らないし。女も、男の事情を知らない。
亡命者同士、話は合うので、気の置けない関係ではあるが、その為に、深く事情を探る事を、してこなかったからだ。
「あたしの旦那、戦争で、左腕を無くして、帰って来たわ。あたしが居たから、その国を守る為に、戦っていたのよ。命を掛けて守るだなんて、男の欺瞞だわ」
「……」
自分と同じ理由で、国を守ろうとした人物の話に、男は言葉を無くした。
強い視線のまま、女は続ける。
「どんなに、悔しかったか、分かる?あたしが、居なかったら。て何度も思ったわ。自分が、ずっと許せなかった。何で、自分を許せないのか、て考えて、気付いたわ」
「何を?」
「あたしは、あいつの隣で、一緒に戦いたかったんだ。て。だから、剣と魔導を覚えた。女だから、戦えないだなんて、思われたくなかったから。あんたの、大事な女の子は、あんたに守られたい。て言ってる?」
女の強い視線が、和らぎ、残ったのは、真実を見ようとする、真っ直ぐな光のみ。
それに囚われ、男は暫し呆然とし、首を横に振った。
「そんな事、聞いた事無かったな。頼まれたからと、ただ守ろうとしていただけだ」
「なら、聞いてみなさいよ。あたしみたいな良い女かも知れないわよ?」
「自分で担いでやがる」
鮮やかにウィンクを決めた女に、男は笑みを含んだ声を発し、肩を震わせた。