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【アメリアと】

−1−

圧倒的な力を持った相手との戦いは、昨日の事なのに、夢の中の出来事の様に思うのは、何故だろう?
戦友との別れを終え、アメリアはぼんやりと考えていた。
サイラーグから程近い町に、夕闇の頃に着き、直ぐに宿を取った。
静かな町、心穏やかにさせる宿の雰囲気、その主である年老いた女性の暖かい人柄・料理に、涙が出そうになって、皆で馬鹿騒ぎし、眠りに就いたのは日付を過ぎてから。
起きたのは、いつもより少しだけ遅く、疲れていた為、夢を見る事も無かった。
なのに、少し前の話を、現実味が無いと感じる。
「さて、俺達も行くか」
右隣から聞こえてきた愛想の無い声にそちらを向く。
共に戦った仲間の一人、ゼルガディスだ。
フード付きの白いマントで全身を隠しているのは、経緯は知らないが、合成獣の身体の為に、好奇な視線に晒されるのを嫌って。
「それでは、お元気で」
右手を差し出し、アメリアが微笑むと、ゼルガディスが首を横に振る。
利き手での握手が嫌なのだろうか?戦場を潜り抜けた仲間なのに?と、寂しく思いながらも、アメリアが左手を出そうとすると、
「送る」
やんわりと左手を遮られ、抑揚の無い声がそれを告げた。
「へっ?!ゼルガディスさんが?」
「あんたと、シルフィールはセイルーンだろ?女だけの旅は、賢いとは言えん」
驚愕の声を上げ、ゼルガディスを見ると、鋭い眼光を返される。
「わたしも彼女も、平気よ?」
「確かに、巫女とは思えんがな。武術使えたり、竜破斬を使えたりなんてな。だが、危険であるのは変わらん」
不思議そうな表情をしているアメリアに、ゼルガディスはジト目で溜め息を吐いた。
「えっと、シルフィールさん、どうする?」
左隣の彼女を見ると、先程別れた仲間に視線をじっと送っていた。
短い付き合いだが、彼女が、戦友の一人の青年剣士に想いを寄せているのは、アメリアも感じる事が出来た。
その剣士が、旅の相棒である魔導士の少女と共に在る事を選んだ事は、公然の秘密。
思う所があるだろう。と、彼女がひたすら彼等の後ろ姿を見送っていたのを、アメリアは待っていた。
シルフィールとアメリアは、共にセイルーンへと旅をする事になっていたからだ。
その彼女が、アメリアの声に振り返った。
「はい?何の話ですか?」
「ゼルガディスさんが、セイルーンまで送ってくれる。て」
「まあ!有り難うございます」
ポンと手を叩き、シルフィールが微笑む。
隣で普通に話をしていたのに、それが聞こえていなかったらしい。と気付き、アメリアは内心苦笑した。
「ガウリイさんの事、良いの?」
3人でセイルーンに向け出発して直ぐ、アメリアは隣のシルフィールを見る。
その2人の後ろを、ゼルガディスが歩く。
背後からの奇襲があった時、前を歩いていると、その分、咄嗟の反応が間に合わないのと。前からの攻撃は、前に出れば良いだけなので、そうしたのだ。
「アメリアさんも、見たでしょう?ガウリイ様ったら、酷い方ですわよね、あんな遠回しに見せ付けるなんて」
痛みを堪えた笑みの、彼女の言葉。
戦いの後、「これからどうするか?」となった時の事を思い出したから、であろう。
それぞれが、これからの身の振り方を言い、とうとう彼の番。となった時、僅かな期待を込められた問いに、彼は、隣に立っていた少女に、「どうするんだ?」と振った。
少女と一緒に居る事を当然としている様な、彼の態度に、”予定が無いのなら、一緒に”と、思っていたシルフィールは、何も言えなくなってしまった。
それを振り切るかの様に、シルフィールは、穏やかな笑みを浮かべる。
「それに、リナさんの隣に立っているのが、一番自然な気がしますし」
「シルフィールさん……」
それは、確かにアメリアも、感じている事だ。そして、あの二人が上手く行けば良いな。とも思っている。どう慰めて良いものか困っていると、意外にも、シルフィールが気丈な声を発する。
「大体、今更振り向いて頂いても、正直喜べませんわ」
「へ?」
