ガウリイの&への挑戦

【嫉妬させる】-ガウリイとリナの挑戦1- 

自分が怒り心頭の中、相手が馬鹿みたいに笑み崩れ、両想いなのが嬉しいと言ったら、何と返したら良いのだろう?と暫く呆けていたが、
「はぁ。」
と溜め息を吐き、リナは高まった感情を吐き出した。
怒り続けても、平和ボケしている相棒相手では無駄。と悟ったからだ。
「天然。」
無駄とは悟ったが、沸き上がる感情はある訳で、沸々とした怒りを、リナは低い声でぶつけ、踵を返し歩き出す。
謝って欲しかった訳では無いが、ああ無駄に整った顔で、にこりと微笑まれては、怒っている側としては腹立たしい訳で、かと言って、怒り続けても、相手は反省しないし堪えないのでは、エネルギーの無駄なのだ。
「リナ、逆だぞ?」
「分かってるわよ。」
不思議そうに後をついてくる相棒に、振り向きもせずにリナ。
その後を、相棒は何も考えていない顔で付いて歩く。
「こっちに何かあるのか?」
「次の町。」
「へぇ、で、どこ行くんだ?」
「次の町。」
「……?まだ全部見てないよな?」
町を回りきっていないのに、次の町へと向かう事が、彼には不思議な様だった。
「あんた、あそこに戻る、て言うの?」
「昼飯、教えて貰った所で食うんじゃなかったか?」
出掛け際、宿の人に、リナが美味しい店を聞いていたのを、覚えていたのだろう、ガウリイは首を傾げる。
そろそろ昼食時、向かうとすれば、そこだ。と予測するのは、クラゲ頭でも、簡単であった様だ。
「ほぉ、あんな人の往来ど真ん中で、こっぱずかしい事、言った口が、それを言う?」
「へ?」
「戻ってみなさいよ、好奇心でじろじろ見られたければね。あたしは、このまま次の町行くから。」
昨日の事で、相棒から何かしら言ってくるだろう、というのは分かっていたリナ。
ヘタレな相棒の事、長引くのも覚悟していた。
案の定、何か言いたげな、挙動不審な男が一人出来上がり。
しびれを切らし、相棒に話題を振ったのは彼女自身で。ヘタレだから、大した事は言えないであろう。と高を括り、場所を考慮していなかった。
ところが、相棒はとんでも無い事を言ってくれ、予想外の言葉に、思わず足を止めてしまい、さらに恥ずかしい言葉を背中に受け、周りの好奇な視線も浴びる様に受け、と、とんだ羞恥に晒され、そんな場所に、戻る勇気は、リナには無かった。
「へ?リナが行くなら、オレも行くぞ?」
「天然。」
羨ましい程、無頓着な相棒の言葉に、リナは溜め息混じりに言葉を吐き出す。
相棒を表すのに、ヘタレと肩を並べる程、ふさわしい言葉だ、とリナは思う。
が、言われた当人は、
「なあ、これで、オレは只の保護者じゃないよな?」
と全く気にした風もなく、嬉しそうな声で質問をしてきた。
「まさか、当分、只の保護者して貰うわよv」
「へ?!」
「安心して、あんたが保護者だ。て認めてあげるから。」
否定されるとは、思っていなかったのだろう、戸惑いを隠せない相棒の声に、リナは弾む声で駄目押しをする。
複雑な乙女心が、そうさせたのだ。
「ちょ…ま…」
「ずっと保護者だったあんたに、失礼じゃない?あたしを保護者だ。て思った事無いなんて。」
「いや…それは…」
「保護者返上したかったら、努力なさい。あたしが、頑張った様に。」
くるり、と身体ごと振り返り、リナが見た保護者は、複雑な顔で足を止めていた。
困惑と寂しさを含んだ憂い顔なのに、口元は笑み。
「努力。か。つまり、嫌いになった訳じゃないんだな?」
「……人の苦労を無駄にする奴は嫌い。」
確認する様に聞かれ、リナは少し間を開け、不機嫌な声で言い、踵を返し歩き出す。
「頑張るな。」
「簡単には認めてあげないわよ。」
