【ターニングポイント】‐5‐ |
軽やかな足取りで、リナが先を歩き、それに数歩遅れ、ガウリイとゼルガディスは、のんびりと歩き、診療所を離れ、町唯一の食堂へと向かっていた。 診療所で話込んでいたのは、いつも、セイと昼食の時間を合わせているので、治療室から出て来るのを、待っていたからで、あの後、直ぐに昼食に出る事に、なったのだ。 「ガウリイ、あのセイてヤツ、どこかで見覚えないか?」 そんな最中、ゼルガディスは、ぼそりと溢した。 「ゼルもか?」 のんびりした表情のまま、先を行くリナを視界の端で捉えつつ、ガウリイは隣を伺い見る。 その視線の先、 「やっぱり、そうか。だが、どこで?」 気難しい顔で、ゼルガディスは唸った。 セイを見た時に、どこかで見た様な覚えを、ゼルガディスは感じた。 そして、ガウリイもだろうと、何故か思った。 裏社会を生きた人間が、見覚えがあるとなると、まともな人間でない可能性が高い。 それは、傭兵であったガウリイとて同じである。 だが、二人が共通して知っているとなると、どういう人間なのか、判断に困る。 ガウリイも、見覚えがあるだろう。と思った。という事は、2人に出会ってからの、知り合いの筈で。 となると、リナも知っている可能性もある。 それを、今は確認出来ないが、それにしても、そんなに古い話ではない。 だが、どこで見たのか、思い出せない。 「大丈夫なのか?そんな男に、預けているなんて?」 正体の掴めない人間に、預けられている。という事実に、不安を感じ、ゼルガディスは、渋い表情のまま、不審そうな声で言った。 それに、ガウリイは、苦笑を浮かべる。 「大丈夫だろ。何となくだけどな、信用出来る奴だと思うんだ」 「あんたが、そう言うなら、問題ないだろうが、気を付けるに、越した事はないぞ」 「そう言うがな。リナの応急手当をしてくれた奴だし、色々世話になっているしな」 ゼルガディスの苦言に、ガウリイは肩を竦めた。 ガウリイも、セイとは、どこかで会った気がしていた。 それと同時に、信用出来る相手だ。と、理由もなく感じていた。 だが、それを、ゼルガディスに納得させる為に、どう説明したら良いのか、ガウリイには分からない。 「相変わらず甘いな」 溜め息混じりの、隣からの声に、ガウリイは頬を掻いた。 食堂に着き、食事を待つだけ。となり、3人は、会話をしていた。 内容は、ゼルガディスが、この町に来た理由だ。 勿論、彼の理由は、ただ1つ。元の身体を取り戻す為に、とある噂の元を探して。という事であった。 それに、ゼルガディスの身体が、魔法による物だと知り、興味を示したのは、リナだった。 魔導士だと、ガウリイから聞かされていたので、魔法に興味があったのだ。 日常使う魔法は、目覚めた日に、コードから教えて貰っているが、それ以外は、コードの邪魔になるので、教わっていない。 そもそも、記憶を無くす前に、どんな魔法が使えたのか、ガウリイから聞けていないので、魔法に理解があり、以前の自分を知っているゼルガディスは、有難い存在なのだ。 「悔しいが、天才と認めざるを得なかったな」 自分がどういった魔導士だったのか?という、リナの問いに、ゼルガディスは、スープを一口飲み込んで、答えた。 それに、〔盗賊殺し〕・〔ドラまた〕という、物騒な二つ名を聞かされていたリナは、不安そうに、口を開く。 「変な噂があるって、ガウリイに聞いたけど……?」 「……ある意味、良い性格してたな」 「かなり含みのある言い方ね」 「迷惑な時もあったしな。だが、嫌いではない」 自分の言葉で、拗ねた表情を浮かべたリナに、ゼルガディスは、早口で言い、パンを口に放り込んだ。 それも、常の彼らしからぬ、大きめの欠片で、モグモグと、大きく口を動かしている。 恐らく、自分が言った言葉に照れて、それ以上突っ込まれない様に。という事なのだろう。 「そ。