【いつでも隣に】

ガウリイ編−4−

「ヘタは先に取ってあるからな、それと、ここの娘さんがイチゴを使ったデザートをお昼に持って来てくれるってよ。」
「へえ・・ガーネットが?彼女ね、手の引き方が上手だったのよ。」
ナイトテーブルに置いたイチゴを口に含み、リナは嬉しそうにそう言う。
「ガーネット・・て?」
「え?ここの宿の娘さん。連れが男だから頼めない事があったら、呼んでくれって半ば強引にあたしに約束させたりしてさ、素敵な人だわ。」
「気に入ったのか?」
「ええ・・優しいお姉さんて感じ。もうすぐ結婚するんだって、幸せ者ねその男の人。」
「へえ・・」
本当に楽しそうに話すリナを見て、なんだかつまらなくなった。
オレ以外の誰かの事を、楽しく話して欲しくない。
笑ってくれるのは、嬉しいが、オレの居なかった間の事なんて聞きたくない。
「それにね・・一番気に入ったのは、ガウリイを【連れ】・・・て言った事かな・・。よく宿で【恋人】か【兄妹】か・・なんて変に聞かれるでしょ?こんなのが恋人や兄だなんてやってられないわよ。」
小さく笑い、リナは水を飲む。
遣り切れなくなり、話題を変えようと口を開いた。
「ところで・・イチゴ・・おいしいか?」
「うん?」
「そっか・・そりゃ良かった。」
「イチゴっていくら食べても飽きないわよねえ。知ってる?イチゴって野菜なのよ。」
「え?!そうなのか?」
リナの言葉に吃驚して目が丸くなった。
「そう。あのね、木に成る物が果物で、苗に出来るのが野菜なの。だから、イチゴは野菜なのよ。」
「へえ〜。」
「つまり、ガウリイはお使い失敗、て事。」
「う゛え〜!でもよ・・そうなると、メロンやスイカも野菜なのか?」
「そうなるわね。」
混乱したオレの問いに、リナはあっさりと頷いた。
「でもよ、食後のデザートで出て来るだろ?それに、サラダとして出て来ないじゃないか。」
「んなの知った事じゃないわよ。植物学上はそうなんだもの。それにね、果物の分類のりんごだって、ドレッシングを合わせればサラダにもなるのよ。」
「りんごが?サラダに?」
「そう。それに、野菜の人参さん、あれなんかキャロットケーキとしてデザートで出て来るでしょ?それにお芋さんもデザートとして使われているじゃない。」
「そういえば・・」
「でっしょ〜?つまり、デザートとして出るからって、果物とは限らないのよ。」
満足気に、リナは最後のイチゴを口に運ぶ。
「ふ〜ん・・」
リナは物知りだよな、偶に変な事まで知っていて驚かされるが、
今回は、家庭的な面が垣間見えた気がして、何だかくすぐったいような気がした。
「あら・・無くなちゃった・・ガウリイの方はまだある?」
「もうとっくに無くなってるよ。」
「ずる〜い、ガウリイ見えるからってぱかぱか食べ過ぎなのよ。レディの為に残しておく気配り位しなさいよね。」
「いや・・リナの方が多くなる様に分けたつもりなんだが・・」
「それでも、残して置きなさいよ。気が利かないんだから。」
不服そうに、リナは手の中にある器をオレに突き出す。
元気になるのは構わないが、少し前までの潮らしさというか、儚い感じはどこへ行ったんだ・・極端というか・・何というか・・その中間、ていう半端な物は、リナは持ち合わせていないらしい。
まあ、こういう元気なリナが可愛いと思ってしまう辺り、オレはとことんリナに弱いらしい。
「まあまあ、昼飯のデザートがあるだろ?」
「え?!そのデザートを全部くれるの?!いや〜、悪いわねえ。」