「あのリナさんが好き、て事は、ガウリイ様の趣味がオカシイて事じゃありません?」
「と言われても……」
興奮してきたのか、何やら鼻息が荒くなってきたシルフィールに、アメリアは内心困った。
確かに、あまり誉められた性格では無いリナだが、その良さを知っているからだ。それは、隣で歩いている彼女も、知っている筈だ。
筈なのだが。
「まだ成長なさるとはいえ、起伏の乏しい身体と、粗暴な性格の、あのリナさんですよ?」
「えっと、シルフィールさん?」
「そんな方が良い。とおっしゃっていたガウリイ様が、曲がり間違って、わたくしに心奪われたとします」
「はあ」
ますます、困った方向に向かう話に、アメリアは、チラッと後ろに助けを求めるが、ゼルガディスに視線を外された。
出発直後より、少しだけ距離を取っている彼は、早々に他人の振りを決めたらしい。
更にアメリアを困窮に陥れる様に、シルフィールは続ける。
「そうなると、おしとやかで、家庭的だ。と思われているわたくしが、一転、あの“どらまた”から男を奪った、とんでもない性格の女性だ。と思われるじゃありませんか!」
「そんな、大袈裟な」
「い〜え!大袈裟なんかじゃありませんわ!確かに、わたくしは、女性の鏡と言って良い程、容姿も、性格も問題ありませんし、家事だって得意です」
「そりゃそうだけど」
若干、イイ性格である事に、目を瞑れば、確かに、申し分ない女性だが、それを臆面もなく、本人が言ってのけてしまい、アメリアは素直に頷けず、渋面を作る。
「ですから、殿方に見染められるのは、良くありました。ガウリイ様は見向きもしませんでしたが」
「……はあ」
「そのガウリイ様が、わたくしの方向を向く。という事は、わたくしが、リナさんと同類になってきた。て事になってしまいません?!」
「極論すぎじゃあ」
「多少、極論かも知れません。それでも、やはり嬉しくないものは、嬉しくありませんわ」
言うだけ言い、落ち着いたのか、コホンと咳払い一つし、シルフィールは頬に手をあて、小さい声で言う。
「次に好きになる方は、リナさんに、女性の魅力を感じなかった方が、良いですわ。例えば、ゼルガディスさんとか」
「え?!!」
同性が見ても、ドキリとするほど、恥ずかしそうに微笑んだシルフィールに、アメリアは何故か、胸がチクリと痛むのを感じた。
「ゼルガディスさん、素敵じゃありません?言葉は足らない方ですけど」
小さく微笑みながら、シルフィールに耳打ちされ、アメリアはすっきりしない胸に手をあて、恐る恐る問う。
「好き、なの?」
「今はまだ。でも、素敵な方だと思います。それって、大事な事ですわ」
「あのさ、わたしが見ていた限り、ゼルガディスさん、リナの事、憎からず思っている様だったわよ」
折角、新たに恋をしようとしているシルフィールに、こんな事を言って良いものか?と迷いながらも、アメリアはそれを言った。
だが、シルフィールはそれに微笑みを返す。
「存じてます。でも、ゼルガディスさんは、リナさんと、共に居る事を、選ばなかったのですから、まともな趣味の方ですわ」
「あ、ごめん。なんか、余計な事」
「いえ。お気遣い嬉しいですわ」
柔らかく微笑むシルフィール。
それに、何故か胸がざわめき、アメリアは首を傾げたくなった。
失恋したシルフィールが、新たな想い人が出来そうだ。というのに、素直に喜べない自分は、なんて冷たいのだろう。と自己嫌悪し、アメリアはパチン!と自分の両頬を両手で叩いた。
「協力、するわ」
「いえ、まだ気持ちが育っていませんから。お気持ちだけ」
「そう……でも、ゼルガディスさんのどこが?ガウリイさんとは全然違うと思うんだけど」
「頼り甲斐あって、優しい所は、似てますわ。こうして送って下さってますもの」
瞼を少しだけ伏せ、静かに微笑んだシルフィールは、宗教画の中の殉教者の様で、アメリアはつい見惚れてしまった。
それほど、彼女の顔は綺麗で、物腰も静か。少々いい性格だが、おっとりした空気を纏う彼女は、理想のお嫁さんそのもの。
急に、何かをしなければいけない様な気分になり、アメリアは妙な焦りを感じた。
≪続く≫