ガウリイの&への挑戦

【手を握る】-ガウリイの挑戦-

いつもは、相棒の後ろを歩いているガウリイ。視界に入らなくなっても、否、見えなくなったからこそ、相棒が気になっていた。
障害物は全部取り除いている筈だが、もし万が一、相棒の肌に傷がついていたら…自分との旅に嫌気がさして消えていなくなったら…と心配で、ついちらり、と振り返って確認をしてしまう程に。
何度か視線がぶつかってしまい、相棒が不思議そうに首を傾げるので、慌てて視線を反らし、前を向く。が、また気になって振り返る…そんな事を繰り返しながら、やっとついた町は、夕暮れ色に染まっていた。
気にはなるが、先を歩いていた方が精神的に楽なので、町の中でもガウリイは相棒の前を歩く。彼女が、さして気にした様子もなく後を歩いてくれているのもあり、そのまま町を歩く事が出来た。
視線が止まったのは、仲睦まじく歩く男女の姿だった。
他にも人は居る中、何故かその二人に目が行ってしまったのだ。
余程親密なのであろう、女性の肩に伸ばされた手は、定位置だ。といわんばかりに余裕が見てとれる。
対して、今まで平然と触れていた髪の毛さえも、怖くて触れられそうに無いガウリイ。
到達出来るか分からない遠い未来の光景に、目眩いがしそうで、ガウリイは視線を外した。
「ぬぁ?!!…な…な…」
ひやりと冷えた手に、自分の右手を取られ、ガウリイはびくっ!と体を震わせ歩みを止める。
誰のものか?考えなくても分かる。彼に警戒されずそんな事が出来るのは、ただ一人しかいない。
「おっきい手。父ちゃんみたい。」
無邪気に笑う相棒。その身体に見合った小さな手が、彼の手に触れていた。
元来、相棒は必要がなければ手を握ったりはしない。
そして、今は平常時で、彼女お墨付きの野生の勘は何の危機も伝えていない。しかも、往来のど真ん中である。
「な…ど、どうしたんだ、いきなり??」
「ん?ほら、あんたのグローブ、あたしには大きかったじゃない?で、どんくらいなのかなぁて思って。」
何とか言葉に出来た問いに、彼女はじっくりと大きな手を見ながら答えた。
興味津々なのか、彼の大きな手をさわさわと撫でたり、ひっくり返したりとしている。
今は、二人共にグローブを外していて、その彼女の手の感触が、直に甘い刺激となって彼に襲う。
甘い刺激は熱となり、押さえている熱を煽る。
『治癒』
短い相棒の歌が聞こえ、ガウリイの手にあった新しい傷が跡を残さず消える。
ガウリイは成程、と納得した。彼女は傷に気が付き、治す為に手を取ったのだと。
少し残念な気がしたが、これで離して貰えると安堵したが、甘かった。
彼女が、手の甲にある古い傷を指でなぞったのだ。
早まる鼓動、熱は爆発しそうなほど膨らみ、表に出ようとしてきて、ガウリイは何とか逃れ様と身を捩る。
しかし、相棒はそんな事お構い無しに指を絡めてくる。
思ってもいない行動だった。
恋人同士みたいな指と指を絡めた繋ぎ方に、当然、ガウリイは焦る。
「お…おい!」
「…さ!行きましょ。部屋が無くなっちゃうわ♪」
一瞬、ほんの一瞬相棒の瞳に熱が篭ったが、それを思わせない程ににぱっ!と笑い、繋いだ手はそのままに、先を歩き出す彼女。
彼はそれに気付く余裕も無く、あたふたと縺れる足を前へと出すだけだ。
繋がれた手は柔らかくて小さくて、強く握り返したら壊れてしまいそうな程頼り無い。
それ以上に頼り無いのはガウリイの足取りだった。
縺れ絡まり、前へ出すのがやっと。
数歩歩き、ガウリイは我慢ならず悲鳴混じりに断りの言葉を発した。
が、強く言えたのは最初だけ、最後は尻すぼみになってしまった。
小さく振り返った相棒は呆れた声で返事をして手を離し、何事もなかった様に、先へと歩く。
余りにあっさり手を離され、ガウリイは呆然とした。
断られても困るが、あっさり手放されるのも寂しく、かと言って、離して欲しい理由を聞かれると、返答に困る訳で、ぐるぐると思考を巡らせていると、先を歩いていた相棒と引き離されてしまった。
慌てて追い付き、いつも通りに彼女の半歩後ろに付いた。
ふにゃっとした柔らかな感触が手に残っていて、相棒の小さな手が気になる。
ぶんぶか頭を激しく振り、違う事に意識を向けようと、行動の理由を考える事にした。
色っぽい理由なら大歓迎なのだが、相棒は自分を保護者と思っている筈で、平気で手を繋いだ事からも、男として意識されて無いのであろう。
苦しくなった胸に、ガウリイは顔を顰めたくなった。
嫌われていない自信はある。嫌いな人物を側に置いておく程、相棒の器量は広く無い。
なら好かれているか?と考えると分からない。信用はされている。それも格別な。
再三“保護者“と言われ、めげそうになったが、そもそも、あの繋ぎ方は保護者に対するものでは無い。
そこまで考え、彼は頬が熱くなった様な気がした。
もしかしたら、両想いなのかもしれない。という期待が、彼を動かす。
「…何?嫌だったんでしょ?」
意外そうに見上げてきた大きな瞳。
「い、嫌じゃない。お、お前さんは?」
「…さあ?どっちだと思う?」
精一杯の気持ちに、彼女は暖かな笑みを返した。
柔らかく繋がれた手、それはガウリイが勇気を振り絞り、彼女の手を壊れ無い様に、とそっと握ったから。
振りほどかれなかった事に安堵したが、期待した反応は見られず、ガウリイはがっくりした。
赤面して動揺して欲しかったのだ。そうなったら、少しは希望が見えるのに、彼女の顔には、それが見えない。というか、まるっきり普段通り。頬に朱が入る訳でもなく、視線も泳いでいない。
つまり、あれが彼女の常識。という事なのであろうか?
悲しい事実に、ガウリイは頭を抱えたくなった。
≪続く≫