ガウリイの&への挑戦

【ベッドに誘う】-ガウリイとリナの挑戦2- 

「……リ、ナ、」
「この前、言ったでしょ?洗い髪、編ませて、てv」
掠れたガウリイの声を遮り、リナはこれでもか!と言わんばかりに、満面の笑みを向けた。
「へ?!か、髪??」
「ちょっと!立たないでよ!良いから、座って。」
ガバッ!と起き上がり、立ち上がった彼に、非難の声を上げてから、リナはベッドの上を這った。
反対側で脱いだスリッパを履き、鏡台の上に置いたブラシと、荷物の中から、髪ゴムを取り出し、ベッドへと戻り、反対側へと這う。
「ほら、座って。」
「お、おう。」
にこりと笑えば、未だに立ったままの彼が、大人しく彼女がポンと叩き指定した、リナの隣へと腰を降ろす。
「よしよし。」
「ガキじゃないんだから……」
あまりの素直さに、リナは撫でたい気分になり、それを実行すると、ガウリイは身体を縮め、それから逃れた。
「あんたが、いつもしてる事でしょ。じっとしててよ?」
言うと、リナは、彼の方に身体を向け膝立てになり、見事な金髪にブラシを通す。
「ん、程よく湿ってる♪」
ヒヤリと冷たい髪の束を三つに分け、彼女はスルスルと、器用に編んでいった。
落ち着かないのか、髪の主は、手を拳にしたり、開いたり、はたまた、足を掻いたり。視線も、リナをチラリと一瞬だけ見、すぐに別の方向に向け、暫く彷徨わせてからまた見るを、繰り返してそわそわしている。
「んじゃ、反対側。」
十数分で片方を完成させ、リナはガウリイの身体を這って周り、彼の左側へ。
そちらも、手際良く編み出す彼女。
彼は、というと、出来上がった右側の三つ編みを手に持ち、プラプラと、弄ぶ事で、居心地の悪さを解消している様だ。
「完成♪」
左側も、同じ速さで仕上げ、満足したのか、リナの笑顔は、晴れやかそのもの。
「明日の朝まで、取ったら駄目だからね?これは実験なんだから。」
「実験て…オレの髪なのに……」
「駄目?」
二つの三つ編みを手に、不服そうなガウリイの顔を、自分の方へと向け、確かめる様に、リナは首を傾げ、
「いや…駄目…ではないが。」
「だったら、そのまま。ね?」
予想通りの答えに、ニコリと笑った。
ああ出れば、彼には拒絶出来ない。と分かっていたのだ。
「おぅ。」
不承不承といった感じだが、彼は頷いた。
リナは、それに気を良くし、
「んじゃ、寝ましょ。」
ガウリイの手を取り、微笑んでみせた。
その手と、その大元の身体が、大きくビクッ!と跳ね、彼の顔は、どうにも表情が読めない顔だ。
「何?寝ないの?」
「い、良い、のか?」
「当たり前じゃない。」
酷く掠れた声に、あっさり頷き、リナは手を離し、這ってベッドを移動する。
ベッドに向かって左側に身体を滑り入れるが、ガウリイは、場所を変えず、ベッドの縁で腰掛けていた。
「遠慮なく、ここに来たら?」
自分の左隣にある枕をポン!と叩くと、彼がゴクリと喉を鳴らした気がした彼女。
ゆっくりと、ガウリイが動く。手を伸ばしてランプを消し、ベッドに足を上げ、酷くゆっくりとした動作で、ベッドの上を、膝立てで移動する。
その様を、少し緊張して、リナは見ていた。
その緊張感は、相手の酷い緊張した声で、薄れる。
「は、入るな?」
「どうぞ。」
ガウリイがぎこちなく布団に入るのを見、リナは苦笑を浮かべる。
まるで、立場が逆だ。普通、一つのベッドとなれば、彼女が緊張するべきなのだが…。
「あ〜、やっぱ、あんたって温かいわねぇ。」
大きな身体に、自分の身体を擦り寄せ、リナは緩んだ声を漏らした。
