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【アメリアと】

−完−

ゆっくりと視線を、シルフィールに向けると、彼女は無言で頷く。
その優しさを、裏切る事に、後ろめたさを感じながらも、アメリアは口を開く。
「ごめんなさい。協力する。なんて言ったんだけど、わたし、ゼルガディスさんの事、好きだ。と気付いたの」
「はい」
穏やかな返事は、何の感情も感じさせないが、アメリアに鈍い痛みを感じさせた。
声を出す事を拒絶するかの様に、張り付こうとする喉に、無理に空気の塊を飲み込み、話を続ける。
「だから、協力出来なくなったの」
沈黙が降り、洗い物をしているのか、厨房の奥から、食器の音が届く。
それは、短い時間で終わる。
「だからって、シルフィールさんの事が、嫌いって訳じゃないわよ?シルフィールさんも好きよ!幸せになって欲しいと思ってる!」
これだけは伝えなければ!という思いで、アメリアは、シルフィールの手を握り力説していた。
「シルフィールさんに苦しい思いをさせる。と理解っていても、気付いた気持ちは、誤魔化せなくって、譲れないの!」
「それ程までに」
「ごめんなさい。黙っているのは、卑怯な気がして、不愉快よね」
ゆっくり手を離そうとしたが、逆にシルフィールに柔らかく握り返され、アメリアは、彼女に戸惑いの視線を送る。
ドキリとするほど、綺麗な微笑みが、そこにあった。
「わたくしも、アメリアさんの事、好きですよ」
慈しむ様な優しい声に、アメリアは泣きたい衝動に駆られ。
そこだけを聞いてしまったのか、宿の女将さんである、40代前半頃の女性が、食堂と厨房の間で固まる。
「リナさんも、ゼルガディスさんも」
チロリと、シルフィールが舌を見せ、おどけた様に微笑む。
「へ………?」
呆気に取られ、目をパチクリとさせるアメリア。
するりと、シルフィールの手が、その手中から抜け出る。
「お掛けになって下さいませ」
示されたのは、テーブルを挟んだ、シルフィールの真向かいの椅子。
彼女と椅子とを交互に見、アメリアは彼女に視線を向けたまま、そこまで数歩歩き、座った。
「すみません。誤解をさせてしまいましたわね」
向かい合って座ってすぐ、シルフィールが申し訳なさそうな表情で、口を開いた。
「誤解……?」
「わたくしがお慕いしているのは、まだガウリイ様です」
「え?」
今は、ここに居ない剣士の事は、とうに忘れて、新たな恋を、始めようとしているのだろう。と思っていたアメリアは、戸惑いの表情を深くする。
その視線の先で、諦めを含んだ、弱い微笑みを浮かべ、シルフィールは胸に手を当てた。
「ここには、まだあの方が、いらっしゃいます」
「だって、シルフィールさん、素敵て」
「勿論、ゼルガディスさんは、良い方で、素敵だと思います」
目の前の女性と、好きな人が違うと知っても、アメリアの不安は、取り去れ無かった。
彼女と自分を比べれば、魅力的なのは彼女。
その彼女は、彼を素敵だと言い、アメリアが知らない、彼との時間がある。
困った様に微笑んだシルフィールの言葉に、胸が苦しくなり、アメリアは膝に置いていた手を、拳にし、震わせた。
シルフィールから、これ以上、何かを取り上げる行為は、したくないのに、どうして、こんな気持ちに気付いてしまったのだろうか。
幸せになって欲しい相手を、苦しめるだろう。と分かっていても、その想いを、隠すのは卑怯な気がして、それを伝えた。
「ですが、」
思考に捕らわれそうになったアメリアの耳に、シルフィールの声が柔らかく届き。
声と同じ、柔らかな瞳と、視線が合う。
「それは、純粋に人として、なのです。あの方の様に、焦がれる様な思慕は、どこにもありませんのよ」
「ほん、とう?」
「あの時は、早く忘れたくて、好きになれたら、と思って申しました。でも、駄目でした」
思わず疑いの視線を向けてしまったアメリアに、シルフィールは自嘲の笑みを浮かべた。
が、その表情はすぐに苦笑へと変わる。
「わたくし、自分が思っていた以上に、往生際が悪いみたいですの」
