【一策】 |
花も恥じらう高校1年生のリナは、夏休みの午後を、リビングで寛いでいた。 そこに、姉のルナが、廊下から声を掛けた。 「リナ、まさか、その恰好で、行くつもり?」 6つ上の姉は、リナの頭が上がらない存在である。 「そうだけど?」 姉の言葉に、何でそんな事を?と首を傾げるリナ。 夕方から、友人達と、納涼祭に行く約束に、なっている。 その恰好は、マリンボーダーのタンクトップに、白い半袖パーカー、そして紺色の細身のハーフパンツと、動き易さに、重点が置かれている。 「ふぅん。そう」 何を言われるのか。とドキドキしていたリナに、姉は怖い程、綺麗に微笑み、そのまま行ってしまった。 それに、嫌な予感を感じるリナ。 あの笑みは、危険だ。と、経験から分かっているからだ。 と言っても、逃げたら、また更に、怖い思いをするのも、分かっている。 結果、何をされるのか。と、不安な気持ちで、待つしかない。 暫くして、チャイムが鳴った。 そして、リビングに、ルナと、その友人が、現れる。 「今晩は。リナさん」 「今晩は。ミリーナさん」 その友人は、リナの良く知っている人物である。 ルナの、高校時代のバイト仲間で、そのバイト先のファミレスに、家族で行っていたし、家に遊びに来た事もあり、3人でショッピングに行った事も。 「さ、部屋に行きましょ」 ソファで座っていた、リナの腕を掴み、有無を言わさず、ルナは、リナの部屋へと向かう。 その後を、静かに着いて来るミリーナ。 「さあ、着替えましょ」 部屋に着くなり、ルナはニコリと笑った。 「え……と?何に?」 逆らう事は、恐ろしくて出来ないが、何の説明もないので、リナの表情は、戸惑っている。 すかさず、ミリーナが、静かに床に座り、手に持っていた鞄を開ける。 その鞄の中から、風呂敷に包まれた物が、出てきて、その中から、白い紙に包まれた物が。 「ルナの要望を元に、私が選んで見たのだけれど、気に入るかしら?」 縦に3つ折りされていたそれを伸ばし、さらに、横に3つ折りのそれを開けるミリーナ。 集合場所は、喫茶店で、先に来ていたのは、アメリアだった。 入店を知らせるカウベルに、アメリアが、扉へと視線をやり、 「リナ?!きゃあ〜♪似合うじゃない!素敵!」 黄色い声を、来客者のリナに浴びせた。 絶賛の声に、何故かリナの表情は、浮かないものだ。 「姉ちゃんが、着替えろ……て」 「嫌なの?似合ってるのに?大人っぽいわよ。胸の小ささが、気にならないし」 「一言多い」 目を、パチパチとさせたアメリアの、隣に座り、リナは頬を引っ張った。 アメリアの恰好は、と言えば、和柄のノースリーブワンピースで、ピンクを地にした、芍薬の花が、見事なもの。そして黒いボレロと、足元は和柄のサンダル。 その彼女の視線が、 「にしても、化けるもんよね」 化粧が施された、リナの顔に、マジマジと向けられ、感嘆な溜め息が漏れた。 「姉ちゃんが、やったのよ……」 「とか言いながら、見せたい人、居るんじゃない?」 視線から逃げる様に、身体を横に向けたリナ。 その背中を、アメリアは突っついた。 「居ないわよ……」 「なぁんだ。残念……あ、来た来た!」 不機嫌そうな、リナの声に、残念そうに言い、アメリアは、外を見て、嬉しそうな声を挙げた。 リナが、そちらに目をやれば、残りのメンバーの、マルチナとシルフィールの姿が、店の前の交差点の、向こうに見えた。 信号が変わり、程なくして、2人が、店へと入って来る。 「ちょっと!誰かと思ったじゃない!」 真っ先に、口を開いたのは、マルチナ。 足早に近寄って来るその姿は、水色のキャミソールで、大きな向日葵が左の腰に描かれている。その上に青いカシュクール、そして、白いサブリナパンツに、オレンジ色の編み上げサンダル。 「本当、一瞬分かりませんでしたわ」 その後に、ゆっくりと歩くのは、シルフィール。 その姿は、ミストグレー色のカットソーに、藤が描かれており、V字の衿元からは、紫色のキャミソールが覗いている。そして、紺色のマーメイドスカートに、足元は濃紺のパンプス。 その2人が、アメリアとリナの向かい側に座る。 「良かったわね、リナ。胸が無い分、苦しくないでしょ」 「羨ましいですわ。