ガウリイの&への挑戦【髪に触る】-ガウリイの挑戦1- |
宿の裏手にある小さな庭。 そこにある井戸の傍らで、ガウリイは瞑想していた。 リナの「保護者」発言に落ち込んだ後、自分から言い出した事だから仕方が無い。と自らを納得させ、雑念を捨てる為に瞑想しだしたのだ。が、 「無理だ。」 瞑想して十数分程して挫折。 昨晩から今朝にかけての拷問が、瞑想した事により鮮明に思い出されたのだ。 相棒の柔らかさと甘さを、まるで今体験しているかの様に錯覚してしまう程に。 悪意の無い彼女の仕打ちが、まるで自分を誘っているかの様だ。と一瞬思いガウリイは慌てて首を振る。 「保護者…保護者…」 ぶつぶつと枷である言葉を念じる彼の姿を、宿の主人が目にした。 50をとうに過ぎた主人の目には、美形の彼は可哀想な人にしか見えなかった。哀れみの目で彼を見てから、庭で栽培している香草をこっそり採取。 「兄ちゃん、綺麗な顔をしてるんだ。悩んで無いで行動したらどうだい?」 宿に入る直前、ガウリイに背中を見せたまま、そう言い扉を閉めた宿の主人。きっと良い事言ったぜ★とか思っているに違いない。 「……」 “行動“という言葉に色々と想像してしまったガウリイは、健全な男ならば仕方が無い事だろう。 『とうちゃ…』 相棒の寝言を思い出し、彼は自己嫌悪をした。 きっと彼女は家族の夢でも見たのだろう。だから、人肌が恋しくなりあんな行動をしたのだ。とガウリイは思い至り口を開く。 「行動なんか出来るかよ。」 男として見られていないのに。と心の中でだけ付け足した。言葉にして出すと、どうしようもない虚しさが襲ってきそうで、発する事が出来ないのだ。 その事を改めて自覚し、ガウリイは自分の気持ちに諦めがついた。 変な期待なぞしなければ、彼女の側に居ても苦しくなんか無いのだ。 腰を上げ宿に入る。部屋を出る時に口走った言葉を彼女になんと説明したものか?と悩んだ。 が、部屋に戻ってみれば身支度を済ませていた相棒はさっさと部屋を出てしまったので、気が抜けたガウリイ。 ほぅ〜と長い溜め息を思わず吐き、彼はやっと少し気を張っていた事に気づく。 駄目だな。と思うと同時に仕方が無いとも思うガウリイ。 彼女の存在は余りにも大き過ぎるのだ。意識しまい。と思えば思う程、彼女のちょっとした仕草に目が行ってしまう。 先程も、髪を耳に掛ける彼女の細い指が、サラリと溢れた綺麗な髪が、荷物をまとめる彼の手を止めさせた。 相棒が部屋を出る直前の事なので、彼女は気付いていない。 「保護者…保護者…」 自分に言い聞かせる様に唱えながらガウリイは荷物をまとめた。 甘い残り香には少し苦しさを覚えるが、慣れなければならない。その元である存在と共にありたいならば。 「よし。」 身支度を済ませ、ガウリイは気合いを入れて宿の一階にある食堂へと向かう。 いつも通りに振る舞えば良いのだ。それだけの事だ。と彼は口の端を、意識して上げ笑った。 人間、簡単な事だ。と思っている事程、上手くいかないものだ。彼女が座っている真向かいに、何時もの通りに座ろうとするが、彼の手が若干震えていたりする。 必死に落ち着こうと枷である呪文を心の中で唱えても、効果は無い。 少しぎこちない動きになるのは否めなかったが、彼女が彼のウインナーを奪ったのがきっかけで、何時もの調子に戻る事が出来た。 穏やかな気候、緩やかな山道。先を行く相棒は弾む足取り。 ガウリイは思わず口元を緩ませた。 気の休まる事が少ない二人の日常。だからこそ、平和な今、という時間は貴重だ。 こうして落ち着くと、ガウリイは不思議な気持ちになった。昨夜と今朝の混乱が嘘の様で、何時もの通り彼女を子供扱いしてたしなめれば良かったものを。何故あんなに取り乱してしまったのだろう?と。 昼を少し過ぎ。 二人は少し開けた場所で昼食を取る事にし、並んで雑草の上に座った。 横の相棒は、弁当を広げると、更に上機嫌な表情を見せ、ガウリイは苦笑を滲ませる。 相棒は、何も変わっていないのに、自分ばかりが意識しすぎて、空回りしている。そう感じたからだ。 「くぅ〜v香草が効いたお魚さんがにくいわ〜♪」 「ステーキサンドも絶品だぞ♪」 相棒の弾んだ声に続き、ガウリイも咀嚼しながら弾んだ声を発した。 彼には、何が起きたのか分からなかった。彼女の手が腕に添えられたと思った次の瞬間、手にしていたサンドウィッチの形状が大きく変化していたのだ。 否、分からないのではなく、分かりたくなかった。という方が正しい。 が、その元凶である可愛い相棒は、自らの小さな唇の横に付いたソースを細い指で拭い、口にパクリと含む。 ガウリイの頬が一気に熱くなり、何を考えているんだ?!と叱り付けたかったが、声にはならない。そんな様が不思議なのか、彼女はこれまた可愛いらしく首を傾げてみせた。 彼の体は無意識に彼女から距離をとっていた。 大きな瞳をパチクリさせている相棒を、非難してみるが、彼女は「近くにあったからよ」と宣う。そんな理由はおかしいという反論も、今朝彼女から海老を奪った事を責められてしまい、ガウリイは一瞬唸る。 彼女が楽しみに取っておいた事を知っていたのだが、その場のノリで奪ってしまったのだ。 が、なんとか気を取り直しガウリイは彼女の非を追求する。 「だが、それとこれとは違うだろ?!オレの手にあるものをかじるか?普通!!」 遠巻きでの説教だから威厳は無い事に、気付いていない彼。そこに、その相棒は不服そうに自らのサンドウィッチを差し出し、同じ分だけかじって良いと申し出てきた。 「うぇ?!!」 思ってもいなかった事に、ガウリイの顔に更に熱が。 狼狽する彼を怪訝な表情で見やり彼女は「いらないの?」と言ってくる。 ガウリイが肯定の意を伝えると、相棒は肩をすくめて手にあるものを口に運ぶ。 脱力した彼は、重い足取りで相棒の隣に戻った。 サンドウィッチにある小さな跡、その続きを食べる勇気なぞ勿論なく、ガウリイはそれを紙箱に戻し、手付かずのサンドウィッチを食べる。 いつもなら、彼女がサンドウィッチを差し出してきた時、どうしていただろう?と無駄な思考を巡らせている内に、彼の手の中にあるサンドウィッチが消え残るは紙の箱に残る物だけ。 考えるまでも無く、それには手を触れず、ガウリイはのんびりとした表情を装い、お茶を飲む。 隣の相棒は、憎い位いつも通りで、満足そうな顔でお茶を飲んでいる。 小さな跡は、彼女には何の気も無い。と言っている様で、ガウリイの眠らせた筈の心に小さな刺となってささる。 |
≪続く≫ |