「頑張って、忘れられる気持ちなら、叶った時の喜びが半減……ううん、もっと無いかもしれない。だって、駄目だったとしても、すぐ忘れて、次があるから良いや。て思ってしまうもの」
「そう、ですわね。自然に忘れるまで、ひっそりとお慕いしても、良いですわよね」
ふわり、と、シルフィールが、微笑む。
綺麗な微笑みに、何故か切なさを感じ、アメリアは、自覚したばかりの、切ない感情を意識する。
「わたくし、あのお二人をくっつけ様と思うのですが、ご協力願えますか?」
俯きかけた所に、明るいシルフィールの声が届き、アメリアはそちらを見る。
「あのお二人、放って置いたら、いつ進展するか、分かったもんじゃありませんわ。なので、周りが何とかするべきだと思うんですの」
困った様に眉を下げ、真剣な声色の彼女は、強がりを言っている様には、見えない。
辛いながらも、現実をしっかり見、受け入れようとしているのだろう。
そして、自分と同じ方法で、慰め様としている。と気付き、アメリアは大きく頷く。
「そうよね、あんなまだるっこしい二人、さっさとくっつかないと、周りが迷惑よね。被害が増幅する一方だわ」
「僭越ながら、わたくしが参謀を勤めさせて頂きますので、アメリアさん、恐れ入りますが、実働員になって下さいますか?」
にっこりと微笑むその顔が、悪魔の様に見えたのは、錯覚だろうか?
つぃ、と流れる汗。なのに、何故か背中を冷たいものが走るのを感じ、アメリアは引き攣る口で、疑問を口にする。
「わたしだけ、リナに制裁受けろ。て事?」
照れ屋なあの少女の事、くっつける為に、裏工作をされた。と知れば、何かしらの報復があっても、可笑しくない。
その裏工作を、表立って実行する者は、それを覚悟しなければならない。という事になる。
「ガウリイ様の事を、わたくしがお慕いしているのは、リナさんも気付かれていらっしゃるでしょう?そのわたくしが、何かをしたら、変な誤解を産み兼ねませんわ。なら、わたくしが動くのは、得策では無いと思いません?」
「だからって、わたし、嫌よ。一人だけなんて」
にこにこ笑顔で、否定出来ない事実を突き付けられ、アメリアは、不服そうに口を尖らせる。
それに、シルフィールが、笑みを深くさせた。
「ゼルガディスさんが、いらっしゃるではありませんか。あの二人の事を、一番理解されていて、冷静で、頭も良く、表情が表に出ない。工作員として、適任ですわ」
「えっと……じゃあ、わたしは、 何もしなくても大丈夫なの?」
「まさか。ゼルガディスさんは、女心を理解して下さらないでしょうから、アメリアさんには、そちらを補う為に、動いて頂きたいのですが、宜しいですか?」
ここに来て、アメリアは気付いた。
シルフィールは、慰め様としているのではなく、アメリア自身の恋を、応援しているのだ。と。
自分だけが安全な場所で、問題の二人をくっつける。という手法でなければ、感謝の言葉も出るのだが、返答に困り、言葉が詰まったアメリア。
その手を、シルフィールが握る。
「そうと決まりましたら、わたくしの部屋で、早速作戦会議を開きましょう」
「わたし、まだ返事してない!」
慌てて手を引こうとしたが、柔らかな力で、それは阻止され、
「アメリアさん、先程、わたくしの言葉に、頷いて下さったでしょう?なら、嫌だとは申しませんよね?」
その笑顔に、アメリアは大人しく、シルフィールに充てられた部屋へと、連行されて行く事を決めた。
食堂を出て行く二人を、女将が微笑ましい表情で見送っていたのは、ちょっとした蛇足。
「まずは、わたくし達だけで作戦を練り、ゼルガディスさんには、明日の道中、聞いて頂きましょう?ふふ、なんだか、とっても胸が踊りますわ」
煌々と輝く魔法の明かりがあるのに、一人部屋の狭い空間に、シルフィールの楽しげな声が響き、これは、何かの儀式なんじゃ?と錯覚さえしそうな雰囲気である。
次の日、押しの強いシルフィールに、ゼルガディスが辟易したのは、当然の成り行きなのだろう。
「女は強し。とは、こういう事だな」
根負けし、作戦に荷担する事になったゼルガディスの、呆れた声。
それに、アメリアは大きく頷いたのであった。
≪完≫