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【アメリアと】

−2−

「シルフィールさんて、強いのね」
理由の分からない焦りから、気持ちを反らす為に、アメリアは明るい声で言った。
「まさか。わたくしは弱い人間ですわ」
それに、頭(かぶり)を振り、シルフィールは微笑みを浮かべる。。
「だって、ガウリイさんの事、吹っ切ろうしてるじゃない」
「違うんです。わたくしはただ、気兼ねなく安心出来る。そんな場所が欲しいのです。それが、大事な方だったら、と」
シルフィールが、不意に視線を後ろへと送る。
その視線を追うと、仏頂面で歩いているゼルガディスが居た。
きゅっと、どこかを握られた感覚が襲い、アメリアは意識せず、隣をチラリと見る。
シルフィールの瞳は、空を見ている様で、なのに、違う物を見ている様な、何も見ていない様な、不思議な色をしていた。
改めて、彼女の視線を追うと、ゼルガディスより少し上空に、その視線が止まっている様に見える。
その視線の先に、アメリアは気付いた。
サイラーグ。彼女が産まれ育った街。そして、亡くなったと言っていた、父親。垣間見た暖かい街並みと、優しい笑顔達が、全て仮初めの命であった。
今や、その場所は、開けた荒野になっていて、僅かな生命さえも感じられない程に、変わってしまっている。
恐らく、平穏に暮らしていた頃の事を、シルフィールは見ているのだろうと、思うと、アメリアも、普段意識していなかった寂しさを覚える。
母親が亡くなったのは、幼少の頃。覚えているのは、高い場所で、高笑いを上げている姿。そして、青ざめた顔で、必死に降りて来る様に、説得している大臣達と、母の場所まで登ろうとしている姉と自分、それを励ましている笑顔の父。美味しい料理に、絵本を読んでくれた優しい声。
ゴッ!ゴッ!
「へっ??」
「!?え……?」
不意に、アメリアの頭に衝撃。
それは、隣のシルフィールも同じだった様で、若干涙が浮かんでいる。
「お前ら、野宿したいのか?さっさと歩け」
呆れた声の主は、ゼルガディス。
その彼は、二人の目の前に立っていて、左手を手刀の形で、中途半端に浮かせている。
つまり、それで二人の頭を叩いたのだろう。
その行為の理由は、思いに耽るあまり、アメリアとシルフィールの足が、止まっていた為だ。
「ゼルガディスさん!幾らなんでも、婦女子に手を上げるだなんて、感心しないわ!」
「そうですわ!貴方が口下手だ、というのは存じています。ですが、そんな事を続けて、リナさんの様になっても知りませんわよ?!」
「それだけ元気なら、大丈夫だな」
我に返ったアメリアとシルフィールから、同時に責められたゼルガディスが、口の端を上げ、歪んだ笑みの形で、息を吐く。
その表情に、トキンと、胸が鳴り、アメリアは慌てて踵を返し、歩き出す。
「あら、アメリアさん?お説教、続けなくて宜しいのですか?」
「だって、急がないといけないのは、事実だもの。手段は間違っているけど」
早足で隣に並んだシルフィールと、視線を合わせない様に下に向け、アメリアは、目に付いた足元の石を、蹴飛ばした。
「そうでしたわね。次の町まで、まだありますものね」
同じ速度で歩いているシルフィールの、楚々とした足取りに、アメリアは、自分の足を見る。
元気一杯地面を踏み締めている足。ついさっき、なんとなく石まで蹴ってしまった。
何だか、子供っぽい。と、自己嫌悪し、アメリアは歩き方を変えてみる。
王族としての作法は、幼い頃から学んでいたが、父親が豪快な人物で、「子供は元気な方が良い」と言われたのもあり、普段は、全く気に留めていないだけで、意識すれば、流れる様な足取りにするのは、そう難しい事ではなかった。
ただ、やはり普段が普段なので、シルフィールの様な楚々とした雰囲気には程遠い。
「何だか、可笑しいですわね」
急に、シルフィールがくすりと笑った。
歩き方を笑われたのだろうか?と思ったが、嫌な気分を隠して、アメリアは口を開く。
「何が?」
「こうしていると、昨日の事が、嘘みたいじゃありません?」