「う゛え?!いや・・」
「あ・・なんか甘くて、香ばしい香りが・・ケーキかしら・・楽しみだわ〜。」
「ちょ・・」
「一回やってみたかったのよねえ・・ケーキのホールを丸かじりv」
オレの言葉を無視し、心底楽しそうに笑うリナ。
狡い、そんな表情をされたら、何も言えなくなるだろうが、甘いよな、オレ。
「判った。もう何も言わん。」
「よっしゃ!て事で、ケーキをカットしない様に頼んで来てねv」
「・・・了解しました。お嬢様。」
「んv良きに計らえ。」
苦笑しながら言ったオレに、リナはそう言って小さな舌をチロッと出した。
−ポス
軽い音を立て、枕は壁に当たり、床へと落ちる。
「ちっ、当たらなかったか。」
「・・なあ、オレ何かしたか?」
小さく舌打ちし、悔しそうに言ったリナに、後ろ手にドアを閉め溜め息をつく。
「え?ううん。当たったらいいなあ・・て。」
「あのなあ・・」
床に落ちている枕を拾い上げ、ベッド脇まで歩く。
「だ〜て、退屈だったのよ〜。」
「はいはい。お嬢様、このじいになんなりと仰って下さい。」
ベッドの上で座ったままジタバタするリナの頭の上から枕を落とし、そう言う。
「あのね、さっきの実験だったのよ。」
「実験?」
「そう!気配でどこら辺にいるかは判るから、そこに当たる様に投げた訳。」
「・・・ああ?」
「て事で、正しい位置が読める様に、トレーニングしたいから、少し離れてね。」
不安気に言ったオレに、得意気に笑ってリナは枕を掴んだ。
「・・・畏まりました。」
「ん!よっろしく〜、当たるまで続けるからね。」
諦めて距離を取ると、リナはそう言って笑う。
−ポス
「外れ、もうちょい右。」
「う゛〜、おっかしいな、動いていない?」
「ああ。」
枕を拾い、リナの所まで歩く。
「多分・・振り下ろす時の角度じゃないか?」
「ん〜、それはちゃんと計算してんのよ。ちゃんと殺気立っていれば、さすがにちゃんとした場所が判るけど・・」
「物騒な話だな。」
「あら、だって死活問題でしょ?」
リナに枕を手渡すと、目を細めそう言う。
その目は、戦いと向き合っている時とどこか似て、怪しく光っている。
ぞくぞくする程、綺麗だ、と正直思う。どんな笑顔も様に成るが、こういう時の顔は、妙な危うさがあり、目が離せなくなる。
−トス
何回目かの枕投げは、見事にオレの胸元へと吸い込まれた。
「・・さすが・・勘が良いな。」
「え?ガウリイに当たった?!」
感心して言ったオレに、リナは嬉しそうに身を乗り出す。
当然、重心が前へ倒れ、華奢な体が傾ぐ。
「てっ!動くな、落ちる!」
「え?・・ああ。」
慌てて言うと、リナは重心を元に戻した。
「で・・当たった?」
「何で、嬉しそうに聞く。届いたよ、腕の中にな。」
「え?ちっ・・もちょっと勢いつけていれば・・」
「おいこら、激しくぶつける気だったのかよ?」
「いいじゃない。枕なんて、対して痛く無いでしょ?」
「枕が傷む。それと、外れた時に、音が響くだろうが・・」
小悪魔の様に笑うリナの頭に枕を乗せ、
「ここの宿に、迷惑掛けたくないだろ?」
「・・ふ〜んだ。ガウリイの癖に生意気言っちゃって・・」
溜め息混じりに言うと、リナは枕をかっさらいぬいぐるみでも抱くかの様に、枕に腕を巻く。
「そろそろ、昼飯が出来るだろ、取りに行ってくる。」
「え?もう頼んであるの?」
「ケーキを切るのを止めてくれ、て頼みに言ったついでにな。」
そう言って、リナの頭をポンポンと叩き、踵を返して部屋を出た。
≪続く≫