相棒に想われている、と気付くまで、リナは苦しんでいた。
そして、気付いてからは、煮え切らない相棒に悩まされ、仕方なく、行動に移した。
が、あれだけ苦労して、言わせてみれば、「忘れてくれ」だ。
その残酷さを、体感して貰わなければ、リナは許せない。
「おう……」
苦しげな保護者の返事を背中に受け、リナは自分の忍耐力との勝負を覚悟した。
次の町へは、山道を登る。
まだ、グローブを嵌めていない二人。
昨日の様に、保護者が先を歩き、リナが後を歩く。
道中、現れた盗賊は、リナの魔法で、即座に氷漬け。
何の障害も無く、山頂に在る町に着いたのは、お茶の時間には遅く、夕食には早すぎる。そんな時間であった。
「あ〜、お腹空いたぁ〜。」
「なら、携帯食糧食べれば良かったじゃないか。」
お腹を擦り、力無く言ったリナに、保護者は呆れた声で言った。
そろそろ昼食時。という時間に、前の町を出たので、昼を回った頃に、リナが「お腹空いた、何か食べたい」とごねた。それに、彼は「携帯食糧喰うか?」と返した。
しかし、リナは「それは嫌」と即座に返し、「次の町まで急いで頂戴。」と続けて言ったのだ。
「はあ?予定では、美味しい美味しいお昼ご飯だったのよ?それが、何が悲しくて干し肉なのよ!」
「だったら、前の町で、教えて貰った所に行けば良かったじゃないか。」
「……はう、お腹空き過ぎて、怒る気力も無いわ。くらげな保護者持つと苦労するわ。」
溜め息一つ溢し、リナは保護者の隣に並ぶ。
「手、出して。」
「お、おぅ。」
昨日と同じ、保護者の手には、新しい小さな傷がいくつも見てとれる。
頬を赤くして差し出された大きな手に、リナは手を翳し、
『治癒』
短い詠唱の後、力ある言葉を放つ。
明らかに、肩透かしをくらった顔をする保護者。昨日の様に、リナが触れるのを期待していたのだろう。
「さてと!どこでも良いから、さっさと入りましょ?」
短い治療を終え、リナは先を歩き出した。
相棒を保護者扱いをする。と決めたのだ。そして、リナは何事も徹底しなければ、気が済まない人物。
しかし、その相棒は、昨日と今日の、彼女の温度差に戸惑いを隠せず、寂しそうに手を見詰めてから、リナの後を追った。
「何か用?」
町の中央で見付けた食堂。
そこで、ある程度お腹を満たしてから、リナは切り出した。
相棒がずっと見詰めていた為だ。それは、食堂を探す為、リナが先を歩いていた時も、背中へと向けられていた。
「……えっと…とりあえず、熱い視線送ってみたんだが…」
「あらそう?てっきり何か不満があるのかと思ってたわ★」
ぽりぽり頬を掻く保護者に、リナは態とらしく微笑む。
「駄目か?」
「駄目。」
「厳しいな……」
間髪入れず返したリナに、相棒は苦笑い。
「あのねぇ、あんたのあつ〜い視線なんて慣れてるの。ずっと浴びてたのよ、当たり前でしょ?」
「気付いてたのか…」
ふんと鼻を鳴らし言ったリナの言葉で、苦笑いは驚きへ。
「あんだけ浴びせられたら、嫌でも気付くわよ。」
まだ残っている食事に手を伸ばし、リナは何でも無い風に言った。
が、美貌の保護者に熱を込めて見られるのに、慣れる訳が無い。
今は、驚きの顔へと変化しているが、真っ正面からの熱い視線を向けられたのは、初めてでもある。
前は、こっそり向けられていたそれに、ずっとリナは顔が赤くならない様に努めていた。
ここ最近は、逆に怒りさえ感じていた。男らしく真っ正面から見て欲しい。と。
が、実際真っ正面から向けられると、心臓に悪い。
只でさえ、美形なのに、真剣な目に熱が籠ると、色気がありすぎで、良く平気な顔が出来たな。とリナは、こっそり安堵の溜め息を吐いた。
≪続く≫