ガウリイの&への挑戦【抱き締める】-ガウリイの挑戦- |
すっぽり収まっている小さな手。 意識しすぎているからなのか、ガウリイには、彼女が握り返してくれている様な気がしていた。 それで、少しだけ可能性が見え、彼の中で期待は膨らむ。 しかし宿屋に着くと、彼女は手をすり抜けてしまった。 勘違いだったのであろうか?口には出さなかったが、嫌だったのか?という不安が、ガウリイに襲う。 そこに救いの声。 「繋いでたら、一つの部屋にされるでしょ?」 余程、寂しそうな顔をしたのか、苦笑さえ浮かべている相棒。 確かに、彼女が言う通りで、手を繋いだ男女が宿に入ったら、普通は同室すると思うであろう。 しかし、二人はそういう関係で無いし、ガウリイの精神衛生上、歓迎出来ない状況になってしまう。 それでも、手に残る温もりが名残惜しく、逃がさない様、ガウリイは手を握り締める。 取れた部屋は、階段を挟んだ二つ。 まるで、今の微妙な距離を表している様だ。ぼんやり考えながら、ガウリイは手の平を見ていた。 すっかり彼女の温もりは消え、手を繋いでいた事が幻の様で、握ったり開いたりとして、彼女の柔らかな感触を思い出していたのだ。 握った瞬間、潰してしまいそうな程、小さくて柔らかな相棒の手に、心臓が張り裂けそうな程、高鳴った。 今も、それを思い出すと切ない痛みを訴える。 正直な気持ちを、包み隠さず伝えたら、その温もりが離れるかもしれない。そう考えるだけで、肺が呼吸を忘れたかの様に、息が出来なくなる。 ふぅと長く息を吐き、ガウリイは呼吸を取り戻す。 「諦めた。て思ったんだけどなぁ。」 扉に寄り掛っていた背を離し、荷物をベッドに放る。 部屋に入り、荷物を置くのも忘れ、ずっと扉に背中を預けたままだったのだ。 ギシとベッドが軋む。 ベッドに腰を降ろし、、ガウリイはやはり右手を見た。 相棒と少しの合間、繋がっていた手。 見ていると、余計な欲が芽生える。 もっと触れてみたくて、もっと近くに居たくて、彼女をもっと感じたくなってくるのだ。 「だぁ!!違うだろ!」 ゴン!と左手の拳で額を叩き、ガウリイは頷垂れる。 相棒を困らせるだけの気持ちは、抑えなければいけない。と分かっているのに、気持ちは歯止めが効かず、どんどん積もるばかり。 一度沈めた筈の気持ちは、抑えていたからかなかなか静まらない。 「保護者…てのは辛いもんだな…」 いつになったら、彼女の側に居ても平気になれるのか?途方も無い疑問を考え、離れる。という選択肢が無い自分を、嘲笑った。 「結局、捕われてんだよな。」 目を細め、彼は彼女の部屋のある方向の壁を見て、ふっと笑う。 酷く、男臭い笑みで、大衆の中でしたならば、全ての女性のハートを掴んだであろう。 階下の賑わいが、ざわざわと伝わってきて、ガウリイの腹が空腹を意識した。 そういえば、お昼を満足に食べていなかったな。と思い出して頬が熱くなる。 激しく頭を振り、お昼の出来事を追い出し、ガウリイは頬を両手で叩いた。 部屋を出、向かうは相棒の部屋の前。 装備を外したラフな格好だが、剣はしっかりと握っている。 彼女を守る為の剣。そして、彼女が見付けてくれた大事な物だから。 部屋の前まで来たは良いが、どう声を掛けたものか?視線を彷徨わせ廊下を見るも、不審そうに通り過ぎる商人のみ。答えが落ちている筈も無い。 深呼吸し、震える手で扉を叩く。 ―コンコン 「そろそろ飯にしないか?」 落ち着いた声が出て、ガウリイは内心ほっとした。 相棒を強く意識している今、酷く緊張しており、普通の会話さえ困難なのでは?と思っていたからだ。 「お待たせ。」 軽い音を立て部屋を出て来た彼女。 それだけの事。なのに、ガウリイは、何だか恥ずかしくて、にへらと顔が緩んだ。 