ガウリイの&への挑戦

【髪に触る】-リナの挑戦2-

柔らかな陽射し、剥き出しの肌を擽る芝生と風。
それらをぼんやりと意識しながら、リナは目を開けた。
寝転がるだけのつもりが、寝ていた事に気付き、彼女は大陽の位置を確認する。
少しだけ西に傾いた大陽を見、寝ていたのは、そんなに長くないと知り、ほっと息を吐いた。
いつもなら「こんな所で寝たら風邪ひくぞ。」と自称保護者殿が起こす筈で、リナは首を傾げ、自分と少し距離をとって、寝転がっているその人物に視線を向ければ、瞼を閉じた相棒が居た。
そっと近寄り、顔を上から見下ろしても、瞼を開く様子の無い彼に、リナは苦笑し優しい声で愚痴る。
「保護者さんまで寝ちゃってどうすんのよ。」
相棒の頭の側に腰を下ろし、リナは自分のマントを彼に掛けた。
彼女なら足まで届く長さのそれも、彼には短く、膝に届かない程だ。
改めて相棒との体格差を認識し、リナは手元にある彼の髪を一房握り引っ張る。
「規格外なのよ、あんたは。」
話をする時、首が痛むわ。と1人ごちり、リナはニヤッと悪そうに笑い、彼の輝く金髪を手櫛ですき、編み込む。
頭の頂点より少し下の横髪の一房を丁寧に三つ編みにしながら、故郷の唄を鼻歌まじりに歌っているリナは、穏やかな顔だ。
「さっすがはリナちゃん♪」
細く綺麗な三つ編みを完成させ、上機嫌で次の三つ編みを作るべく、金髪を梳いた。
「ちょっと、自称保護者さん?そろそろ起きないと、次の町に到着出来ないんですけど?」
リナが彼に声を掛けたのは、二本目の三つ編みが完成してからだ。
マントを羽織り、立って上から声を掛けたリナ。
その声に相棒の顔が一瞬歪み、瞼がそろそろと開いた。
「たく、あんたまで寝てどうすんのよ。」
「すまん。」
言いながら上半身を起こした相棒に、ジト目を送っていたリナ。彼が立ち上がると、鼻で笑い言う。
「年なんじゃない?疲れが抜けないなんて。」
「あのなぁ、ちょっと寝ただけだろうが。」
「あらぁ?自称保護者様が警戒を怠って良いのかしら?」
「う゛!!」
「呆けるのは良いけど、もうろくしないでね?あたし面倒みきれないから。」
言うだけ言い、リナはさっ!と踵を返し歩き出す。
慌てて荷物を抱え、その後を追う相棒の表情が、一瞬暗くなるが、すぐにいつもののほほんとした顔に戻る。
「たく…、その憎まれ口なんとかならんか?」
「ん〜?無理v」
彼の呆れた声に、可愛らしく答えたリナ。
その頭に、後方から手が伸びるが、彼女は軽くしゃがみ大きく前に出て交わした。
敵襲、というのではない。その証拠に、伸ばされた手の持ち主、相棒が戸惑いの声を漏らす。
「へ…?」
「髪が傷むから止めて、て言ってるでしょ?」
腕を伸ばしたまま呆気にとられている相棒に冷たく言い、リナは髪を一つに纏め、左肩から前へと垂らす。
「へ?あ、ああ。悪い。」
伸ばした手と、彼女の頭を交互に見、相棒は寂しそうに笑うが、リナは素知らぬ顔で先に進む。
いつも言っている事だが、いつもとは違う響きに、相棒が戸惑っているのを、分かっていながらもだ。
「次の町は、何か美味いもんあるのか?」
「チーズが有名で、ゼフィーリアのワインと相性が良いのよ♪」
戸惑いを押し殺した相棒の声に、リナはご機嫌で答える。
それで、彼の気分を和らげ様という彼女なりの配慮なのだ。
勿論、リナが告げた事は事実で、彼女の故郷では、そこのチーズは毎日食卓に上がっている。
「完成♪」
「器用だなぁ。」
リナの弾んだ声に、相棒は感心して言う。
リナの前へと流された髪に、緩い三つ編みが完成していた。
道中、歩きながらリナが編んでいたのだ。
「こんなの、簡単よ。」
「へぇ。」
関心が薄そうな相棒の答えに、リナはにやりと笑う。
何かを感じ取った相棒は、怪訝な表情で口を開く。
「お前、何か良からぬ事を企んでるだろ?」
「さあね?」
含みのある笑みを浮かべ、リナは肩を竦めてみせる。
明らかに何かを匂わせる行為。当然、彼は疑わしそうな目を向けて来るが、リナはそんな視線を、ものともせずに、スタスタと歩みを進める。
それで諦めたらしい相棒は、ガシガシと自分の髪を掻くが、その手が止まった。
当たり前だが、リナが編んだ細い三つ編みに指を取られたのだろう。
それに気付いたリナは、にやりと笑い足を止め相棒を見上げる。
彼女が足を止めたので、相棒も足を止めた所に、リナの手が伸び、
「お揃いv」
彼の細い三つ編みと、自分の三つ編みを見せる様に持ち、鮮やかに笑う。
「いつの間に…」
「あんたが寝てた時にv」
気付かぬ内に三つ編みが出来ていた事に驚いたのか呆けた顔をした相棒に、にぱっ!と笑い無邪気に言ったリナ。
しかし、一変して不服そうに眉を寄せ、金の髪をくるくると細い指に巻きながら文句を口にする。
「にしても、無駄に綺麗な髪よね。」
「そうか?お前さんの髪だって柔らかくて良いじゃないか。」
「あったりまえでしょ。毎日お手入れしてるもの。でも、あんたのは天然じゃない。ずるいわよね。」
「いてててて…こら…」
リナが、ぐい!と手にした金髪を引っ張ると、相棒は文句を言いつつ体を折った。
2人の視線がぶつかると、その言葉が途切れ、端正な顔の表情が固まる。
「何?」
「え…あ…いや…痛いから…離して欲しい…んですけど…」
首を傾げリナが笑ってみせると、相棒はしどろもどろで、しかも何故か丁寧語で応える。
くすくすと笑いながら、リナは彼の髪を捕まえている指を動かし、
「何で急に、そんな言葉遣いなのよ?」
細く編まれていた三編みを解く。
金髪には何の跡もおらず、彼女は少し悔しくなった。
少しでも跡が残れば、そこだけは何となく自分の物になる様な気がしていたのだ。
「やっぱり、跡つかないし。羨ましい限りだわ。今度、髪を洗ってすぐに編ませてくれない?」
すぐに手放すのは勿体無く、リナは相棒の髪をなぞり、指を毛先へと向ける。
気持ちを伝える様に殊更ゆっくりと。
毛先まで来て、彼女が指をゆっくり広げると、金髪が僅かな風に乗り、美しい舞をみせる。
「オレの髪は玩具じゃないぞ。」
相棒の釈然としない声は、舞に見惚れていたリナには遠く聞こえた。
≪続く≫