ガウリイの&への挑戦

【求婚する】-ガウリイとリナの挑戦1- 

両想いを確認した筈の彼女から、只の保護者を辞めたいなら努力しろ。と言われて半日が過ぎた。
先刻まで部屋に居た彼女は、隣室に戻ったが、彼の部屋には、まだはっきりとした存在感を残している。それは、甘くも柔らかな香りであったり、彼女の暖かな空気であったり、未だ落ち着きを取り戻せない鼓動の激しさであったり。
その一つ一つが、折り重なり、彼女を創り出す。
それは見えないのだが、ガウリイの目には、何故か挑発的に微笑む彼女の姿が見え、ドキリと身体が鼓動し、心臓の音が五月蝿くなった。
その、五月蝿い鼓動の中、彼女の一生と付き合うには、何をしたら良いのか、ずっと悩んでいたのである。
どんな努力をすれば、彼女が認めてくれるか、ガウリイには皆目、見当も付かない。
熱が籠った視線は、通用しなかった。話の流れで、手を握ってみたが、彼女は何の反応もなし。
なら、肩を引き寄せてみるとか?とも思うが、「保護者なのに、何してるのよ」と、非難されたら、立ち直れない。
そもそも、先程“それ”だけが目的じゃない。と言った手前、彼女の身体に、気安く触れないのだが。
頭から煙りが出そうな程悩んでいると、時間は激流の川の如く流れ、夕飯時に。
人を煽る様な事をした彼女は、いつもと変わらず呼びに来た。
−コンコン!
『ご飯〜!』
ノックと、声に応え、のそりと、ガウリイは、窓際から離れる。
彼女が部屋に居た頃から、ずっと、彼は場所を変えていなかったのだ。
空腹の彼女を苛立たせない為に、大股で歩き、ドアを開ける。
「冴えない表情ねぇ。あまり食事時に、見たくない顔してるわよ。」
「そう言われても、悩ませてるの、誰だよ。」
顔を見合わせた途端、眉を寄せた彼女。原因が彼女なだけあって、ガウリイにとって、それは不満で、口調が拗ねたものになってしまった。
それを楽しんでいるのか、彼女はクスクスと笑う。
「充分悩んでねvけど、それを表に出したら駄目。“悩んでいます”ていうアピールのつもり?それは、努力とは言えないわよ。」
「違う。それに、前、言われたんだ。惚れた相手の前では、悩んだ姿を見せるな。て。だから、本当なら見せたくない。今まで、そうしてきたし。」
「惚れた相手て、あたし?」
見られたくない姿を見られた恥ずかしさに、足元を見たガウリイ。
それを見上げる様に、彼女が下から覗いてきた。
当然、視線を合わせられず、ガウリイは視線を反らし、ぼそりと言う。
「そうだよ。」
「ふぅん?でも、あたし、あんたの悩んだ顔、見た事あるわよ?」
「へ?!!」
寝耳に水とは、この事で、ガウリイは、今まで、彼女にそんな顔を見せた覚えはなく、思わず、彼女を凝視してしまう。
その顔は、嘘を言っている様には見えなかった。
「何?もしかして、ポーカーフェイス保っていたつもりだった?」
「あ、あぁ。」
瞬きを繰り返し、首を傾げた彼女の言葉に、ガウリイは何度も頷く。
「だってあんた、あたしが怪我すると、深刻そうな表情で、眉に力入れて、どんよりした空気漂わしてたじゃない。見るからに、“どうして守ってやれなかったんだろう”て悩んでたわよ。」
「う゛!!」
言われてみれば確かに、ガウリイは身に覚えがある様な気がした。
だが、それを表に出して居ないつもりだった。
そこに、更に彼女は追い討ちの言葉を。
「それに、たまに目の下に隈付けてたわよ。あんたは馬鹿みたいに笑顔作ってたけど。」
「う゛〜〜ぅ〜〜。気付かれてたのかよ。恰好悪いじゃねぇか。」
下から覗かれる事に耐えられず、ガウリイはその場にしゃがみ、頭を抱え込む。