彼の腕を持ち上げ、その隙間に入り込んだので、必然的に、その腕を、枕にしている事になるが、その枕がビクリと震え、
「リ、リナ??」
狼狽えた声が、彼女の頭頂部から降ってくる。
「ん〜?」
鼻から抜けた声で、それに答え、リナはゴソゴソと居心地の良い場所を探す。
不意に、その細い肩が、彼の右手に掴まれる。
「……リナ。」
今まで、一度も聞いた事がない、甘く、低く、熱が籠った、少し硬いその声に、彼女の脳が痺れ、魂が震えた。
「ガウリイ……」
リナが、そぅと顔を上げると、酷く真剣な目と表情をしたガウリイがそこに。
孕む熱を隠そうともしない彼に、しかし、彼女は悪戯っぽい笑顔を向けた。
「ゼフィーリアは、婚前交渉駄目なの♪それに、父ちゃんと姉ちゃん、あたしの事となると、手が付けられなくなるから♪」
「はへ?!!」
「まあ、あんたが姉ちゃんの生け贄になってくれるなら、構わないけど?」
一瞬で熱を霧散させる為の切り札を、彼女は笑顔で彼に披露してみせた。
これがあったからこそ、リナの緊張は、少しだけだったのだ。
ヒキッと、顔を引き攣らせ、固まったガウリイ。
前回の帰郷で、彼が、その二人を、苦手としたのを、彼女はしっかり感じとっていたので、固まった彼を、不思議には思わなかった。
「そ、それじゃあ…さっきの良いて…」
ガウリイがやっと引き攣った声を出したのは、十分程固まった後。
その間リナは、ただ微笑みを彼に向けていたのみ。
その彼女の笑顔が、悪戯なモノに変わり、
「あたしは只、遠慮していたあんたに、ベッドで寝て良いわよ。て了解しただけ。」
「普通…あの場面、そんな意味に思わないぞ…それ、分かってて、言ったな?」
リナの言葉に、明らかに期待を外された声でガウリイ。
白々しくムクれてみせ、リナは口を開く。
「心外ねぇ。純粋な乙女が、他にどんな意味で“良い”なんて言うのよ。」
「そんなの有りか?人が勇気振り絞ったのに……」
持ち上がっていた彼の頭が、枕に沈み、左手が彼の顔を覆い隠す。
それで、話は終わった。とばかりに、リナは布団を肩まで上げ、居心地の良い所で目を瞑った。
「んじゃ、おやすみ〜」
「は?…ちょ…このまま?!」
「駄目?」
焦った声に、甘えの混じった声で答え、リナが顔を再び上げると、焦った表情のガウリイと目が合う。
「こんな状態で、何も無い、てのは、さすがに、男として情けないのだが…」
「じゃあ、何?一つのベッドなのに、女の子に寂しく寝ろ、て言うんだ、あんたは?」
寂しさと、情けなさが混じった表情で言われ、彼女は不服そうに言った。
「そうは言うけどな、オレは、健全な男なんだぞ?この状況で、我慢しろ、てのは酷いだろうが。」
「言ったじゃない、“あんたはあたしの物よ。”て。て事は、あんたの身体は、あたしの物。だから、あたしが自由に使う。そういう事だから、今日は、このまま寝るの。」
「寝る、だけ?」
小さな子供に言い聞かせる様に、言った彼女に、彼は思いっきり眉を下げ、悲しそうな表情に。
「そうよ。」
それに、リナが小さく頷くと、彼の顔は、今にも泣き出しそうな表情へと変化する。
「そんなの……横暴だ。」
「あたしを護りたいんでしょ?なら、出来るわよね?」
「……う゛。おぅ。」
苦しげな肯定に、リナはニコリと笑い、顔を元の位置に戻した。
「あんたの命も、あたしの物だから。勝手に死んだら、許さないからね…」
深夜、完全に寝静まったガウリイの胸板に顔を乗せ、リナは届かない呟きを漏らした。
そんな彼の頭には、大きなタンコブが一つ。このままじゃ眠れない。と抗議したガウリイの頭に、『浮遊』を掛けた椅子で、心優しい?彼女が眠りへと誘ったからだ。
≪完≫