シルフィールの言葉に、気構えていた心が、緩み、アメリアは、こっそり安堵の溜め息を吐き、応える。
「そうね」
「世界の存亡を掛けた戦いだったのに、どうしてでしょうね?それでも、フィブリゾに、竜破斬を決めた、あの瞬間の事を思い出すと、手が震えるんです」
「うん。分かる」
手の震えを押さえる為なのだろう、自身の右手の拳を左手で握ったシルフィールに、アメリアは頷いた。
正面きって戦っていたアメリアとゼルガディスは、その圧倒的な力に、焦り、絶望しそうであった。その時の感情は、はっきり覚えていて、身体が震えそうになる。
それでも、何故か昨日の出来事は、どこか遠く、薄い靄が掛かっている様に感じるのだ。
「だけど、こうして、アメリアさんと、楽しくおしゃべりしていると、何が本当で、何が夢だったのか、判別出来なくなってしまいましたわ」
言って、シルフィールは小さく笑う。
だが、今回の事で、一番翻弄されたのは、彼女だ。
壊滅した筈の故郷と、亡くなった筈の町の人や、父親に迎えられ、どれほど苦しい思いをしたのか、アメリアには想像出来ない。
「わたしも、昨日の事は、夢の中の出来事みたいに感じてた。それはきっと、知らない間に、決着が着いたからなんだと思う。だけど、一つの悪が、滅んだのは事実。それを広めるのが、わたしの使命なのよ」
下手に慰めの言葉を掛けるより、良いだろうと、アメリアは、自分の決意を静かに言葉にし。
おもむろに、ハシッ!とシルフィールの手を取る。
「なので、お手伝いお願い!やっぱり、一人で語るには、大変だから、人は多い方が良いもの!」
「え……?わたくしも?」
戸惑った表情のシルフィールに、アメリアは大きく頷く。
「ええ!シルフィールさんも一緒に、正義を広めましょう?!」
落ち込む暇さえない様に、自分の決意に巻き込む。それが、アメリアの出した答えであった。
着いた町で、宿を取ったのは、太陽の最後の尻尾が消え入りそうな頃。
アメリアとシルフィールは3階の同室、ゼルガディスが一階下の部屋を取った。
「ゼルガディスさん……えっと、何か?」
夕食後、寛いでいたアメリアは、ノックの音に、廊下に出、戸惑いを隠せなかった。
他の宿泊者の目を気にしてか、相変わらず、白いフードを目深に被っている彼に。
「足は平気なのか?」
「へ?」
いきなりな質問に、アメリアは首を傾げた。
怪我をした覚えが無いのに、何故急にそんな事を問われるのか?
目をパチクリさせていると、ゼルガディスが溜め息混じりに口を開く。
「途中で、歩き方を変えただろう?もし、行程がきつかったなら、言ってくれ」
「あ……」
別に、深い意味などなく、歩き方を変えてみたのに、それを気遣ってくれた事が、少し嬉しくて、アメリアの胸に、暖かさが広がる。
「大丈夫。ただ、セイルーンに戻る事を考えたら、巫女頭として恥ずかしくない所作を身に付けたくて。シルフィールさんの真似をしてみただけなの」
笑み崩れていないだろうか?と頬に手をあて、アメリアはなるべく平坦に言ってのけた。
「そうか。だが、慣れない事を無理して続けると、持たないからな、程々にしておけ」
「ええ。気を付けるわ」
「なら、良いがな。明日は早い。疲れを取って、早く休んでおけ。じゃあ、邪魔したな」
「いえ。おやすみなさい」
去って行く白い後ろ姿を、頭を下げ見送って、アメリアは部屋に戻る。
転げ回りたいそんな衝動を押さえていると、シルフィールが戻ってきた。
宿の娘に、両親の結婚記念日のお祝いに、編み物をしたいので、こっそり教えてくれ。と頼まれ、使っていない部屋で教えていたのだ。
「あら、アメリアさん、何か良い事ありました?」
「へ?!ううん!どうして?」
首を傾げたシルフィールの問いに、ドキッとし、アメリアは慌てて首を横に振り、質問を返した。
「とっても嬉しそうなお顔されてますわよ」
うふふと笑いながら、シルフィールが自身の口の端に、人差し指を添え、口角を上げる仕草をする。
「へ……えぇ!!」
慌てて、アメリアは、頬をペタペタと触る。
そう言われて見れば、何だか頬の筋肉が緩い様な気になり、手鏡を荷物から取り出す。
そこには、幸せそうに口元を緩めている自分が居た。
≪続く≫