【ダンジョンクエスト】−4− |
「・・・なあ。」 「ん〜?何かあった〜?」 ちょっとした広い空間で、壁などの仕掛けを調べている中、不意にルークがリナに話掛けた。 だが、話を振ったというのに、頭、鼻と順に掻き、「くそっ」と悪態ついてから、ルークは口を開いた。 「まあ・・・なんだ?ただの独り言だぞ!独り言!」 「うん?」 「あんたの相棒はよ・・・別れる気なんかないぜ。多分。」 「・・・」 「魔族と頻繁にどんぱちやってたんだろ?1年以上もよ?なら、離れるつもりなら、とっくに見きりを付けて、ドロンしているハズだ。」 「優し過ぎんのよ。あいつは、至上最高のお人好しなんだから。」 「まあ聞けよ。俺の見た所、それは、あんたに対してだけだ。多少甘い気はするがな。・・・でだ!あいつは、怪我した事や、家宝が無くなっちまった事で、あんたを責めたか?!」 「ううん。」 「だろ?!て事はよ。つまり・・・だな、」 「つまり?」 「怪我も家宝の事も、あいつにとっては、些細な事なんだよ。それ以上のモノを見付けた。そういう事なんじゃないのか?だから、あんたからあいつが離れる事は無い・・・俺はそう思う。」 「それ以上、て・・・ヘタしたら死んでいたかも知れないのよ?」 「だあ〜!質問すんな!独り言終了!ちったぁ考えろ、天才魔導士なんだろうが!?」 ふん!と鼻息荒くルークは調査を終えて、立ち上がり、「柄じゃねえんだよ」と、小さくごちた。 ――――――― 「行き止まり・・・ですね。」 「ん〜、まいったなぁ。」 目の前にある岩壁をミリーナとガウリイは呆然と見る。 「まあ、砦ですからね、しかも脱出口、簡単に入れる訳ないですよね。」 「て事は、どこかに隠しスイッチがあるんだな?」 「恐らくは・・・」 「そうだな・・・」 小さく頷いたミリーナを見て、ガウリイは勘を頼りに周辺を見渡し、 「・・・うん。なんか怪しい。」 「そう・・・ですか?」 ガウリイが目を付けた所を見て、ミリーナは首を傾げる。 そこにあるのは、岩肌と何のヘンテツもない石がいくつか。 「ん〜、やっぱり怪しいな。触ってもいいか?」 「・・・分かりました。ガウリイさんを信じます。」 「光栄だな。」 苦笑して、ガウリイは岩肌へと手を伸ばし、 ―ガコ!・・パラパラパラ・・・ 微妙な凹凸を手掛りに引っ張ると、小さな隠し扉が開いた。 「えっと、押していいか?」 「どうぞ。」 ミリーナが小さく頷き、ガウリイが隠し扉の中に在ったボタンを押すと、 ―ズ・・・ズズズズズ 地響きと共に、大きな岩が横へとずれる。 「・・・」 「正解、でしたね。」 「・・・ああ。」 静かに言ったミリーナに、呆然としていたガウリイは苦笑し、2人してその奥へと入る。 「この山全体に魔石が混じっている様ですね。」 「ふ〜ん。そうなのか?」 「はい、恐らく。ここまでくる途中と、この洞窟の岩肌に、仄暗い青い色が見えました。それが魔石の色なんです。」 「へえ〜。」 ミリーナの言葉に、ガウリイは気の無い返事をする。 それに、ミリーナは、「あ!」と気付いた様な表情をし、眉を下げた。 「すみません。魔導に興味の無い方にこんな話。」 「ん?いや、ミリーナも知っているだろ?頭使うのが苦手なだけだ。リナの役目だしな。さっきの場面なんか、リナだったら話聞いてんの?!て怒ってたぜ、きっと。」 「そうですね。」 苦笑したガウリイに、ミリーナの表情が柔かくなる。 それに安堵し、ガウリイは優しく微笑みを浮かべる。 「ミリーナの、さりげない気遣いは良いと思う。相手をちゃんと見て、その時に必要な言葉を選んで無駄の無い言葉を使う。自信持って良いんじゃないか?ルークみたいな一匹狼タイプが入れ込む、て事はそれだけ魅力がある、て事だ。」 「・・・自信がない様に見えますか?」 「ん〜?多分、自分の力や知識はそうじゃない、と思う。性格に自信が無さそうだな・・・と感じるな。」 「ええ、私はつまらない女だと、良く言われてましたから。」 「ん〜、そりゃきっとミリーナの外見しか見てなかった奴らなんだろ。」 「はあ・・・」 「リナは、人を見る目が確かなんだ。そのリナが結構ミリーナの事を気に入っている。リナもルークも分かっている。ミリーナの良い所て奴を。」 「・・・ガウリイさんも、ですよね。」 「ん?いや・・・まあ・・・な」 いつもより柔かい口調で言ったミリーナに面食らいながら、ガウリイは頬を掻いた。 ――――――― 「・・・あたしも、独り言。」 「あ?」 リナが不意に口を開いたのは、舗装された床や壁からただの土や石の通路へと足を踏み入れた時であった。 「ミリーナは・・・ルークの事嫌いではないわ。」 「けっ!んな事当然だろうが!」 当然の事を言われ、ムキになったルークに、リナは静かに続ける。 「ルークが思っている以上に、気は許してんじゃない?じゃないと、女が男と旅するなんて出来ないもの。」 「そう・・・か?」 「うん。あたしも、ガウリイと出会った頃は、すぐ別れてやる、て思ってたもの。で、何だかんだで一緒に居る。タッグとしてベストだ、てのもあるけど、自分から手放す気にはなれないのよね。」 「ミリーナも、そうだと?」 「うん。まあ、男として好意を持っているかどうかは別として、人としては合格点て事じゃない?」 「・・・」 「ラブラブ攻撃を、冷たくあしらってはいるけど、きっと悪い気はしてないと思うわ。」 「なら、このまま続けて平気なんだな。」 「ま、ほどほどに・・・ね。はい!独り言終了。さくさく調べて先に進みましょ。」 「・・・仕切んなよ、チビガキ。」 言って微笑んだリナの頭を、ルークは軽くこつく。 何だか、馴れ合いそうだった空気が、それで一蹴するのは、目に見えていて・・・ 「せいぜいミリーナに振られない事を祈っているわ」 「安心しろ、間違ってもお子様体型なんかには惚れねえからな」 嫌味を込めた笑みで、暫し2人見詰め合い、先に口を開いたのはリナ。 「ふん!あんたみたいな陰険ヤローなんかに思われたって、嬉しくないわよ!」 「お〜お〜!そりゃ奇遇だな。こっちもクソ生意気なジャリガキに思われるなんて、考えただけでゾッとくら〜ぁ!」 「毎日玉砕している、どっかのアホ男が何かわめいているわ〜。」 「毎日て、見てきたみたいに言うな!数週間ぶりだろうが!」 「見てなくったって、分かるわよ。ミリーナも大変よね〜。のべつくまなくラブラブアタックされちゃ、ハタ迷惑でしょうね。ちょっとは周りを見てよ。とか思っているんじゃな〜い?」 「うぐっ?!」 言い争いは、リナの方に軍配が上がった様だ。 結構強引そうなルークは、意外にも、繊細な心の様で、 「ミリーナはよ、優しいんだ。だから俺なんかと・・・」 「あんたが言ったんでしょ。優しいだけで側に居る人は居ないて、ミリーナもそうなんでしょ?!」 落ち込んだ声で言ったルークの肩をパシン!と叩きリナはウインク一つをしてみせた。 ――――――― 「ガウリイさんも、自信持ったらどうですか?」 「へ・・・?」 ミリーナの言葉に、ガウリイは首を傾げる。 「あのリナさんが、あれだけ信頼しているんです。脈はあると思いますよ?」 「な゛!?」 「リナさんを大切にしているんでしょうけど、いつまでも守っているだけでは、どちらも幸せになれませんよ。」 僅かに頬を赤らめたガウリイに、ミリーナは静かにそう言う。 自分の気持ちが知られているとは、露にも思っていなかったガウリイは、視線を彷徨わせてから、そっとミリーナに視線を送る。 「えっと・・・」 「大体の人が気付いているんじゃないですか?本人以外ですけど・・・」 「そっかあ、どうもあいつはその辺りが疎いんだよなあ。」 ガシガシと頭を掻き、ガウリイは溜め息を吐く。それは、安堵からか、残念からかは、本人にも分からない。 「でも、その思い遣りルークに少し分けて頂きたいですね。」 「やっぱり、ちょっと迷惑か?」 「ええ。時と場所、場合なんて関係なしですから、仕事に支障をきたす事もありますので。」 「ん〜、でも、ちょっと羨ましいけどな・・・あれだけ感情をストレートにぶつけられるのは。」 「ストレート過ぎます。」 「まあ、確かに、な。」 溜め息混じりに言ったミリーナに、ガウリイは賛同し、喉で笑った。 暫く歩いて、ミリーナは、静かに提案をする。 「ちょっと強気になって押してみるのも手だと思いますよ。」 「でも、リナ困らないか?」 「さあ?でも、そうしないと何も変わらないと思いますよ?相手はリナさんですし。」 「そう・・だな。ちょっと頑張ってみるか。」 「では、その代わりに、私も機会があれば、ルークに笑ってみます。」 「じゃあ、お互い努力しんとな。」 「そうですね。」 ガウリイとミリーナは2人して小さく頷き合った。 |
≪続く≫ |