ガウリイの&への挑戦


【寝顔をのぞく】-ガウリイの挑戦2-

良く無い夢を見ていたガウリイの目覚めは、何故か幸せで包まれていた。
悪い夢であったにも関わらず幸せな気分で目覚めるという奇妙さも、彼は何故か気にならなかった。
柔らかな重みと、甘い匂いをぼんやりと意識し、幸せな気分に浸っていたのだ。
余りにも馴染み過ぎた気配に、現状を把握するのが遅れ、気付いた途端、彼の顔から一気に血の気が引いた。
‐な…何で、こんな事に!!!‐
オロオロと視線を彷徨わせても、見えるのは天井と壁・ベッド、それから…何故か彼の胸の上ですやすやと寝息を立てている柔らかな存在。
‐ちょ……ちょっと待て、何があった?!‐
考えようとしても、パニックに陥った頭では何も思い出せず。余計混乱を招くのみ。
が、そのおかげか、昨夜の混乱を思い出せた。
可愛い相棒に、強制的に同室させられた事を。
そこまでは分かった。が、今の状況は彼に理解出来ない。
‐新手のイヂメか?……これ‐
恨みがましく相棒を見るが、彼女は彼の視線に気付く事なく安眠を貪る。
昨夜の状況から、自分が何かした訳では無いのは確かで、この状況から、相棒が何らかの思惑でこうしているのだろう、と結論付けたガウリイ。
相棒の行動パターンが読めて来た筈だが、この行動の意図は検討が付かず、とりあえずこの状況から脱却をしよう。と考えた所で思考が固まった。
壁とベッドに挟まれ、転がって移動する事が出来ない。と気付いたからだ。
起き上がると、相棒を起こしかねない。すやすやと寝ている彼女を起こすのは忍びなく、それは出来ないガウリイ。 ここまで成す術が無いと、さしものガウリイもイタズラ心が芽生える。
彼の右腕が動き、彼女の顔が上を向いた。丁度ガウリイが見下ろせる角度で、彼女が苦しく無い程度。
普段よく動く相棒の表情は、寝ているとあどけなさが際立ち、普段より幼く見え、ガウリイは慌てて彼女から手を離した。
触れてはいけない禁忌に触れてしまった様な罪悪感に襲われたのだ。
彼女の寝顔に釘付けになっていると、ふにゃと柔らかく笑う。
ドキン!とガウリイの心臓が跳ね、十代の子供の様な反応に、何やってんだオレ。と自己嫌悪に陥っていると、
「とうちゃ……」
ムニャムニャと相棒が寝言を言い、すりすりと顔を擦り寄せ、ずりあがって来た。
‐待て待て待て待て……!!‐
わざとか?と思う程の相棒の動きに、彼の心臓の鼓動が早さを増す。
ガウリイの鎖骨あたりに、彼女の唇が当たっているのだ。
パジャマ越しだが、それでも敏感な肌が感じとってしまう。彼女の柔らかな唇を。
甘い匂いと、柔らかな重みに加え、彼女の温もりにまで、気付いてしまい、ガウリイは開き直った。
少し位触っても良いだろう…と彼の右腕が上がり、彼女の豊かな髪に触れる直前でピタッと止まった。
早鐘を打つ煩い心臓と、ガンガンと激しく脈打つ頭は痛みを訴える。開き直っても、所詮へたれ。ガウリイの腕が力無く降りた。
クラクラする程の甘い匂い、ふわふわと擽る髪、柔らかな重みと心地良い温もり、幸せな存在であった筈が今や凶器の様にガウリイの心臓をえぐる。
「お……起きてくれ……頼むから………」
やっとの事で絞り出された声は、彼女には届かなかった。
天井にぼんやり光が当たり、朝が近い事を示している。
放っておいても直に目を覚ますであろう相棒。だが、彼はこれ以上我慢ならなかった。
大きな瞳を閉じた小さな顔が、ガウリイの肩に乗っていて、余りにも心臓に悪い近さに、限界を感じたのだ。
勇気を振り絞り、彼は右腕で彼女を抱え込む様に持った。
バクバクと身体中が心臓にでもなったかの様に響くが、いつ目覚めるかも分からない彼女を待つよりはマシだ。と、彼は行動を移した。
左腕で体を支え、ゆっくりと相棒ごと体を横向きに。
これで試練から抜け出せる。と安堵の溜め息が漏れ、ガウリイは彼女を慎重に寝床に下ろした。
ほっと肩を撫で下ろして早々に離れるべく体を起こそうとした所に、彼女がパチッ!と大きな瞳を開けた。
図ったかの様なタイミングに、彼は一気に跳躍し、ベッドへと上っていた。
体と同時に心臓も跳ね上がり、ドドッドドッ!と体に悪いリズムを叩く。
「あ……お、オレ、何もしてないぞ!!」
「くぁ〜」
慌てて弁明しているガウリイをよそに、体を起こし猫の様にしなやかな伸びをする相棒。
「おはよ〜」
そればかりか、柔らかく笑い挨拶までされ、ガウリイは泣きたくなった。
「お、おはようじゃないだろ?!何で、こ、こんな所で、ね、寝て…」
強く注意しようとしたが、語尾が弱くなったガウリイ。
その言葉に彼女は鮮やかに笑い口を開く。
「ベッドが合わなかったのよ。」
「だ、だからって、何で人の上で!!」
「床で寝るの、嫌v」
今度は強く言えたガウリイに、ニコvと笑う可愛い相棒。
「いくら何でも無防備すぎるぞ!お前さん!!」
「へ?そう?」
「そうじゃないか!何かあったらどうすんだよ!」
首を傾げた彼女にガウリイは腹だたしそうに怒鳴る。
「あ〜、大丈夫よ。」
「大丈夫じゃない!危機感が足らないぞ、お前!!」
「でも、現実何も起こって無いし。」
「違うだろ、女の子なんだぞ?男に対して警戒しろよな。頼むから…」
不思議そうな表情をした彼女を見、脱力したのか彼の言葉に力が無かった。
「警戒してるわよ?あんた以外の男には。」
「オレは男じゃないのか?」
「あら?信頼してんのよ自称保護者さん?」
可愛い顔の相棒は残酷にも笑いながら言った。
「もう同室なんかするか!!」
タオルを手にし、ガウリイはバタバタと足音を立てて部屋を出て行った。
部屋を出た彼は、悔しさで涙が浮かんでいた。
相棒に笑顔で“保護者“と言われ、対象外なのだと言われた気がしたのだ。
情けないやら悔しいやらで、泣きたくなるガウリイ。
急いで宿の庭に出て、井戸から水を汲み、それで顔を洗った。
冷たい水で、頭がすっきりした彼は、やっと一息つき、ゆっくり深呼吸をする。
やっと満足な空気を吸えガウリイは心底ほっとした。
保護者として認識されていても、彼女の側にいられる代償ならば。と甘んじてその座に居た事が、今回の混乱の元だ。と冷静な頭が分析した。
そこでガウリイは溜め息を吐く。
「だからってどうすりゃ良いんだよ。」
自分が成すべき事が分からず、ガウリイは頭を抱えた。
≪続く≫