【過ぎ去りし日】

「そんな大層な呼び名、よして下さいよ」
いつもは無駄に笑顔を振り撒いているその顔が、苦く歪んだ。
“ドラゴンスレーヤー”そう呼ばれた獣神官ゼロスは、降魔戦争の折り、千以上の竜をあっさりと葬った経歴の存在である。
「へぇ、んな悪名持ってたんだ、あんた?」
「人間で言う所、若げの至りてモノですよ。今思えば、愚かな事をしたものです」
興味なさげな声は、悪名だけならば、ひけをとらないリナ・インバース。
それに答え、殊勝な事を言ったゼロス。少し前まで、共に旅をしていた、正義を愛する某姫君が、聞いたならば、「やっと魔族なんてあこぎな事を辞める気になったのね!」と感動しそうな台詞である。
「アメリアが聞いたら、喜びそうな台詞だけど。どうせ、ロクな意味じゃないわよね」
「いえいえ、これでも、後悔しているのですよ?」
いかがわしげな、リナの視線にも、殊勝な表情は崩さない。
相変わらず、人間くさい奴。と、リナが内心思っていると、今まで、黙っていたガウリイが、口を開く。
「なら、次は、後悔しなきゃ良いだろ?終わった事は、どうしようも無いじゃないか」
経験談なのか、実感の篭った励ましに、ゼロスは、笑顔を取り戻す。
「そうですよね。さすが、ガウリイさん。では、次は、じっくりゆっくり、もがき苦しむ様に、じんわり痛めつける事にします」
ああ、やっぱり。と、リナが痛む頭を抱え、話に着いてこれなかったのか、ガウリイがポカンと口を開き、
「あ、あなたって……!!」
青い顔で、メンフィスが指差し、
「………」
ミルガズィアは、苦い表情で、睨みつける。
「おや?何か、変な事、言いました?」
平然としたゼロスは、いつもの笑みで、皆を見る。
忘れてはいけない。いかに、人間臭くとも、彼は、獣王ゼラス・メタリオムの、たった一人の配下、獣神官。
その実力は、押してはかるべし。