ガウリイの&への挑戦

【キスをする】-リナの挑戦1- 

※このお題は、わざと視点を逆に書いています。
どうして、こうなったのか。
目を見開き、口をぱかっと大きく開けガウリイは相棒を凝視する。
抱き付いてきた相棒を押し放し、いつもの様に子供扱いをした。
いつもの彼女なら、そこで「子供扱いしないで!」と怒る筈だった。
しかし、返ってきた反応は、艶を感じる程鮮やかな笑顔。
で、それに見惚れてしまい、暫し言葉が出ず、やっと出たのは、酔っ払っているであろう彼女への気遣いの言葉だった。
そう、彼女は酔っ払っているから、それで変な事を言ったのだ。「キスして」と。
分かっているが、視線はどうしても、小さな顔の、これまた小さなぷっくりとした紅へと向かってしまう。
柔らかな彼女の事、そこも当然柔らかい筈で、手や肩とは比べられない程柔らかいのだろう。
それは、どれ位なのだろうか?触れた事が無い筈なのに、何故かその柔らかさがリアルに想像できてしまい、ガウリイの頬が、かあ!と熱くなる。
「そ…相当…酔ってんだな。水、貰って来るな。」
「ふふv変なの?あたしは、おやすみのキスを、して欲しいだけよ?」
釘付けになっていた紅から、何とか視線を階下へと向けたガウリイの顔を、その肩に乗ったままの相棒の手が動き、両頬に添えられそちらへと向けさせられた。
「何…馬鹿な…事。」
掠れた声、滑らかに動かない口、それでも、言葉に出来た事にガウリイは安堵し、悪い冗談だ、と笑ってみせる。 とはいえ、いくら冗談でもきつすぎだ。
お陰で、想像した柔らかさを確認してみたくて、喉がゴクリとなり、腕が上がらない様に抵抗するのに理性が総動員しているガウリイ。
「あのな…昨日も言っただろ?保護者だけど、オレは男なんだ。」
「勿論、そんな事分かってるわよ。」
困った表情を作り、ふぅと溜め息を吐き言ったが、彼女は肩を竦めるだけ。
分かっている訳が無い。
先程までいた食堂からの痛い程の視線の量。
それのお陰で理性が働いて、無邪気な彼女を裏切らないでいられているのだ。
それがなかったら、どうなるか?想像するのも怖くて、ガウリイは首を力なく振る。
「分かって無いよ。お前さんは。」
「そう?少なくとも、自称保護者さんよりは分かってると思うわよ。」
微笑み、右手を動かす彼女。
頬から顎のラインを伝い、首へ。
何で、刺激するのか。
ドクドク激しく脈打つ心臓。
視線は、笑いながら話す紅に固定され、体はピクリとも動かない。
「緊張してるの?脈が早いわよ?」
彼女に頸動脈に触れられ、彼の体が震える。
「お前さんが…変な事…言うから…だろ。」
ぎこちなく上がる腕、硬直した体を無理に動かしているからか、筋肉がギチギチとなる。
小さな手を自分から剥がす、それだけなのに、酷い疲れと共に、虚無感。
それに気付かない振りをし、ガウリイは固定していた視線を外す。
「冗談でも、女の子が、軽弾みな言動をするもんじゃない。痛い目に合うぞ。」
真っ直ぐ向けてくる相棒の視線を感じるが、合わせる訳にはいかない。
理性が壊れてしまうから。
震える足で、相棒の横を通り抜け、階段を上がり、ガウリイは部屋へ逃げ込む。
無意識に鍵を閉め、ふらふらっとベッドに吸い寄せられる様に歩き、靴を脱ぐのも忘れそのまま倒れ、やっと彼の力が抜ける。
変に力が入っていたのだ。全身に力を入れていなければ、ならなかった。
ともすれば、細い肩を掻き抱き、誘われるがまま小さな顔に顔を寄せてしまいそうで、一瞬の隙も出来ない程、彼女を全神経が欲していたから。
酔っ払いの冗談とはいえ、相手は想い人。
キスをするなんて、遠い夢の話だと思っていたのに、急に舞い降りたチャンス。
例え冗談であろうとも、相手から言ってきたのだ。これ幸いと行動しても、責められないかもしれない、と思うと勿体無い気もする。
が、彼女を泣かす事になってしまう。という可能性と、ずっと密かに願っていたその瞬間は、もっと雰囲気があって、酔った上の冗談なんかで、相棒との関係とその夢を壊したくなくて、行動をしなくて良かったとガウリイは安堵した。
しかし、その安堵も短い。
―ガチャ!!
「んな?!!」
勢いよく扉を開けられ、相棒が入って来たのだ。
弾かれる様に顔を上げたガウリイの視線の先に見えたのは。
灯りの無い薄暗い部屋で、何の迷いもなく近寄って来る彼女。
跳ねる様に起き上がり、ベッドから降り抗議するも、彼女は何くわぬ顔で、挨拶を忘れていると述べた。
「あい…さつ?」
「そうよ。親に教わらなかった?挨拶は大切だって。」
声を絞り出したガウリイは、相棒を確かめる様に伺い見た。
当然。といった表情で頷き言った彼女は、真っ直ぐな視線を寄越している。
何か間違っている気もしたが、言っている事は正しいので、彼は引き攣る口で笑みを作り、掠れた声を出す。
「ぁ、お、おやすみ。」
それで、この状況から解放される、と安堵し、
「これで…良いだろ?」
弱まった掠れで告げた。
「キスは?」
「す、する訳無いだろ…」
それでも、真っ直ぐな視線は動かず、それから逃げる為に、ふい!と顔を背けガウリイは吐き出す。
「部屋に戻れよ。挨拶…しただろ…」
「あたしは、おやすみのキスをして。て言ってるでしょ?」
「あのなぁ…」
「してくんないと、出て行かないわよ。」
冗談だと分かっていても、薄暗い部屋に想い人と二人きり、雰囲気は完璧で、ちょっと手を上げれば、彼女の細い腕を掴めるという好条件。
余りにも整い過ぎた環境は、ガウリイの精神を磨り減らし、意識されていない。という悲しい事実に知らず眉根に力が入った所に、トーンを一つ下げた相棒の声が届く。
背けた顔はそのままに、ちらりと彼女を伺えば、真っ直ぐな視線を向ける彼女。
「おやすみのキス、してくれるわよね?自称保護者さん?」
「あ、のな…」
「あんたが男だ。てのは聞き飽きた。それ位知ってる。ねぇ、自称保護者さん、保護者なら出来るでしょ?おやすみのキス。」
眉間にさらに力が入り、苦しいながらも言葉を発し様とするも、嫌味な程の笑顔の彼女に邪魔をされた。
ツキンと彼の胸が痛む。
“保護者“自分で言う分には苦しみは伴わないのに、彼女が言うと鋭い牙になるのが、ガウリイには不思議でならない。
≪続く≫