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【ネジが抜けた男】

−前編−

最近のあいつは、とことんオカシイ。
それは、あの騒ぎの日からだ。
帰りのHRが終わろうか、という時に、爆裂暴走娘が、「教室の噂の真相を確かめたい!」と、鼻息荒く言ったのが、話の始まりだ。
で、それのお目付け役が、同行を頼まれた。
親切な俺は、付き合ってやる事にした。
まあ、お目付け役にとっては、とんだ藪蛇だったろうが。
ネジは緩いが、勘が働くあいつを誘ったのは俺だった。
怖かったとかでは無い。決して。
どうにも、ネジが一・二本足らない奴で、昔から物事を考えるのが苦手で、学校は近いから、ていう理由で、部活は、俺が誘った剣道部。顔が良いから、群がる女共は数知れず、断るのが面倒だ。と、来る者拒まず、去る者追わず。
自分の意思が無い。それがあいつだったのだ。
話を戻そう、俺達の教室には、一つの噂があった。
夕暮れ時、それが件(くだん)の噂の時間だ。
が、やはり何かが現れる事は無かったのだが、よりにもよって、勘が鋭いあいつが、教室内をウロウロしだした。何かを探す様に。
俺達以外、誰もいない筈だが、念のために、と、机の下、掃除道具入れの中、教卓の下、を覗いて、何も無かったが、相変わらずあいつだけは何か感じている様だった。
一度、外から見てみよう!と、窓から外へと爆裂暴走娘が飛び出し、予想範囲外だったのであろう、普段冷静沈着のお目付け役が、珍しく慌てて後を追った。
で、俺は反対側、教室の外、廊下に向かったんだ。
思えば、あの時、一緒に連れて出ていれば、今の状況の様な事は無かったかもしれない。
1人、教室に残ったあいつ。
廊下側の曇りガラスが嵌められていた窓が、独りでに閉まった。
恐らく、校庭側の窓も、同じ現象が起こったのであろう、あいつを呼ぶ、二つの声。
教室への出入口である引き戸、それにある小さな窓から中を覗けば、教室の真ん中で突っ立っているあいつ。そして、その向こうの窓は、カーテンが閉まっていた。
うすぼんやりしているあいつが、そんな質の悪い悪戯はしない。それは、幼なじみである俺が一番良く知っている。
何かが起こったのだ。俺の様な常識人では分からない何かが。
中のあいつは、顔をキョロキョロとしているだけで、外に居る俺達に助けを求める。て事はしなかった。
危機感が足らないというべきか、大物というべきか?恐らく前者だ。あいつは、何も考えちゃいねぇ。
暫くすると、血相を変えた2人がやってきて、引き戸の窓から中を覗き、あいつの無事な姿を確認し、ほっとしたのか揃って安堵の溜め息をついた。
が、中に入れねぇ事に気付き、バンバンと引き戸を叩き、中へと必死に声を掛け出した。
俺は、というと、あんまり心配していなかった。ちらりと見えたあいつの顔に、警戒心が見えなかったからだ。
顔が良いのと、背が高い事、無駄に長い髪で、あいつは悪目立ちする。
当然、高学年やら同級生やらから生意気だ。と、悪意の有るおふざけ、不意打ちなんてもんはざらで、その悉くを、あいつは野生並みの勘で防いできた。
そのあいつが、ぽやっとした顔をしていたから、やばい状況じゃねぇ。と判断したからだ。
2人の騒ぎを見てたのであろう、運動部の奴等が泥を付けたまま、数人やってきた。
中へ声を掛けている2人を一瞥し、落ち着いて傍観している俺を見て、首を捻り、「何かあったのか?」と俺へと問い掛けてきたのは、陸上部の部長だったか?野郎に興味なんぞ無いし、一緒のクラスになった事も無い奴を知らなくても問題無いだろう。
「ドアが開かなくなっただけだ。」
騒ぎを大きくしたら、迷惑を掛けちまう。何で、俺は、当たり障りの無い事だけを伝えた。
「閉じ籠りか?」
「まあ、そんなもんだ。」
あいつの名前と、開けて下さいなんていう叫びがある以上、そう言うのが一番だった。
その時だ。
ちびっこいそいつが来たのは。
似合わねぇスーツを着て、この学校の名前が入ったスリッパを履いて、図体のデカイ運動部の奴等を掻き分け、そいつは現れた。
そいつを見た第一印象は、学校見学に来た中坊。それ以外になかった。
「何の騒ぎ?」
この口の聞き方で、さらに小生意気なガキだ。と思ったものだ。
が、爆裂暴走娘は、気にしなかったらしい、一気に事情を説明しようと「それが!」と鼻息荒く口火を切ろうとした所で、
「お前は少し黙れ。」
とお目付け役に、それを阻止され、がふぐふ!と、籠った声を発するだけ。
繊細な時期に、騒ぎを起こす訳にはいかない。それに、奴もやっと気付いた様だ。
「騒ぎを大きくすると、不味いだろうが」とお目付け役に小声で言われ、爆裂暴走娘は、不服そうな顔を止める。
何とか落ち着き、3人で事の次第を説明した。勿論、部外者の奴等に聞かせる訳がねぇ。
今思えば、何で、そいつに説明しよう。と思ったのか、不思議でならない。思いっきり部外者で、しかも、女ってぇのはすぐに騒ぎ立てる、つうのに。
説明を受けたそいつは、何故か笑った。
そして、呆気なくドアが開かれた。そいつの手によって。
どういう事か、分からなかったが、開いた、て事は、何かが終わったのだろう。と、説明させるべく、真っ先に中へと入ろうとしたが、入れなかった。
それは、中のあいつを心配して駆け寄ろうとしていた2人も一緒だった。
なのに、そいつは中へとすんなり入って行った。
野次馬の奴等の、息を飲む音を背後に。
そいつは、何かしらを話していた。
最初は、あいつにしているものだ。と思っていたが、どうにも視線はその先、何も居ない筈の所に定まっていて、野次馬の奴等が「やばくね?」とこそこそしやがり出し。
三言程言った後、そいつは、よりにもよって、崩れる様に倒れやがった。
あいつが抱き止めたが。
それでも、何かしらの力で入れなかった教室、唯一入れた奴が倒れた。騒ぎのネタには十分事足りるだろう。
「ここに居る奴等、黙らせるか?」
「それも、仕方が無い事ですね。」
「おい…」
珍しく、俺と意見があった爆裂暴走娘。だが、お目付け役は、何故か頭を抱えた。
困った状況は、あいつによって好機へと向かった。
「どうしたんだ?」
のんびりとした声で、あいつが教室から出て来たのだ。
「よし、奴等にこの事は一切他言無用だと“笑顔で“言ってやれ。」
あいつの肩を叩き、耳打ちしてやった。一番穏便で、面倒が無い解決策は、それしか無いのだ。
話が分かる奴等で、誰にも言わないと言ってくれたんで、あの件は万々歳で終わった。
野次馬が去ってすぐに、そいつが目を醒まし、スパーン!とスリッパであいつをぶって去ったが、俺には関係無い事だった。