【ネジが抜けた男】−後編− |
終わったと思っていた所に、そいつは教生として、俺達の前に現れやがった。 しかも、俺達の担任が指導係、という嬉しく無いおまけ付き。 制服着て、生徒の中に混じれば、成長が遅いだけの生徒だろうに、教生ときたもんだ。 高三の俺達からしてみれば、教生は年が近いから先生とは思えないが、あれは年上にも見えねぇ。 考えてもみろ、生徒より低い背に、全然育っていない身体、これで、年上だと思えるか? 無理ってもんだろ。 まあ、口を開けば、伺い見れる知性、喜怒哀楽は激しいものの、その表情は確かに年齢を感じさせたし、意外にも、教え方が上手いらしく、性格もまあまあ良いらしく、生徒受けしているらしいが。 が!!だとしても!解せない!幼なじみで悪友のあいつが、そのちびっこい教生に惚れ込みやがったのは! 授業が終わると同時に、一目散にあれの元へ、と駆け付けやがるんだぜ?! 物事に執着する。て事が無かったから、良い傾向だと思いたいが、いかんせん相手が相手だ。 年上に惚れる気持ちは、分からんでも無い、というより良く分かる。うん。 年上の良さが分かったら、同学年はガキにしか見えねぇ。 だが、あんな発育不良に、夢中になる、てのは、理解出来ん。 あれはその気が無いらしく、無下に追い返しているんで、まあ、あいつの見てくれだけで惚れる様な馬鹿女じゃない事は救いか。 それに、どういう訳か、例の件は、俺達4人の質の悪い冗談だ。と思っている事も。 「だ〜!もう!しつこい!」 犬か猫の様に、あれにじゃれついていたあいつが、スリッパで叩かれる。 最近良くみる光景だ。 そして、叩かれたというのに、嬉しそうにあいつが笑うのも、恒例。 絶対オカシイだろう? 年上だが、自分より遥かにちびっこい女に叩かれて笑うんだぜ? 幼なじみの俺でさえも、あいつの変貌ぶりに戸惑う位だ。 クールな所が良いvと、ただ、何に対しても興味を示さず、呆としていても、整った顔でそうは見えないだけなのだが、勘違いして、思い出にvと、あいつの次の遊び相手を虎視眈々と狙っていたのにとっては、非常にショックだった様だ。 「思っていたのと違う」「騙された」だの、勝手に思い込んで、勝手に幻滅しているんじゃ、ざまぁねぇし、あいつへの橋渡しを頼みに来る女共が減ったのは有難い。 有難い事なんだが、あいつと連るんでいるからって、俺まで同類に見られて来ているてのはどういう了見だ。 俺は、決して恥ずかしく無い相手に愛を叫んでいるっつうのに。 そう、俺の運命の彼女は、誰と比べても見劣りする事ねぇと断言出来る! 主演女優やれる位整った顔、体型だってモデル並み、洗礼された所作は気品さえ漂っているし、何より、性格が良い。 大人な彼女は、年齢と立場を気にしてか、俺の愛の告白を聞き入れてはくれない。 そんな慎ましい所が良いんだ! 美人だからと言って、鼻持ちならない訳では無く、寧ろ控え目、整い過ぎた顔の所為で冷たく思われている様だが、俺だけは知っている彼女の優しさを。 そんな彼女に一生を捧げる。と誓った俺を、あんなちびに叩かれて、喜ぶ悪友なんかと、一緒くたにして欲しく無いものだ。 クラスメートの野郎共は、今までの傾向と比べてか、気でも触れたか、狐に騙されているんじゃ、女に疲れたのか、と分からんでもない事を言って、あいつをからかって、「お前らにはまだ分からんさ、只一人の奴と会った事が無い奴にはな」と、憐れみを含んだ目で返され、返す言葉を無くした。 まあ、あいつが一人に絞ったもんだから、集中していた女共が、他に目を向ける様になったのもあり、目を覚まされたらたまらん。と、変に突っ込む事はしないが、明らかに、あいつを見る目が変わったのは言うまでもねぇ。 そして、あいつを更正させない為に、野郎共の変な結束が出来たのは、この際、どうでも良い。が、所詮、それで回って来る女は、程度が知れた女だ、て事は、教えてやった方が、親切なんだろうか? まともな女は、既にちゃんとした相手を見繕っているってぇのは、予想するまでも無い。 心に決めた彼女が居るが、まあ、捨てたもんじゃない、て女位は把握している。 誰と日直が当たるか?それは一日の気分を左右させる大事な事だからだ。 あいつに気のある女だと最悪だ。とにかく俺を通して、あいつに言って貰おう、ていう魂胆丸見えだわ、あいつの好みはどんなだ?好きな色は?曲は?今、何人目か?等と質問攻めで、うざいったらねぇ。 まともな女は、楽だ。まあ、ちょっとばかり、俺をからかいたがるのは勘弁だが、大きな問題では無い。 あれに構う様になって、あいつに標的を決めていた全ての女が引いた、て訳でも無い。 只の気の迷いよ、と、いつでも準備万端で、待ち構えていやがるのがいる。 俺も、それだと思いたい。 期待しているのだが、見ている感じだと、あいつはマジだ。 それだけの魅力が、あれにあるのだろうか? 改めて、あれを考察してみる。 来てすぐ、幼く見えるあれを、男女問わず色々からかっていたのは、覚えている。 想像出来るだろうが、野郎のからかいってもんは、下品だ、で、あとでこっそり、殺せるんじゃないかて思う殺気を、あいつが放っていたのは、青春の一ページてヤツだと思おう。 まあ、あれは、それに上手い事立ち回りしていたんで、それなりに場数を踏んでいる、年上なのだ、と思ったもんだ。見えはしないが。 それで大人の女だ、なんて思えないのは、見てくれもあるが、俺と馬が合わないのだ。 あいつへの対応が、大人げない、つうのは別に良い。過ぎた行動には、それで丁度良いだろう。 授業の時はさして支障無いが、授業を離れると、俺とあれは衝突する。 彼女の事を、どこで聞いて来たのやら、わざわざ、俺だと確認してから「まぁ、頑張って」と気の無い応援をしたんで、ちょっと言ってやったら、小声で「無駄な悪あがき、頑張りなさい、玉砕君v」と囁きやがったのだあのちび!! 彼女に出会って、温和になった俺も、さすがにぶち切れて、「小学生が、色恋に目覚めてんじゃねぇ!」と叫び返した所を、運悪く、彼女に目撃されてしまった。 その所為で、彼女に暫く冷めた目で見られた。て事もあり、俺は、あれが嫌いで、あれも、俺を良く思っていないらしいから、授業以外は一切口を聞かなくなったのだ。 「なあ、あれのどこが良いんだ?」 「あいつは、オレの欠けていた魂の欠片なんだ」 あれの良さを見出だせず、悪友に聞いてみたが、無駄な作業だったな。 確かに、生涯の半身、と呼べる奴はいるだろう俺と彼女みたいにv が、何もあれは無いだろう。 元々、ネジが少なかった悪友は、とうとうネジが全部抜けたらしい。 そう思わなければ、納得出来ねぇつうもんだ。 |