なら、そんな変な性格じゃなかったのね」 「……改善して欲しい所は、多々あったがな」 安堵の溜め息を漏らしたリナに、ゼルガディスは、口の中の物を飲み込んでから、ぼそりと付け足した。 途端、静寂が生まれ、 「悪くはないけど、良くもなかったからな」 それを、笑顔で崩したのは、ガウリイだった。 沈黙が一息分流れ、リナが徐に、鼻で笑う。 「ふんっ。人間欠点の一つや二つ、有って当然だわ。どうしようもない人間なら、心配してくれる人間なんていない。つまり!ガウリイとゼルが居る時点で、どうしようもない人間でない事は、確かだわ!!」 興奮してきたのか、段々声が大きくなり、仕舞いには拳を作り、力説。 ここには居ない、某姫君を連想させ、ガウリイは苦笑いを浮かべ、ゼルガディスは小さく溜め息を吐いた。 「あんた達は、町に随分馴染んでいる様だな?」 食事を終え、道すがら、ゼルガディスは、小さな声を発した。 食堂の人間、すれ違った人間、誰しもが、気さくに挨拶をしてきた事実を、ゼルガディスは、不思議に感じていた。 「開放的な町だからな」 「見た目怪しい俺が、横に居るのに、挨拶して来るてのは、相当あんた達が、信用されているて事だ。短期間で、そこまで信用出来るものなのか?」 ガウリイの答えに、ゼルガディスは、納得がいかない。 不審人物で、しかも見た目が怪しい人間を、連れていれば、関わりたくないのが、心情だろう。と思っているからだ。 一瞬、怯えた表情を見せるが、気を取り直し、2人に挨拶をした町の人々。 一応は、見た目を恐れたものの、2人が連れているから、大丈夫だろう。と、判断したのは、ゼルガディスには、目に見えて分かった。 「仕事で、あっちこっち、手伝いしてるからだろ。それに、リナの主治医が、結構顔が利くんだよ」 「それなら、良いんだがな」 「警戒しすぎじゃないのか?」 渋い顔を続けるゼルガディスに、ガウリイは苦笑を浮かべた。 そんな2人の視線の先、前を歩いているリナは、片腕で抱えられるカゴを持っている。 食堂を出た所で、顔見知りの女性に会い、渡されたものだ。 焼き菓子が入っているそれに、リナの表情は喜色を浮かべており、その表情に、ガウリイは、頬を緩める。 「住んでいて、不穏な空気を感じた事ないから、安心してくれ」 苦い表情を続けているゼルガディスは、その言葉に、鼻を鳴らすのであった。 3人が着いたのは、診療所だ。 昼食後に、ここにリナを届けるのは、セイが、昼食後、診療所を一時的に任せられるからだった。 小さな町なので、診療予定は、あまり無いのだが、緊急の患者の為に、コードが食事中、診察室に居る事になっているのだ。 その為に、コードはいつも、セイが来るまで、昼食を摂らないので、おやつ時となっている今、疲れがある筈なのだが、その表情は、いつもと同じで、柔和なもの。 そのコードに、ゼルガディスが用があるという事だったので、互いの紹介を、ガウリイがし、仕事に戻る為に、診療所を出て行った。 それを見送り、リナとシンディは、中庭へと出て、汚れたシーツや布を、洗いだす。 「あの変わった人、リナちゃんの知り合いなのよね。良かったわね。記憶を取り戻す手掛かりが増えて」 まるで、自分の事の様に、喜んでいるシンディの言葉に、リナは苦笑を浮かべた。 短いやりとりで、ゼルガディスが、自分の外見を、気にしている事に、気付いていたので、「変わった人」という言葉に、頷いていいものか、困ったからだ。 「さて、聞きたい事とは、どの様な事でしたか?」 待合室に残った、コードは、そう言って、ゼルガディスと向き合った。 ゼルガディスの用は、ある噂の、検証の為であった。 場所があやふやだが、確かな情報元からの、噂話だったので、この辺りを、探索していた所、この町に辿り着いた。という訳だった。 「心当たりがあるか、聞きたい」 自信なさげな声で、ゼルガディスは、それを口にした。 この辺りだ。という噂だったのだが、近辺の町で、「心当たりが無い」と、言われていたからであった。 |
≪続く≫ |