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怪盗リッチシリーズ

【漆黒に躍り出る】−4−

「お食事、されました?」
激しい嫌悪感を、感じさせない程、彼女は心配そうな表情を浮かべた。
それに、疲れた表情で、首を横で振るライアン。
「それどころじゃなくてね」
「いらっしゃるかも知れないと思って、オニギリを幾つか、用意してみましたの。宜しければ、召し上がって下さい。お口に合えば良いのですが」
トートバッグから、紙袋を取り出し、ニコリと微笑む彼女。
それに、戸惑った表情を浮かべるライアン。
その意味に気付き、微笑みを維持したまま、彼女は口を開く。
「大変そうだったから、もしかしたら、何も召し上がっていらっしゃらないかも。と思いまして。料亭で無理を言って、作って貰いましたの」
「お気遣い、有り難うございます。有り難く頂きますよ」
「それでは、お部屋に失礼しますわ」
ライアンが、紙袋を手にすると、彼女は、会長室から、奥へと繋がる扉を、開けた。
ライアンは、会長室に残り、椅子に座り、執務用の立派な机に、紙袋を置く。
後を追って来ないライアンに、彼女はほくそ笑み、ソファーに近付く。
隙間に埋めた、イヤリングに見える盗聴機を回収し、ソファーのクッションを、ずらしたり、壁にある絵画をずらしてみたりと、軽く部屋を物色。
だが、何も見付からず、彼女は、軽く溜め息を吐いた。
ライアンが、隣に居る状況で、大っぴらに、探すせないので、見切りを付け、部屋を出、
「ソファーのクッションの脇に、入ってしまっていたみたい」
イヤリングを、ライアンに見せると、
「見付かって良かった」
と、ライアンは微笑み、紙袋に入っていた、ウェットティッシュで、手を拭い、立ち上がる。
近寄ろうとしたライアンに、ニコリと微笑み、彼女は口を開く。
「これで、失礼しますわ」
「お送りしますから、ここで、お待ち下さい」
「そこまでして頂いたら、悪いですわ。家族を呼びますから」
柔和な声で、宥める様に言われたが、首を横に振り、彼女は断った。
下心がある為、それ以上引き留めたら、変に思われる。と思ったのであろう。
「そういう事ならば」
と、ライアンは微笑みを返し、
「ご機嫌よう」
「お気をつけて」
彼女の笑顔での退去の言葉に、笑顔を返す以外、出来なかった。
「すみません、忙しいのに、付き合わせて」
部屋の外で、待機していた警備員に、彼女が頭を下げる。
「仕事ですから」
真面目なのだろう。堅い表情のまま、警備員は、先を歩き出す。
その僅かな隙に、廊下にある、観葉植物に向かい、何かを投げ入れ、彼女も歩き出す。
丁度、エレベーターまで、もう少し。
という所で、背後から、シュウシュウと、音が聞こえ、警備員が、俊敏な動きで、後ろを向き、彼女の腕を引き、自分の背後へと庇う。
「離れないで下さい!!」
叫んだ警備員の目に、煙が見えた瞬間、辺りが真っ白な煙で、埋め尽くされ、
「?!………」
突然訪れた痺れと眠気に、その身体が倒れた。
厳戒体制の中、エレベーターは、最上階に残っていて、最上階と地下にしか止まれない様になっている。
煙が充満する前に、それに乗り込んだ彼女は、素早くスーツを脱いだ。
その下には、黒の皮の、ボディースーツ。
脱いだスーツを、トートバッグの中にあった、圧縮袋に入れ、丸めて空気を抜き、トートバッグの中身を出し、トートバッグも丸める。
トートバッグの中にあった、小さめのナップサックに、それらを詰め、背負い、ナップサックに入れてあった手袋をはめた。
暫く待ち、エレベーター上部にあるデジタルの数字が、17階を示した。