「まあ、確かに。恰好良くなかったわよね。」
いつもと逆に、ポンポンと、ガウリイの頭を軽く叩き、彼女は優しい声で言った。
それが、余計惨めで、ガウリイは声にならない唸りを出す。
「あれ?抉っちゃった?でも良いの?恰好悪い姿、見放題なんだけど。」
「良くない。」
クスクス笑いながらの彼女に、ツムジを突っつかれ、拗ねた声を発し、ガウリイは立ち上がった。
「か〜わい、拗ねてんだ?」
「拗ねてないし、可愛くもない。」
面白がっている彼女の声に、益々むくれた顔と声になったが、ガウリイはそれを隠す事が出来なかった。
恰好悪い所を見られた上に、「可愛い」と言われ、表情を作る事が出来なかったのだ。
「拗ねてるわよ。そんなに悔しいの?悩んでいる姿を見られるのって。」
「恰好悪いだろうが。」
「何で?そんなの分かんないわよ?まあ、今回のは、恰好良くないけど。」
大した事ではない様に溜め息混じり言われ、ガシガシ頭を掻くと、彼女はさらにあっけらかんとした声でそう言った。
男心を分かってないな。とこっそり溜め息を吐き、ガウリイは口を開く。
「恰好良い所を見せたい。と思うのは、普通だろ。」
「でもさ、ずっと一緒に居たんだし、色んなあんたを見てきたのよ?気にして無いわよ、あたし。」
「オレが気にするの。」
「あのねぇ、ヘタレの分際で、恰好なんか気にしてんじゃないわよ。フィブリゾの時は、囚われの姫してた癖に。」
機嫌を損ねたのか、腰に手を宛て言った彼女の声には、棘が含まれていて、フン!と鼻で笑った後に、
「大体、グジグジしてる時点で、充分恰好悪いわよ。」
と言って、踵を返し、階段へと向かってしまった。
「グジグジしてたのは悪かった。でもな、情けない姿見せたくないのは、嫌われたくないからなんだぞ。男心、分かってくれよな?」
「あたし、女の子だもの。そんなの理解出来ないわ。」
慌てて追い掛けて、追い付いてから言い、返って来たのは、冷たさを装った声。
苦笑を浮かべての言葉だったので、全く冷たさを感じず、ガウリイも釣られて苦笑を浮かべた。
そこに、不満そうな彼女の声。
「大体、あんただって、乙女の繊細な気持ち、分からないでしょ?盗賊イヂメの趣味、理解してないもの。」
「そりゃ、お前さんだけだ。大体だな、」
「あ〜、もう!その説教聞き飽きたわよ!」
「そりゃ、お前さんが、一人で行くからだろ?行くな。とは言わんが、せめて一緒に連れてってくれよ。」
「はいはい、考えとくわ。」
「ちゃんと約束してくれよ。」
気付けば、幾度となく繰り返してきた言い合いに話が擦り代わり、さっきまで燻っていた気持ちは、どこかへと行ったガウリイ。
それは、彼女の配慮なのかは分からないが、憑き物が落ちた気分になり、自然と微笑んだ。
夕飯は、いつもの通り、賑やかなものになった。互いの物を奪い合い、牽制するという、一般の食事時には見られない光景は、彼等にとっては日常だ。
そして、それぞれ部屋へと戻ると、ガウリイは溜め息を吐いた。
まだ、お風呂に入るには早い時間。
いつもなら、彼女が押し掛けてきたり、逆に、流れで彼女の部屋へと行くのだが……。
彼女は普通に部屋へと戻り、誘われなかったので、ガウリイは部屋へと戻った。
その為、今更彼女の部屋へと向かう訳にもいかないので、寂しさから溜め息が漏れたのだ。
離れたくないのなら、やはり、関係を変えるべきで、その為には、彼女が認めてくれる程の努力を、しなければならない。
「それが、どうしたら良いか、分からないんだよな。」
頭を抱え、結局またそこに戻り、ガウリイは唸った。
≪続く≫