わたくし、浴衣はどうしても、胸を抑えないと、不恰好になってしまって……」 「あんた達……覚えてなさい」 マルチナとシルフィールを、リナはジト目で睨んだ。 その恰好は、芥子色を地にした、赤い線と、赤い蝶が鮮やかな、浴衣に、濃緑色の帯、帯飾りにシルバーの蝶。1つの団子にされた髪には、トンボ玉の髪留め。そして、赤い鼻緒の下駄。顔には、しっかりと化粧をされていた。 駅前の広場、そこから伸びる商店街、商店街の外れから、少し歩いた所にある公民館が、祭りの会場になっている。 4人は、商店街の通りには行かず、公民館へと辿り着いていた。 高校でも目立つ4人。 浴衣姿のリナと、全体的に和の雰囲気のある恰好の3人は、すぐに注目の的に。 公民館の敷地には、入ってすぐに、幾つかの出店が並んでおり、それを抜けると、駐車場に設置された簡易ステージと、その前に、机と椅子が、幾つか並んだ広場がある。 幾つもある出店を楽しみ、一息入れようと、かき氷を買った。 シャクシャクと、掻き混ぜながら、涼を体内へと取り入れ、4人が向かうのは、出店を抜けたステージのある広場。 幾つもある席は、人で埋まっており、ステージでは、カラオケ大会が行われている。 「あ、ガウリイさん!」 その人混みの中、見知った顔が、ゆったり座っているのを見付け、アメリアが、そちらへと向かう。 「ちょっと、アメリア?」 慌てて、リナが追い、残りの2人は、視線を合わせ、その後を追う。 アメリアが、着いた先には、当然ガウリイが居た。 リナの、3つ上の幼なじみで、3月に遠い地へと引越し、ついこの間、里帰りした男だ。 その姿を見、リナの足が止まる。 それを、気にする事なく、アメリアはニコリと笑う。 「ガウリイさん、分かってるわよね?」 「ああ」 ガウリイが、苦笑を浮かべた。 と同時に、リナの背中を、追い付いたマルチナとシルフィールが、ポンと叩く。 「何時までも、意地張ってるんじゃないわよ」 「女は度胸ですわ」 「………」 苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべ、リナの足が、前へと出る。 それと同時に、アメリアが、ガウリイに背を向け、リナの後方に佇む友人達に向かい、歩き出し、 「リナ、わたし達、この後予定があるの。だから、後はガウリイさんと楽しんでね」 「たく、何考えてんのよ」 すれ違う直前、それだけを交わした。 そして、アメリアが合流した女3人は、時計を見、その場を離れる。 「まさか、あんたの仕業?」 ガウリイの目の前に立ち、リナは目を吊り上げた。 友人達が、何を企んでいるのか、何となく気付き、面白くないのだ。それが、ガウリイの発案だったら、尚更。 「いや……ただ、聞かされては、いる」 「さいっあく!」 頬を掻き、苦笑を浮かべたガウリイに、リナは冷たく言い放つ。 ガウリイの恰好は、グレーが地の浴衣で、袖口に濃緑のラインが2本あり、パールホワイトの刺繍が衿と褄に施されていて、赤い帯が鮮やかに映えている。 それは、上手い具合に、リナに使ってある色が、取り入れられてあり、姉もこの件に噛んでいると、暗に示してているのだ。 だからこそ、余計に、リナは面白くない。 自分とガウリイが、くっついて当然だ。と、皆に思われている。と気付いたからだ。 だが、面白くないからと、帰る事も出来ない。 姉が絡んでいては、その企みから逃れる事は、今後の人生に関わる。 その企みとは、両想いなのに片想いな2人に、くっついて貰おう。という、単純なもの。 それは、2人の仲が、その内どうにかなるだろう。と、静観していたのだが、どうにも、こうにも、煮え切らないので、とうとう周りが痺れを切らしたからだ。 それで、丁度「祭り」があるので、その非日常を利用しよう。と、計画され、リナよりは、話が通じるガウリイにのみ、今回の企みは、話されていた。 祭り会場で、ガウリイとリナを引き合わせ、邪魔者は消えるから、良い雰囲気を作り、告白をしろ。というのが、ルナからの指令。 リナの事を、良く知っているのに、機嫌が悪くなる。と分かっている作戦を立てる辺り、ルナも人が悪い。というのか、酷いシスコン。というべきか。 さて、どう機嫌を取ろうか、と、苦笑を浮かべながら、ガウリイは考えるのであった。 |