まるで、デートの待ち合わせみたいな、相棒の“お待たせ“という言葉が、甘く頭に響く。 その疚しさを悟られたくなくて、彼は視線を階段の方へと自然に向けた。 「飯、美味しいと良いな。」 「そだね。」 当たり前の様に、相棒は先に歩き出す。 何気ない行為。いつもの風景。 それなのに、嫌が応でも、意識しているのは自分だけなのだ。と現実を自分に突き付けている様で、ガウリイの目の前が一瞬暗くなる。 それでも、普段通りに足は相棒の後を追った。 「調子、悪いのか?」 食事が始まって間もなく、ガウリイは堪らず彼女の顔色を伺った。 頼んだ量はいつも通りだが、いつもの様に食事を奪ってこなかったからだ。 正直、お昼の事があり、ガウリイは奪い合いの戦争の様な食事はしたくない。 だから、有難い事だが、反面、心配になる。 僅かな微笑みを浮かべた彼女は、食事の手を止め、上目使いで首を傾げる。 「たまにはゆっくり食べてみたくて。いけない?」 「いや、調子が悪くないなら良いんだ。」 頬を掻き、ガウリイはフォークを口に含む。 悪くは無いが、どうにもそわそわしてしまい、自然、会話は少なくなる。 彼女も時折、料理の感想を述べるだけで、何故か言葉少ない。 そんな、珍しく静かな食事風景。頼んだメニューが半分程進んだ頃、相棒が不意に、しっとりとした声を発する。 「美味しい料理には、美味しい飲み物が必要だと思わない?」 「弱いんだからあんまり飲むなよ?」 渋い顔になるのは否めなかった。 相棒の言わんとしている事が分かったからだ。 やがて、一本のワインがテーブルに。 和やかな食事にワイン。 デートの様な光景に、ガウリイは密かにドキドキしていた。 弱い彼女に飲ませ過ぎ無い様に、という思惑もあったが、緊張で喉が乾き、ワインは進む。 「ふー、あたし、もう良いや。後宜しく〜v」 早々とデザートの皿へと移る相棒。 珍しい事だ。 弱いが、彼女は良く飲みたがり、止めると怒られるのだ。呂律の回っていない舌足らずな口調で。 「…おう。」 どういう訳か、気になったが、疑問は口に出さなかった。 これ以上飲まれて、酔いが回った相棒を、周りの男達に見せたくなかったからだ。 「おいしかった〜v」 「だな。」 弾む声の相棒。 その後に続き、ガウリイは階段を昇る。 急に立ち止まる相棒。 当然、ガウリイの足も止まり、振り返った彼女と視線がぶつかる。 「どうした?」 「む〜、2段上でも見下ろせ無いか。」 「満足か?」 とろんとした目で睨まれ、彼は苦笑するしかなかった。 他の、対処の仕方が、分からなかったのだ。 その時、急に彼女が動き、階段の狭い段の上、身を乗り出した。 「おぃ!!!」 「たく…規格外なのよ、あんた。腕が届かないじゃない。」 慌てて彼女が落ちない様に手を伸ばしたガウリイ。 気付いたら、相棒が肩に抱きついていて、言葉が途中で肺に吸い込まれる。 「な…お…ぇ」 「やっぱ、もう少し背が欲しいわ…」 混乱した頭で、それでも、彼女が落ちない様にと、ガウリイはそっと腕を背中に回した。 首に回されたふにゃとした相棒の腕は、何故かしっかり力が入っていて、彼には、しがみ付かれている様に感じられた。 コテンと肩に小さな頭が置かれ、ドクッ!と彼の体中が震える。 「ど…し…た?」 やっと出た声は、干上がり、掠れていた。 が、何故か返事が無い。 アルコールで上気した息が、肩に掛り、上昇した体温で、強くなった甘い匂いが鼻に届く。 このままじゃ不味い!衝動的に抱き締めてしまいそうで、ガウリイは慌てて彼女の背中から腕を退け、小さく頼りない肩を手で押す。 「あれだけで酔ったのか?仕方ないな。」 くしゃ!と柔らかな髪を撫で、一生懸命笑みを作り言うガウリイ。 何とか見れた彼女の顔は、何故か艶やかな笑みだった。 |
≪続く≫ |