ガウリイの&への挑戦

【手を握る】-リナの挑戦-

「なあ、グローブどうしたんだ?」
「あのねぇ…昨日言わなかった?穴が空いたから買い替えるって。」
朝から着けていなかったのに、今更、そんな事を聞くか。とリナは思った。
自然、相棒に向ける視線は厳しいものになる。
「あ…ああ…そう…だったな」
「たく…外見だけは良いのにねぇ…中身は残念なんて…」
呆けた顔で頭を掻く相棒に、聞こえない様に呟くリナ。
が、聞こえていたらしい彼が、眉を顰める。
「聞こえてるぞ?」
「良いじゃん本当の事だし♪」
少し低い声で言われたが、リナが気にする訳が無い。無茶さえしなければ、基本、彼は彼女に甘いからだ。
ぷくく♪と笑い、適当な音で歌う。
彼を馬鹿にしている内容だが、どこか硬い彼の空気を和らげたかったからだ。
ぽん!
「…へ?」
「無いよりマシだろ?」
軽く頭を叩かれ、呆気にとられた振りをしたリナに、相棒が不器用にウィンクして言ってみせた。
大きな手はすぐに遠のき、彼女は寂しい様な気になったが、彼が残した物を確認する事にした。
頭の頂点には、相棒のグローブが置かれてあった。
「意味ないわよ。」
呆れた声で言い、頭の上に置かれたそれを、はめてみせる。
手を下げるとするっと抜けそうな位、グローブは余っていて、持ち主の体格の良さが分かる程だ。
「あ…ι」
「間抜け。」
今気付いた!と言わんばかりの声を漏らした彼に、彼女は冷たく言い放った。
どこかむずむずするくすぐったさを、相棒に教えたくないからだ。
「すまん。」
「だいたい、あんたのって指無いし。」
言ってリナは相棒のグローブを外し、自分の荷物袋に入れる。
途端、相棒の気配が揺らぎ、戸惑っているのであろう声が漏れる。
「え…あ…」
「乙女の肌が晒されてんのに、自称保護者さんの肌が守られてるなんて可笑しいじゃない。代わりが見つかるまで没収♪」
私物を奪われた彼が反論する前に、楽しそうに言う彼女。そうすれば相手が反対しない、と分かっているからだ。
が、気分を害したのか相棒が足を早め、リナを抜いた。
雰囲気は柔らかいが、普段とは違う状況に彼女は不思議そうに口を開く。
「…怒ったの?」
「枝とかで傷つくだろ?」
返って来た言葉は柔らかく、春の陽射しの様な暖かさまであった。
いつもと変わらないトーンであったが、リナにはそう感じられたのだ。
歩みを遅めた相棒は、素手で枝を折ったり、小さくない石をさりげなく蹴って障害物を退ける。
そこまでしなくとも、旅慣れたリナなら石に足を取られる事は無いし、枝に引っかかっても魔法で消せる小さな傷程度だ。
込み上げた笑いを隠す事なく、リナはくすくす笑いながら言う。
「随分過保護だこと。」
「お前さんの保護者だからな。」
「自称でしょうが。」
先を歩く自称保護者殿の後を大人しく歩くリナ。
正直リナには、守られるのは性に合わない。一人旅をしてきたという自負もあるし、実績もある。
が、後を付いて歩くのが面白く感じた。
それは、相棒がちらちらと様子を伺う為に小さく振り返るのだが、視線が合うと慌てて反らすからだ。
逃げられると、追いたくなるのが人の常。リナは、相棒が振り向くタイミングを見計らって小首を傾げてみせ、彼をからかう。
ちらりと見える相棒の顔が、赤くなっているのもしっかり見逃さない。
何か、適当な会話でもすれば相棒の気は紛れるだろうが、それをするつもりは無い。
リナ自身は、今の状況が楽しいからだ。
それと、守られているのが存外、心地良いのもある。場数を踏んで実力はあっても女の子だ。守られて嫌な気になる訳が無い。
しかも、美形で腕は超一流。そこらの騎士様より頼りになるってものだ。信頼出来る相手なら、なおの事。
道が整備されてきて、町に近付いている事を示す。
そうなると、障害になる物は無い。
が、相棒はリナの前を維持し、リナも抜こうとはしない。
夕暮れ時に着いた町は、活気に溢れていた。
買い物客や親子連れ、仕事を終えたらしい男もちらほら、逢い引きを楽しんでいる男女連れは急ぎ足の周りとは異なりのんびりしたものである。
いつもとは明らかに違う行動をしたら、相棒はどうするのであろう?
イタズラ心がリナを動かした。
するりと相棒の右手をとり、握ってみたのだ。
「ぬぁ?!!…な…な…」
「おっきい手。父ちゃんみたい。」
びくっ!と体を震わせ足を止めた相棒の横に立ち、リナは無邪気に笑ってみせる。
「な…ど、どうしたんだ、いきなり??」
「ん?ほら、あんたのグローブ、あたしには大きかったじゃない?で、どんくらいなのかなぁて思って。」
握ったままでリナは相棒の質問に答える。
幸いにして、二人共にグローブをしておらず、直接触れている。
微動だに出来ない相棒の手を、優しく撫でるリナ。
この手に何度救われたか、数えようとして止める。
数えられる訳が無い。物理的にも精神的にも助けられてきたのだ。
力強い手には、赤い小さな傷と、古い傷が見える。赤い傷は枝を折る際に付いたものであろう。古い傷は、出会う前か、それとも…。
『治癒』
力ある言葉をリナが唱えると、相棒の手にある新しい傷は直ぐに消える。
小さな傷だが、守られていたのだ。という証を消すのは勿体無い気がしたが、それでは相棒が傷だらけになってしまう。それは流石に耐えられ無いのだ。
これからも、否応無しに傷を負わせてしまうだろう。と分かっているから。
いつ付いたものか分からない傷は、消すのは困難であろう。
その傷を、リナは指でなぞる。
くすぐったいのか、傷の主は身を捩り、焦った声を漏らす。
「ち…ちょっ…」
「戦士の手よね。」
言いながら、リナは相棒の指と自分の指を絡めた。
「お…おい!」
「…さ!行きましょ。部屋が無くなっちゃうわ♪」
繋いだ手を引き、歩き出した彼女に、彼は文句を言いたそうに口を開きかけたり閉じたりしながら付いていく。
危うく、言ってはならない事を言うところであったリナは、雰囲気に呑まれちゃったわ。と内心で溜め息をついた。
自分で作った雰囲気だが、相棒の傷を見ているうちに、気持ちが溢れそうになったのだ。
それでは駄目なのだ。リナとしては、相手に言わせたいからだ。
これだけ匂わせれば、勘のするどい彼の事、直にそれを言って来る筈で、その機会を摘む事をしたくなかったのだ。
「分かったから!手を離して欲しい…」
「はいはい。」
大きな声は一瞬。段々尻すぼみになり、最後は聞き取る事さえ困難な程。
相棒の顔を見れば、平静を装っているつもりであろうが、眉が少し下がっている。
まだ押しが足らないか。とリナは首を振りたくなったが、そこは我慢。
呆れた顔で肩をすくめ、大きな手を手放した。
≪続く≫