ガウリイの&への挑戦【ベッドに誘う】-ガウリイとリナの挑戦1- |
ゴクリと喉を鳴らし、ガウリイはドアを開けた。 ランプが灯されていないその部屋は、月明かりで薄ぼんやりと、浮かび上がる。 ドアの反対側に窓、そちら側に枕を置いたベッドが、ドアに足の方を向けている。 壁からの距離は、左右とも変わらず、窓際に垂直に置かれたそれは、一人分にしては、やけに大きい。 緊張した面持ちで、ガウリイは自分の荷物が置いてある椅子へと向かった。 「ふぅ。」 長く息を吐き、落ち着きを取り戻そうとしたが、ベッドにある荷物が見え、失敗に終わる。 彼が、見事?保護者から脱却してから、二週間が経った。 だが、進展は全くしていない。キスも、あの晩の一回だけ。 さすがに、それでは、健全な男として、情けないだろう。と、そろそろ、勇気を出して、進展しよう。と、密かに決意しようか、と思っていた。 そんな折、寄ったこの街は、明日に祭りを控え、盛況。宿に着いたら、部屋が一つしか無い。と言われた。 ガウリイの連れのリナが、「街がこんな状況なら、空いていただけでも、めっけもんね」と、宿帳に記入し、同室となった。 そして、時間も時間であったので、一階の食堂へ真っ直ぐ向かった。 食事を終え、暫く会話が盛り上がって、部屋に向かったのは、宿に着いてから二刻は過ぎていた。 そこまでは、良かった。部屋に着いて、中央の大きなベッドを見るまでは。 進展したい。とは思っていたが、いきなり機会を与えられ、動揺したガウリイを他所に、リナは平然としていて、荷物を置き、風呂へと行ってしまった。 どうしようか迷ったが、ガウリイは荷物を椅子に置き、やはり、風呂へ。 そして今。まだ戻ってこないリナを想い、ガウリイは顔を赤らめる。 「良い、て事だよな。」 彼女は元々、同室については気にしない性格であったが、ベッドが一つの時は、盛大に眉を跳ね上げ、不機嫌を露にしていた。 だが、今回は、気にしていない様に見えた。 前例の時は、まだガウリイが保護者の時だったが、今は、世間で言う所、恋人同士だ。 そういう関係になっても、問題は無いだろう。と、ガウリイが思うのは、自然な成り行きであろう。 とりあえず、明るくする為に、サイドテーブルにある獣脂ランプを灯し、大きく息を吸い、彼はベッドを真っ直ぐと見る。 こういう場合、やはり、男である自分が、ベッドに誘うべきだろうか。と思うと、頭が沸騰しそうな程、恥ずかしさで、彼の身体が熱くなった。 −ッチャ 軽い音を立て、ドアが開いたのは、その時だ。 「早いのねぇ。」 「あ、おぅ。まあな。」 リナの声に、ガウリイは慌てて、ベッドに背を向け、荷物袋の中身を整理する振りをする。彼女が自然に鍵を掛けた事で、その内心では期待が膨らむ。 「良いお風呂だった〜。」 ご機嫌な彼女は、言って鼻歌混じり。 ベッドを挟んで反対側にある鏡台の前で、髪を梳き始めた。 「ゼフィーリアまで、順調に行けば、あと一週間ね。」 「そ、そう、だな。」 不意に話し掛けられ、ガウリイはどもった。 チラリ、と彼女の方を盗み見ると、タオルで髪を挟み、水分を移す為に、それをポンポンと叩いている。 「何?もう緊張してんの?」 「それもあるが……」 背中を向けたままの彼女から、視線を外し、再び彼は口篭もった。 関係が変わる前から、“そろそろ故郷に顔出さなきゃ。”と言った彼女の希望で、行き先はゼフィーリアに決まっていた。 まさかその時は、想いが通じ合う等、予想もしていなかった。 だが、関係が変わっても、行き先は変わる事なく、最近のガウリイの悩み事は、“あの”強烈な個性の家族に、どう挨拶するかだった。 半年前、辛い戦いの後、彼女をゆっくり休ませる為、行った彼女の実家。 そこで待っていたのは、リナと出会う前に出会った、お節介なおっさんが、彼女の父親であるという驚き。 そして、彼女の家族の個性の強さにも、驚いた。 その彼等を、納得させるだけの挨拶は、そう簡単に思い付く筈がなく、この二週間、悩まされていた。 しかし、今は、それどころではなかった。 男の見せ所。なのだ。さりげなく、彼女をベッドに誘う。 だが、見せ所……なのだが、背後の大きなベッドを意識すると、顔から火を出しそうな程、赤面してしまう。 「さてと。」 意味もなく荷物を漁っている背後で、彼女が動き、 −トス 軽い音に、ガウリイの手が止まる。 聞き間違い。であって欲しいが、現実であった場合の事を思うと、怖くて背後を見れない。 そんな彼の気持ちを他所に、彼女の不思議そうな声が掛かる。 「何か探してんの?」 「え?えっと、何探してたんだっけ?」 それに、ガウリイは咄嗟に呆けた声で返した。 変な動揺を見せる事なく、安堵したが、もう少しまともな言い訳が言えたら、とも彼は思う。 「知らないわよ。」 呆れた声と共に、ゴソゴソと衣擦れの音。 徹底的な証拠に、ガウリイの、小さな決意とも呼べない物が、崩れる。 「何探してるのか分からないなら、探す意味、無いんじゃない?」 どう誘うか迷っていたのに、出鼻を挫かれ、失意のまま、意味もなく荷物を漁っている彼に、更に彼女の呆れた声。 「そう……だな。」 頷き、ガウリイは荷物袋から手を抜く。 そもそも、その目的は、それのみではなく、本懐を遂げる為の、序章に過ぎない。 それが達成出来なくとも、問題ないじゃないか。 と思い至り、覚悟を決め、ベッドの方に振り返った彼。 大きなベッドに、小柄な彼女が入っていて、当然、ベッドは大きく余っており、そこが自分の入る場所なのだ、と意識し、ガウリイの思考が固まる。 ― 彼が、一つだけのベッドを、気にしていたのは、分かっていたが、振り返った途端、表情が固まったのを見、リナは内心苦笑する。 関係は変わったが、ガウリイの押しの弱さは健在で、しかも、目的地がゼフィーリアという事で、どうやら、密かに悩んでいるらしく、上の空である事が多かった。 だが偶然、ダブルの部屋であった今回は、さすがに、貞操の危機を、うっすら感じたが、無駄な心配であった様だ。と。 「早く来て。」 余裕が生まれれば、からかいたくなる、というもので、リナは上掛け布団を捲り、上目遣いで見上げた。 ガウリイの目が、一瞬で見開かれ、 「!!!い、良いのか……?」 「もう!良いから早く!」 何故か、後退りした彼。 しびれを切らし、リナはベッドの上を這い、その縁に膝立てになり、ガウリイに手を伸ばし、引っ張る。 「うわ!!」 元来、体力と体格で有利な彼ならば、揺るぎもしないが、簡単にベッドへと誘導を果たせた。 床に膝をつき、ベッドに上半身のみを乗せ、呆然とした表情をした彼の顔が、ゆっくりと彼女を見上げる。 |
≪続く≫ |