【論点】

「?!!!」
ビクリと身体を震わせ、足を止めたリナが、栗色の髪を揺らし、後ろを振り返る。
それは、学校帰り、美味しいと評判のコロッケの為に、駅の構内を移動していた時の出来事。
「どうしたの、リナ?」
「売り切れるわよ?」
「リナさん?」
友人達が、それに気付き、そちらに視線を送る。
と、リナが肩を震わせているのが見えた。
何事か、と顔を見合わせた友人達の耳に、怒りに震えたリナの声が、ぼそりと届く。
「胸、触られた……」
「うそ?!!」
「そんな?!!」
「リナさんが?!!」
驚愕の事実に、またもや顔を見合わせる友人達。
「信じられない……」
悔しそうなリナの声に、友人達は深く頷く。
「確かにそうよね」
「リナだけは無い。て思ってたわ」
「信じられませんわ」
童顔で人より小柄なリナは、目を付けられやすい。不良連中に凄まれたり、酔っ払いの男達に絡まれたり、痴漢の手が伸びてきたり。と。
そんな連中を、正当防衛の名の元に、相手を存分に痛めつけ、そのついでに、慰謝料と称し、懐の中身を徴収するのが、彼女の趣味。
当然、不穏な空気に敏感で、痴漢の被害になど遭った事が無い。
自分には、隙などないと自負していたリナにとって、今回の事は青天の霹靂と言えよう。
「リナの胸なんて揉んで、楽しいのかしら」
「きっと、貧乳だからこそ良いて言うマニアに決まってるじゃない」
「つまり、ロリコン趣味の犯人て事ですわね」
犯人に対する怒りと悔しさに震えていたリナの身体が、ピタリと震えを止め、
「ちょっとあんたら!!信じられないてそっち?!卑劣な犯行に対してとか、あたしに気取られずに犯行に及んだ事についてじゃないの?!」
「それはそれで、信じられなかったわよ」
「痴漢なんて許せる訳ないでしょう?」
「酷い話ですわよね」
ピシィと順に指を突き付けられた友人達は、神妙に頷いたが。
「それ以上に、そのスッカスカの胸に興味を持った犯人が、信じられなかっただけ」
「触るだけのボリュームがあるのか、信じられないのよ」
「小さくても痴漢に遭うなら、小さくしようと努力していた、わたくしの努力は無駄。それが信じられなかったのですわ」
フリフリと頭を振り、友人達は悩ましげな表情を見せた。
それを見た通行人が、その可憐さに目を奪われたりしているが、それはどうでも良いとして。
リナの身体が、またもや震えだし、
「アメリア、マルチナ、シルフィール。長い付き合いだったわね♪」
ニパリと極上スマイルを浮かべる。
が、不穏な空気を察した友人達は、逃げるが勝ちとばかりに、既に遠く彼方へと。
「リナ!胸があったって、肩が凝るだけよ!」
「ブラジャーなんか可愛いデザイン少ないんだから!」
「服だって、キツかったり、伸びたり、ボタンが弾けたり、良い事なんかありませんわよ〜」
「そんなもん知るか!待て〜!」
嫌味な程、胸を揺らす友人達を、追うリナの胸は、全く揺るがない……。悲しいかな、彼女は、少しばかり成長が遅く、友人達の悩みが、全く理解出来ないのだ。
結局、程なくして捕まった友人達は、リナからゲンコツをゴツンと頭に振り下ろされた。
それでも、彼女達は、リナをからかうのを止めない。
いつもは頼りになるリナが、その時ばかりは可愛い妹の様で、楽しいからだ。
「痴漢、絶対捕まえてやる!」
と、新たに怒りを灯したリナに、友人達は快く協力を申し出たらしい。