ガウリイの&への挑戦【髪に触る】-ガウリイの挑戦2- |
ガウリイの精神は疲弊していた。意図は無いであろう相棒の行動によって。 その彼女は、平気な顔で問題のサンドウィッチをたいらげてしまった。 それに動揺してしまい、変な態度をとったガウリイ。 そんな態度に、聡い彼女が放って置くわけも無くて、訝そうな顔をした。 咄嗟に言った言い訳は、嘘では無いが、それを信じて貰えた事に、ホッとしてしまうガウリイ。少し離れた場所で寝転がっている相棒に、気付かれぬ様に安堵の溜め息を漏らした。 寝転がって数分した頃、既に夢の世界へと旅立った彼女に、それを気付かれる心配は無いのだが、それでも、彼はこっそりと息を吐いた。 彼女が目覚める前に、浮き上がりそうな気持ちを沈めなければ。と例の呪文を心の中で唱えながら、彼の意識は沈んでゆく。 昨晩は、熟睡出来無い状況であった為、無理も無い事だが、傭兵家業では徹夜もある。 昨晩からの彼の疲労の度合いは、徹夜以上のものらしい。 相棒に声を掛けられ、ガウリイの意識が浮上。彼女の発した“自称保護者“というフレーズに、顔が一瞬歪む。 軽口を叩く相棒は、再び“自称保護者“と何の気も無しに発する。 いつもと変わらない相棒の軽口の筈なのに、今日はやけに鋭さを感じ、ガウリイは唸るしかなかった。 立ち上がるのを待たずに、彼女はさっさと出発しだす。慌てて傍らに置いた剣と荷物袋を抱え追いかけるガウリイ。連続して“保護者“と言われた事に、表情が暗くなるが、それも一瞬の事、いつもののほほん顔を装う。 「たく…、その憎まれ口なんとかならんか?」 「ん〜?無理v」 彼の苦笑混じりの言葉に、可愛らしく答える彼女。 いつも通りの会話。いつもの流れでガウリイは相棒の柔らかな髪に手を伸ばす。 「へ…?」 「髪が痛むからやめて、て言ってるでしょ?」 いつもの通り、が出来ず、触れる筈であった柔らかな髪は相棒がまとめて前へと流してしまった。 確かに、彼女がいつも言っている事だ。が、苦笑しながらも受け入れてくれていた。 時折、はにかんだ様に笑う時さえあるのに、今回は何故か避けられてしまい、声も冷たさを感じる程、その事に、彼は、戸惑いを隠しきれない。 「へ?あ、ああ。悪い。」 伸ばした手と彼女の頭を交互に見、寂しそうに笑うガウリイ。 寂しさを紛らわす為に、戸惑いを押し殺し何でもない話題を振る。 「次の町は何か美味いもんあるのか?」 「チーズが有名で、ゼフィーリアのワインと相性が良いのよ♪」 相棒の機嫌の良い応えに、知らぬ内に何かやらかして怒らせたとかでは無いらしい。とガウリイは安堵する。 どこかの…否、きっと彼女の故郷の唄なのだろう、どこか懐かしいメロディを、相棒が鼻歌混じりで歌い出す。 見惚れてしまう程、女性らしい柔らかな表情の彼女、そんな顔にドキドキしながらガウリイは大人しく後を付いて歩く。 するすると細い指が、柔らかな髪に絡み、彼女の意思によって編み込まれていく。ガウリイの視線は、さりげなく、しかし、しっかりと指の動きを追っていた。 いつも賑やかな旅な訳では無い。始終一緒に居れば、今の様に静寂の時はある。 そんな時は、気不味いものでは無く、逆に意味も無く笑みが溢れる様な、そんな空気が満ちているのだ。まあ、時折喧嘩の後で、ギスギスした空気の時もあるが、今はその例では無い。 「完成♪」 「器用だなぁ。」 相棒の弾んだ声に、ガウリイは感心した声で言う。 完成した緩やかな三編みは、歩きながら編んだのに、綺麗な形であった。 「こんなの、簡単よ。」 「へぇ。」 得意そうに言った彼女は、彼が関心なさそうな相槌を打つとにやりと笑う。 何かを感じとり、ガウリイは怪訝な表情で口を開く。 「お前、何か良からぬ事を企んでるだろう?」 「さあね?」 相棒は含みのある笑みで肩をすくめてみせた。 明らかに何かを匂わせる行為に、勘が鋭い彼はじとーと疑わしそうな目で彼女を見る。 が、そんな視線をものともせずに、スタスタと歩みを進める彼女。 追求する事を諦めたガウリイはガシガシと自分の髪を掻いた。 その手に、何かが引っかかり、止まる。 それに気付いた相棒が、にやりと笑い足を止め見上げてくる。 彼女が足を止めたので、彼も足を止めた所に、彼女の手が伸びる。 「お揃いv」 ガウリイの細い三編みと自分の三編みを持ち、相棒が鮮やかに笑った。 まるで、何もかも分かっているかの様な、艶のある笑み。 ドキッ!とガウリイの胸が高鳴る。 今朝から、何故か目が離せない指が、今、彼の髪を当たり前の様に触れている事実も、彼の胸を踊らせる要因だ。 「いつの間に…」 「あんたが寝てた時にv」 いつもの呆けた顔で言ったガウリイに、リナはにぱっ!と毒の無い笑みを浮かべる。 呆け顔は、ガウリイの得意な表情だ。 気持ちを気付かれたく無い時、咄嗟に表す事が出来る。 彼女に惹かれている。と気付いた時から、ガウリイ自身も知った。そんな器用な自分を。 「にしても、無駄に綺麗な髪よね。」 不服そうに、相棒は眉を寄せた。金の髪をくるくるとその細い指に巻きながら。 「そうか?お前さんの髪だって柔らかくて良いじゃないか。」 彼女の行為は、まるで彼を誘っているかの様で、ガウリイの内心はドキドキしている。 「あったりまえでしょ。毎日お手入れしてるもの。でも、あんたのは天然じゃない。ずるいわよね。」 「いてててて…こら…」 ぐい!と髪を引っ張られ、ガウリイは堪らず体を折り、彼女と目線を合わせてしまい、文句が途中で止まる。 今朝方盗み見た彼女のあどけない寝顔と、何故か艶を感じる笑みを浮かべる今の顔が、ダブって見えたのだ。 「何?」 「え…あ…いや…痛いから…離して欲しい…んですけど…」 首を傾げた相棒に、ガウリイはしどろもどろに、しかも何故か丁寧語で応えてしまった。 屋外であった為、今まで何とか意識しないで済んでいた甘い匂い。 それが鼻に強く届いた。 「何で急に、そんな言葉遣いなのよ?」 くすくすと可笑しそうに笑う彼女。 髪を掴んでいる手が動き、細く編まれていた三編みがほどけた。 「やっぱり、跡つかないし。羨ましい限りだわ。今度、髪を洗ってすぐに編ませてくれない?」 細い指に金の髪を絡ませ、するするとなぞり、毛先まで来て、彼女はやっとそれをゆっくりと解放した。 「オレの髪は玩具じゃないぞ。」 彼女の指に見惚れていたガウリイは、髪を離して貰えた事に、安堵したと同時に、残念な気持ちになる。 |
≪続く≫ |