【変化から見る関係】

「はい、お裾分け。」
「おう。オレからは、これな。」
 一月の下旬、二人の恒例となった物々交換。
 リナとガウリイが出会って数ヶ月後の同じ頃。リナが父親に贈る為の手作りチョコの余りを、ガウリイに分け与え、後日ガウリイがハンカチをお返しとして贈ったのがきっかけだ。
 その日、宿屋に着いてすぐ、リナが一人で出掛けた為、ガウリイは部屋で荷物の整理や剣の手入れ等で時間を潰していた。暫くすると、宿中に濃厚な甘い匂いが充満し、筋トレをしていたガウリイは、宿の人がデ
ザートでもこしらえているのか、と思ったのだが、その考えは夕飯の後に覆された。
夕飯を終え、お茶でも飲もうか、とした時に、リナからお裾分けとして板チョコを渡されたのだ。その時普段見ない女の子らしさを垣間見て、ガウリイは少しだけ照れてしまった。
「ま、自称とはいえ、あんたも保護者だし。余り物だけどね。」
 と照れの為かぶっきらぼうに言うリナは、ガウリイの中のリナの評価に、女の子という項目を追加した。リナの事は、確かに女の子だと思っていたガウリイだが、リナの行動からは女の子らしさ、というものを見
出せないでいたので、良い意味で予想を裏切られた気分になった。
 故郷に送るので、間に合う様にとリナがチョコを作る日は毎年異なるが、出会って2年目から交換をしている。リナがチョコを選んでいる間に、ガウリイは別の店へと駆け込んでいるのだ。
 ただ、ハンカチを渡した時の反応で、食べ物の方が良いと判断出来たので、翌年からは適当な焼き菓子に物は変化。リナから渡されるチョコも、板チョコからチョコレートボンボンに変わった。お互いの好みを知っている為、互いにとって満足のいく物々交換へとなっている。
 で、四年目の今回は?
 交換後、部屋に戻ったリナ。
 宿の備え付けの椅子に座り、神妙な顔付きで箱を開けた。箱は短剣程の長さがあり、太さはコップ程。重さはそんなに無く、リナが片手で持てる位だ。で、その質量から、少しだけ中を期待しているのか、頬が若干赤い。
「薔薇??」
 中には、紅茶色の薔薇が一本だけ。予想は外れ、真意の分からない花が入っていた事に、リナは眉を寄せる。
「ブラックティ」
 薔薇の品種である名前を呟き、リナは思案する。悪い意味で良い値段する花を、旅の最中に何故?と不思議で仕方無いのだ。もう少しすればその花の価値はもっと高くなるのも知らずに、リナは一晩悩み続けた。
 悩めるリナの隣室、ガウリイの部屋では?
 質素な手の平サイズの紙の箱を、サイドテーブルに置き、ガウリイはベッドに腰を下ろした。自分が贈った物に、リナが、」どう反応を示したのか、気になって、チョコを食べる気になれないらしい。ガウリイの故郷、エルメキアではバレンタインデーに大事な人へ薔薇を贈る慣わしがあり、知らないだろうとは思いつつも贈ってみたのだ。
 背中には、窓が一つ。そこからは誰かの目を彷彿させる細い月。弱い月の光は、僅かにガウリイの輪郭だけを、影の様にぼんやりと浮き上がらせる。
 暫くは動かなかった朧な影が動き、目の前にある箱をそっと開けた。
中には四角い立方体が一個、彼の良すぎる目はその姿がしっかりと認識出来た。持ち上げてみると、柔らかい素材をチョコでコーティングしてあるのか、ふわふわと頼り無い手触りがガウリイに伝わる。
 「今年は手間掛けたなぁ。」
 お菓子は良く自分の祖母が作ってくれていたので、それがどれ程の手間なのかを知っているガウリイ。
 手の平が少し余る程の大きさで、高さはガウリイの小指の長さ程あるそれを、ガウリイは何の気も無しにそっと割ってみた。中は、スポンジケーキになっており、ブランデーの匂いがふわっと部屋に広がる。
そして、ケーキの間にはチョコクリームとオレンジペコ。と、チョコレートが挟まっていた。それを発見し、ガウリイの顔に笑みが広がる。
 新しい油紙を取り出したガウリイは、翌朝それを返事として渡した。
 小さなハート型のチョコレートを。
 その年、二人は初めてバレンタインを当日に祝った。