【いつでも隣に】リナ編−4− |
朝が来て、最初に感じたのは違和感、瞼に光が当たっているのが分かり、ゆっくりと開けてみる。 視界に広がるのは無限の白、少し暗い気もするが、それでも眩しく感じて目が眩み、一度目を閉じる。 ガウリイが入ってきても、あたしは瞬きを繰り返し、目を擦っていたが、程無くして擦っていた手を一番眩しい光を放っている物へと伸ばす。 サラサラの髪、すぐガウリイの物だと確信する。 「光・・・」 「光?」 あたしの呟きに、ガウリイは不思議そうな声で繰り返した。 「すごい・・綺麗・・」 あんまりにも嬉しくて、その髪を引っ張る。 「・・・見える・・のか?」 「ん・・なんとか、光が分かる・・程度だけど・・」 「!?」 「ガウリイの髪・・すっごい眩しい。」 泣きそうな位嬉しくて、涙が零れるかと思った。 ガウリイもすっかり安心したのか、一人で浮かれてる。 ちょっと嫌味を言ってみても通じないし、からかったら「泣く。」だって。 大の大人が、あんなでっかい図体したガウリイが、 子供の様に泣いている姿を想像して可笑しくなって笑いが止まらなくなる。 ベッドで笑い転げて、お腹が痛い程だ。こんなに笑ったのは、どれ位前かな? お昼に医者が来て、昨日の印象と違って、中々いい性格している事が分かった。 このあたしと対等に言い合ったのだ。 ガウリイの話だと、融通が利かない頑固オヤジみたいな見た目らしいけど、話しているとそんな感じはしなかったから、人は見た目じゃ判らないとつくづく思った。 まあ、一番それが顕著なのは、そこにいるクラゲ頭よね?黙っていれば、絵になるのに。 「市がやっているから行ってみるか?」と聞かれ、2つ返事で頷いてみたものの、非常に後悔している。 人が多いのだ、前を歩いているガウリイが、人を掻き分けて歩いているから歩き易いんだけど、何かやたらと注目浴びている気がする。 さっきから、妙な気配がそこかしこからするし、その為か、少し人酔いし、疲れて足が止まった。 さすがの保護者さん、すぐに気付いて近くの軽食屋へと避難する事になった。 そこは、落ち着きのあるお店で、 大通りからちょっと外れているだけで、こうも静かなのかとビックリする程だ。 そこの店の主人は、声からすると、ガウリイより若く感じる。 弱視だと言っていたが、体が覚えているのか、淀みなく動く様が気配で判った。 手作りだと言うケーキは絶品V目が治ったら、食事をしに再び来る事を約束して、店を出た所を、その主人に呼び止められ振り返った。 「『時計台』店の名前です。ご予約、お待ちしております。」 「リナよ、あたしの名前は、リナ・インバース。こっちはガウリイ・ガブリエフ。店の名前、聞くの忘れてたわ。こいつの記憶力、アテになんないのにね?」 苦笑して背後に立つガウリイを指差す。 「リナさん、少しだけ、お節介を・・」 「どうぞ?」 「見えないのは、不安です。とくに見えていた物が見えなくなるのは、元より見えなかった人より特に・・」 「ええ。」 「貴方は、治るんですよね?」 「多分・・」 「いえ、きっと治るんでしょう・・」 「・・はあ?」 何が言いたいのかわからず、首を傾げる。 「ここからは、ただの戯れ事として聞いて下さい。」 「・・・?」 「人は、いつでも迷う物です。自分自身このまま結婚をして、相手の重みにならないか・・と、自分の幸せの裏に、傷付いた人が何人いるかと・・色々迷っています。」 「ー!?」 思わず、その人の方へと真っ直ぐと顔を向ける。 「貴方は・・何か大きな決断をされましたね・・それが何かは分かりません。もしそれが、他の人の目から見て許されなかったとしても、もう選んだ道からは戻れません。なら、未来を良くする努力をしてみませんか?」 「あ・・貴方・・?」 声が掠れたのが、自分でもはっきりと自覚できる。 「すみません・・自分には、視えてはいけない物を視てしまう力があるんです。あ!安心して下さい。意識して触らなければ、はっきりとは分かりませんから。」 「・・そう・・」 「大丈夫ですよ。貴方は・・貴方が貴方である限り、きっと。」 