ガウリイの&への挑戦

【抱き締める】-リナの挑戦-

二人が着いたのは、大国という程大きく無く、小国という程小さくも無い国の、山間部にある町、チーズが有名で、遠方から商人が買い付けに来たりする為、そこそこの賑わいを見せている。
人の多い通りを、手を繋いで歩く二人は、他人から見てどう見えるのであろうか?防具を付けたままだから少し色気に欠けるのは事実ね。冷静に今の状況を分析し、リナは苦笑し、繋いだ彼の手、それに応えそちらの手にさりげなく力を入れた。
力一杯握っても、相棒は堪えないだろうし、対抗する意味は無いのでやらない。
男と女、体格だって随分違う。力の差があって当然なのだ。
宿屋に着き、リナは手を離し、
「繋いでたら一、つの部屋にされるでしょ?」
戸惑いの表情を見せた相棒にそう言い、その入り口へと入っていく。
昨日は、偶然そうなったから受け入れただけで、リナだって年頃の女の子である。理由も無いのに同室はしたく無いのだ。
一人部屋を二つ確保し、二人はそれぞれの部屋へと分かれる。
「さて、どうしたものかしら?」
荷物をナイトテーブルに置き、リナはベッドに座りながら一人ごちた。
相棒に気付かせる為に行動し、返ってきたのは弱すぎる意思表示。
先にこちらから行動してあるのに「嫌か?」と確認しなくても良いのに。きっと、返答の意味も、気付いていない。と思い、リナは苦笑し、荷物袋から馴染みの青いグローブを取り出す。
「全く、あの馬鹿のどこが良いのかしらね?」
とか言いながら、リナの表情は柔らかな笑み。
荷物袋から小さなポーチを取り出し、それから目的の物を出した。
針と糸だ。糸は魔導銀。リナは、それで一針一針丁寧に魔導文字をグローブの袖口に施していく。
大した意味は成さない。服全体に施せば、ある程度の呪符になるが、今、彼女が施している程度ではお守り位の役割にしかならない。
勿論リナはその事を周知している。それでも、相棒の身を少しでも守れるならば、と丁寧に縫っているのだ。
ふと、針を動かす手が止まる。
部屋の前に、グローブの持ち主の気配を感じたのだ。
針をグローブの適当な所に止め、荷物袋に入れ、リナはノックを待つ。
―コンコン
「そろそろ飯にしないか?」
ノックの後、続いた呼び掛けは落ち着いたものだった。
ノックまでには、微妙な間があったが、声はいつもの通りを装っていて、その事が何だか可笑しく、リナはクスクスと笑いながら扉へと向かう。
「お待たせ。」
軽い音を立て部屋を出ると、相棒は困った様なはにかんだ笑みを浮かべていた。
「飯、美味しいと良いな。」
「そだね。」
いつものやりとり。だが、相棒は、リナと視線を反らしていた。
食堂に向かう為、視線をそちらに向けた様に見せていたが、明らかに視線を反らされたのだ。
それに気付かぬ振りをし、リナは先に食堂へと向かう。
ゆっくりと後をついて来る気配。
彼女は知らず唇を噛んだ。
近付けた。と思ったが、どうにも縮まっていないらしい距離にもどかしくなったからだ。
やはり、明確な行動を取るしか無いのだろうか?ぼんやり考えながらリナは少し寂しく感じた。
戦闘の際は、何の打ち合わせ無しでも通じ合えるのに、肝心な事が伝わらない事が。
「調子、悪いのか?」
心配顔の相棒がそう声を掛けて来たのは、食事が始まって間もなかった。
リナの頼んだ量はいつも通りだが、食事の仕方が大人しかったからだ。
「たまにはゆっくり食べてみたくて。いけない?」
「いや、調子が悪くないなら良いんだ。」
食事の手を止め、相棒を上目使いで見、リナが首を傾げると、気まずいのか相棒は頬を掻く。
珍しく静かな食事。
リナが手を出してこないからか、相棒もリナの食事に手を出さなかったからだ。
「美味しい料理には、美味しい飲み物が必要だと思わない?」
「弱いんだからあんまり飲むなよ?」
不意に言った、リナの言葉の意図を悟った相棒は、渋い顔をする。
こういう時だけ鋭いから嫌になっちゃうわ。口には出さず、リナは愚痴を飲み込む。
それでも、一応の了承だ。直ぐにゼフィーリアのワインをウェイトレスに頼むリナ。
一本のワインを真ん中に、和やかな食事をしている二人、ハタから見れば、立派なデートのワンシーンだ。
「ふー、あたし、もう良いや。後宜しく〜v」
頬がほんのり熱くなってきたリナは、ワインの瓶を相棒の方へ寄せ、デザートの皿を持つ。
相棒に託された量は、グラス二杯分程で、 ペースが早い彼は、瓶の半分以上を飲んでいるが、まるっきり表に出ていない。
「…おう。」
何か言いたげな顔で、相棒は瓶を受け取った。
お酒は、辛口の方が、彼の好みなのだが、リナが頼んだのは少々甘口で、好みの味ではないからであろう。
それでも、彼は瓶を空けた。
「おいしかった〜v」
弾む声でリナは階段を先に上がる。
「だな。」
同意の声はその背後から。
ちゃんと後ろを付いて来ているのを耳で確認し、リナは階段の中頃まで来て振り返った。
きょとんとした表情の相棒と視線が合う。
「どうした?」
「む〜、2段上でも見下ろせ無いか。」
「満足か?」
睨む様に相棒を見ると、彼は苦笑を漏らす。
いつもより近くなったが、それでも、リナの頭は若干低い場所にある。
階段の狭い段の上、リナは手摺に手を置き、身を乗り出す。
「おぃ!!!」
「たく…規格外なのよ、あんた。腕が届かないじゃない。」
慌てて彼女が落ちない様に手を伸ばした相棒。
リナはそれを利用し、彼の肩の上から抱きついた。
が、どう見てもリナが相棒に抱え上げられている様にしか見えない。
本当は、恋人にする様に抱き締めたかったのだが、腕が回らず、首にしがみつくしか出来ず、不服なリナ。
「な…お…ぇ」
「やっぱ、もう少し背が欲しいわ…」
自分の背中に回された腕は、力が篭っておらず、リナを支えているだけ。
対して、思いっきり力を篭っているのに、しがみ付く程度。
相棒の肩にコテンと額を置き、リナは相棒の行動を待った。
≪続く≫