【ダンジョンクエスト】

−3−

「とに・・・面倒臭い!あっちこっちに罠があるんだから!」
「全くだ。しかも、こんな色気が皆無のガキと、何が悲しゅうて一緒に歩いているんだか・・・」
「ルークにセクハラされた、てミリーナに言うわよ?」
ルークのぼやきに、リナは目を険悪にさせる。
あちらこちらにある罠を丁寧に見付け出し、先へと進んでいるのだが、その為に、時間ばかりが過ぎて、全く先に行く事が出来ず、ただでさえ仲が良くない二人が揃っている。という悪条件。
当然、順調に進む訳もなく・・・
「てっ?!んな無い事言うなよな!」
「女の子に対して色気が有る無い言うのは十分セクハラよ!」
「はっ?!女の子?んなもんどこに居るてぇんだ?!」
「ここに居るでしょうが!目玉腐ってんじゃない?!」
足を止め、ルークとリナはしばらく睨み合い、
「けっ、んな事やってる場合じゃねぇな。」
「ふん!ま・・・そうね。」
数分して、同時に顔を反らし歩き出す。
イライラしていても、先に進まなければ、状況が変わらないのは、2人とも十分分かっていて、結局は、協力する事に。
「今頃・・・ミリーナ何してんだろうな・・・」
「結局、そっちかい。」
「あんたは心配じゃないのかよ?」
「全然?魔族と一戦交えるよりはマシだし、これくらい。」
「そういう基準か?!」
「だって、別に生きるか死ぬか、斬った張った、ていう場面じゃないじゃない。」
「なんか・・・殺伐としてんな。」
「・・・そう?」
「ああ。」
「まあね、分かってるつもりよ?感覚がずれちゃってる事ぐらい。ちょっと休みましょ。」
そう言って、リナは適当な所に腰を掛ける。
その反対側の壁にルークは背を預け、疲れた溜め息を吐く。
罠を探しながらの道のりは、体力以上に、精神的に疲れを産んでいて、進んだ距離以上の疲れを、2人は感じていた。
「ね、もし・・・もしも、よ?世界か、ミリーナか、てなったら、あんたは、やっぱりミリーナを選ぶ訳?」
「んあ?そりゃ当然だろ。」
水を一口飲んでから言ったリナの問いに、急な話題に片眉を上げつつ、ルークはあっさり頷いた。
「そっか・・・」
「あんたは、どうなんだ?」
「きっと、何度問われても、答えは変わらないでしょうね。」
「誰か・・・いや相棒にでも聞かれたか?」
「まさか・・・あいつがそんな事聞く訳ないじゃない。何で?」
「まるで、もう選んだみたいな口ぶりだったんでな。」
「そう思う?」
「ああ。」
深く頷いてルークは、リナの表情を盗み見る。
その表情はまるで、神官に懺悔をしている様な顔付きをしていた。
「まさか、本気で選んだのか?」
「さあね、だとしたら何で両方存在してる訳?さ・・・行きましょ。きっと2人が探してくれているわ。」
「そう・・・だな。」
立ち上がり、砂埃を払ったリナと共に、ルークは歩き出した。
――――――
「これ、か?」
「他にめぼしい所もなさそうですしね。」
山の中腹にある小さな洞窟の前で、ガウリイとミリーナは小さく頷き合い、その中へと足を踏み入れた。
それまでの道のりでも、人の手が加えられた気配を感じられなかったが、そこは、クモの巣が幾つもあり、苔が至る所に生え、天井にはコウモリや、鳥が息を潜めていて、もう何年も使われていない事を物語っている。
「とりあえず、リナの奴無理していなきゃ良いが・・・」
「そっちの方が心配なんですね。」
「まあ、腕は確かだしな。経験もある。それに・・・ルークが付いているだろ?」
「喧嘩して怪我をしているかも知れませんよ?」
「そっちの方がありえるな。でも、あいつら何だかんだ言って気が合っているからな。こういう時は、意外と協力し合っているかも知れないぜ?」
「そうかも知れませんね。」
「リナとルークは、良く似ているよな。気性が荒くて気が短いし・・・金勘定はしっかりしてる。何より、乱暴なクセに何故か憎めない。」
「似た者同士だから、ぶつかり易い、て事ですね、きっと。」
苦笑して言ったガウリイの言葉に、ミリーナは小さく頷き同意する。
「ああ。」
「色々な事が見えるのですね、ガウリイさんは。」
苦笑したガウリイに、ミリーナは視線を送る。
「オレか?そっか?リナにはクラゲ頭、て言われる位だぜ?」
「頭の良し悪しは関係無いです。」
「それって、結局オレは頭悪い、て事を言ってるよな?」
「はい、すいません。」
「・・・ルークの痛みが少し分かった気がすんな。」
無表情で言ったミリーナの言葉に、ガウリイは少し肩を落とす。
「すみません。人付き合いは、得意では無いので。」
「いや、得意不得意はあるからな。ミリーナは、気持ちを表現するのが苦手なだけだろ。
考え過ぎて、言いたい事の半分以上を飲み込んじまうんだ。」
「そう見えますか?」
「ああ。それと喜怒哀楽の表現も苦手だよな。まあ、ルークは微妙な変化に気付いているだろうけどな。」
「ルーク・・・が?」
「ああ。じゃあなかったら、長く一緒に旅なんて出来ないだろ。丁度いいかもな、表情の激しいルークと、それが苦手なミリーナ、てのは。きっと、ミリーナの変わりに、ルークが泣いたり、怒ったり、笑ったりするんだ。」
「はあ・・・」
「一回、小さくても微笑んでやったらどうだ?きっと大喜びするぞ?」
「そういうものは、やろうとしてやるものでは無いと思いますが・・・」
「ん〜、だから、笑いたい時に我慢しないで、ちょこっと笑うんだ。笑うと、自分も、相手も、楽しくなれるんだぜ?」
ミリーナの戸惑いを含んだ声に、ガウリイはそう言って、無器用にウインクしてみせる。
≪続く≫