あたしが、あたしである限り?どういう意味でこの人は言っているのだろうか?良く判らず頭を捻った。 「そうですよね?ガウリイさん。」 「・・ああ。お前さんなら、大丈夫だ。」 その人の言葉に、確信めいた声でそう言って、ガウリイはあたしの髪を乱暴に掻き混ぜる。 「て・・すみません。呼び止めて妙な事を言って・・でも、知ってて欲しい、どっちを選んでも、後悔する事はある。大事なのはその後なんです。それを活かすか、殺すかでしか無い。それに、もしかして、世界中が敵に回っても、付いて来るお人好しがいるかもしれないですよ?」 「・・・世界・・ね・・随分大きな話だわ・・」 苦笑いしてそう答えたものの、笑い事では無い。その規模の話がつい半月前に有ったのだ。 この人は、どこまで視えているのだろう? 店の主人が挨拶して店へと戻ると、あたし達も踵を返し再び宿へと向かう。 「リナ・・少し聞いてくれるか?」 「どうぞ・・」 前を歩きながら言ったガウリイに、小さく応えた。 「さっきの、大きい決断、てやつよ、オレには難しい事は良く分かんねえけど・・」 「・・ん。」 「多分、間違ってなかったんじゃないか?こうしてオレはリナと一緒に旅を出来てる。ゼルとアメリアにシルフィールも今は離れてるけど元気だ。まあ、全部が上手くいったか、ていうと犠牲になった人がいるのも事実だ。」 「うん。」 「なんつうか・・・上手く言えないが・・それでも、リナが逃げなかったから、それだけで済んだんじゃないか?結果として、今、皆幸せそうにしてる。まあ、中には人同士のいざこざが有ったり、大小の事件が起こってるだろうけど・・」 「う・・・ん。」 「だから・・だな・・ん〜。」 言葉に詰まったガウリイは困ったのか、髪を揺らす。 「だから?何?」 「リナはリナでいい・・て事か?」 「か?て聞かれても・・」 「いや、お前さんが加わるとよ、小さい事が、いつの間にか大事になっているからなあ・・盗賊イヂメが趣味だしよ・・・」 急に自信なさげにげんなりした声でガウリイはそう言う。 「あら、盗賊イヂメは乙女の嗜みよ?」 「・・まあ、何にしてもさ、そういう事が有った、て事を忘れなきゃいい事だろ?無かった事には出来ないんだからよ。」 「・・・あんただったら、無かった事に出来るんでしょうねえ〜?」 苦笑しながら意地悪っぽくそう言ってやる。 「ああ。オレは忘れるのは得意だからな。でも・・無かった事には出来ないだろうな・・」 「何で?」 優しい声で言われ、首を傾げる。嫌味を言ったのに、気付かなかったらしい。 「だってよ、そこにリナは居ただろ?なら、忘れない。」 「・・・え?」 ふいに足を止めたガウリイに習い足を止めた。 「リナが、一生懸命頑張ってたのを、知ってるからよ。少しでも被害が減る様に、逃げないで頑張ってたのを知ってる。細かい事や町の名前は覚えて無いが、いつでも前を向いて踏ん張っていたのを、ずっと見てきた。」 「・・・・」 「たまに頑張り過ぎてる、て思う事はあったけどよ、そういう時は、他人の為で、自分に厳しくって責任感があるからだ。」 ふいに目の前の光が動き、 「今更・・だけどよ、良く頑張ってきたよな。暫く迷惑掛けるが、見捨てないでくれよ?」 ぐしゃ!と髪の毛を乱暴に掻き混ぜられる。 「それと、やっぱり無茶と盗賊イヂメは止めて欲しいんだが・・・」 「・・どうしよっかな〜?」 そっぽを向き、髪を手櫛で整える。 〈ちょっと嬉しいかも・・〉 「おい〜、リナ〜。」 「だって、昨日約束したじゃない。治ったら盗賊イヂメ付き合ってくれるって、だから、ダメ。」 「そりゃ、約束したが・・無茶は止めてくれ、金に困って無い時に盗賊イヂメに行く事無いだろ?」 「あたしは、無駄な無茶はしたつもりないし、盗賊イヂメはストレス解消に良くて、趣味だもん。」 情けない声で言ってくるガウリイに、あたしはそっけなく応える。 「だから・・分かった。なら、オレはトコトン付き纏ってやるからな、覚悟してくれよ?」 苦笑して、ガウリイはあたしの頭をポン!と叩き、再び宿に向かい歩き出した。 |
≪続く≫ |