【真相】 |
キャアキャアと騒がしく追いかけっこをしている4人の少女。 駅の構内だ。という事を忘れたその行為は、周囲にとって、迷惑でしかない。 その中に居る、痴漢の犯人が、 「あんまり成長してないなあ」 と呑気に溢した。 大学の休みを利用して、実家に戻る最中、幼なじみの姿を認め、悪戯半分、彼女の成長具合のチェックという興味半分の気持ちが沸き、目立つ髪を一つに纏め、帽子を被り、こっそり彼女に近付いた。 姿を見られれば、手痛い報復があるのは、重々承知なので、一瞬だけ触って、すぐに柱の影へと入り、人混みへと逃げ、今に至る。 元気一杯走り回っている幼なじみは、制服が変わった以外は、変化が見られない。 彼が地元を離れてから、半年経っていないが、成長期である筈の彼女を思えば、変化が見られないというのは、些か疑問に感じられる。 それと、目に見えた変化が無くとも、自分が離れた事によって、少しは寂しがっていてくれたら。と思っていたガウリイには、変わらず元気な彼女に、少し残念な思いを感じさせられた。 「あんまりですわ………」 「ゾアメルグスター様にお祈りして、呪ってやる〜」 「いったぁ〜い!!」 捕まった順に、ゲンコツを決められた、彼女の友人達。3人とも、ガウリイの知った顔である。 「被害者はあたし!なんであんたらに責められなきゃいけないわけ?!」 さすがに、周りの迷惑を考えたのか、閉鎖した店舗の埋め合わせに作られた、休憩スペースで、幼なじみは、自らの友人達を正座させた。 「だって、本当の事じゃない」 「ふん、羨ましいなら羨ましいと素直に言いなさいな」 「上げられる物なら、差し上げたいですわ」 痛みへの耐性の違いで、復活した順に少女達は口を開く。 幼なじみの剣幕に、恐れない所が彼女達らしい。と言うべきか、だからこそ、凶暴だとご近所でも有名な幼なじみと付き合える。と言うべきか。 「やかましぃ!とにかく!絶対、犯人捕まえてやる!勿論、協力してくれるわよね?」 ググッ!と拳を作り、力一杯告げた幼なじみ。 「まあ、悪を放って置けない事は確かよね。例え、被害者が凶悪でも」 「好みが変わって、私達が目を付けられたら嫌だし、構わないわよ」 「被害が幼い方に及んでは事ですし、お手伝い致しますわ」 返す友人達の言葉に、またもや、幼なじみの身体が震え、 「一言多いのよ、あんたらは!」 スパン!スパン!スパン!と、懐かしい音をさせた。彼女がツッコミに使っているスリッパが、彼女の友人達に、振り下ろされたのだ。 懐かしい音に、口元を緩め、ガウリイは帽子を取り、彼女達に近寄る。 背中を向けている幼なじみと、向かい合う形の少女達は、その存在に気付いたが、それを表には出さない。 そして、 「こ〜ら、お前さんは何やってんだ」 手に持っていた帽子を幼なじみに被せ、クイッと軽く後ろへと引っ張り、ガウリイは呆れた口調で言った。 喉を反り、振り仰いだ幼なじみは、パチクリと瞬きをし、口を開く。 「あ〜、やほ」 久しぶりだというのに、この無感動ぶりはどうだろう。 ガウリイも、分かってはいた。彼女が、感動の再会などとは程遠い性格だ。という事に。 だが、離れてから数ヶ月、全く連絡取っていなかった幼なじみに対して、若干それは冷たいんじゃなかろうか。と思わないでもないガウリイは、苦笑を浮かべる。 そこに、気を使ったのか、はたまた、逃げる好機と見たのか、幼なじみと一番親しい友人が口を開く。 「積もる話があるでしょうし、わたし達は失礼するわね。ガウリイさん、また後日会いましょう」 「それじゃあ」 「それでは」 爽やかすぎる笑顔を貼り付け、去って行く彼女達。 友人達を引き止める為か、帽子を払った幼なじみが、雑踏に視線をやると、 「喧嘩しちゃダメよ」 「仲良くしなさいな」 「素直が一番ですわよ」 少し離れた場所から、それぞれ口にし、そのまま帰宅ラッシュの人ゴミへと紛れ見えなくなる。 「何よ、あれ?」 「それより、荷物持ってくれよ。疲れてんだよな」 首を傾げる幼なじみの頭を、久々に撫で、ガウリイは笑みを浮かべた。 その顔を見上げる彼女は、不服そうな表情。 「はあ?か弱い乙女に、荷物持ちさせるつもり?」 「土産が入ってるんだが。そうか、要らないのか」 「仕方ないわね。持ってあげる」 変わり身の早い幼なじみに、一番軽い荷物を渡し、ガウリイは笑う。 「ゲンキンな奴」 「おばさん、怒ってたわよ。連絡全然寄越さない。て」 背を向け歩き出した幼なじみ。その背中が、酷く小さく見え、ガウリイは気付いてしまった。 ゆったりと足取りが、彼女の後を追う。 「悪い。寂しい思いさせたな」 「あたしに謝っても、意味ないし」 「うん?拗ねるなよ」 「拗ねてないわよ」 「今度は、メールするからな」 「だから、おばさんが怒ってるの。忙しい女子高生とメールなんて、百年早いんだから」 ふん!と鼻を鳴らした彼女の性格が、天の邪鬼だと理解っていたのに、連絡が来ないからと、連絡をしなかったガウリイ。 ああ、自分も素直じゃなかったな。と、大人げない自分に気付き、 「オレは、寂しかったぞ。リナと離れて」 「どうせ、五月蝿いのが側にいなくて。ていうオチでしょ」 少しだけ素直になってみたものの、ずっと誤魔化し続けていたので、幼なじみに冷たく返された。 それを否定すれば、幼なじみから脱却出来るのだろうが、ガウリイは苦笑を浮かべ口を開く。 「おう。騒がしいのに慣れちまったからな」 「安心しなさい。こっちに居る間は、散々騒いであげるから」 「久々なんだから、手加減してくれよ」 「だ〜め」 「たく……変わりなくって安心した。ただいま、リナ」 「ん。おかえり」 今更ながらに、再会の挨拶を交わした二人。 家族ぐるみで仲が良く、家も近所なので、物心付く前からの幼なじみ。その関係を崩すにはもう少し勇気が必要な様である。 |