それを確認し、天井に向かい、手をしならせると、吸盤の付いたワイヤーが、天井に張り付き、それを巻き取り、天井の板を外し、上へと上る。
板を戻し、動いているエレベーターから、飛び、ワイヤーを使い、エレベーター脇にある梯子へ。
それを上り、彼女は、見付けた穴へと滑り込んだ。
そこは、大の大人が、這って進める程の道であったので、小柄で華奢な身体には、苦ではない。
入ってすぐ、ソフトボールに似たボールが2つ入った、ミカンネットを取り出し、腰に結んだ。
そして、真っ直ぐ進み、その道にある、金網の床を見付け、止まる。
下に、気配が3つ。
気配を殺し、ボールを取り出し、1つを素早く転がし、その次のボールを、ゆっくりと転がした。
タイミングと緩急の違うボールは、速度のある方は、真っ直ぐと進み、速度のない方は、蛇行して進み、途中の別れ道を曲がっていく。
暫くして、遠くで何やら騒ぎが起こり、金網の下にいた気配が、2つ動く。
金網から、小さい白い粒を落とし、彼女は、気配を上から追う。
その白い粒は、音も無く落ち、警戒していた警察が、空気の漏れる音に気付くと同時に、煙を当たりに撒き、痺れと眠気を与えた。
金網ごとに、白い粒を落とし、着いた先。
廊下は、厳戒体制の為に、明るい筈なのだが、広がった黒い煙が、明かりを消しており、それは、彼女の居る天井裏まで迫っていたが、そこを通り過ぎる。
「?!!」
そこに辿り着いた警備の男は、不意に訪れた眠気に、意識を沈められた。
その人物は、離れた場所で、警備をしていた者で、静かな騒ぎに、駆けつけた所であった。
その騒ぎの原因は、彼女が転がした、ソフトボールの様な物。
幾らか進んだそれは、徐々にほつれ、中から一回り小さい物が出現。
細かな凸凹のあるそれは、慣性で暫く進んだが、金網の溝に引っかかり止まって、割れた。
そして、下に黒い煙幕を送り、同時に、痺れ薬と、黒い粒が、廊下へと散りばめられた。
そうして、警備の視界を遮り、痺れて倒れた者で、侵入者が、混じっている。と誤解を生じさせた。
リッチが、変装の達人だ。という事も手伝い、疑心暗鬼が、様子を見に来た、警備員、警察の間で芽生える。
その中、黒い粒が、新たに催眠ガスを、辺りに撒いたのだ。
そして、手当たり次第、金網から降らせていた白い粒も、やはり、警備の者を、沈めていた。
辺りが静かになった所で、金網から戻って来た彼女が、黒に染まっているそこに、音も無く舞い降りた。
その時に、横たわっていた人物を、踏んでしまったが、視界が悪いので、仕方がない。と、自己弁護をする。
多少、思考が鈍くなるが、薬への耐性があるので、彼女は、エレベーターの場所、進んだ方向と距離から、場所を特定し、左へと廊下を進んだ。
取り溢しが居た時様に、辺りの気配を読むが、懸念で済んだ事に、安堵して。
東と西にある廊下を繋ぐ、その廊下。
西側が、エレベーターのある廊下で、東側が、金庫のある廊下で、そちら側にも、上から眠って頂いた警備・警察官が、横たわっている。
これで、彼の逃走が楽になるだろう。と、彼女は、東側の廊下の北にある窓を開けた。
他の窓は、開かない物で、そこの窓は、非常時用の物だ。
パトカーの明かりを眼下に、身を乗り出し、太股のホルダーに入っている変わった形の銃を取り出した。
それに、ワイヤーを引っかけた弾を仕込み、空へと向かって撃ち、何かに引っかかったのを確認し、グローブにあるワイヤーを巻くスイッチを押せば、あっと言う間に、屋上へ。
防犯システムで、電流が流れる仕組みになっている筈のそこに、彼女は、踊る様に降り立った。
既に防犯システムは、リッチが切ってある。と、分かっていたからだ。
≪続く≫