【桜舞う】4 −保護者− |
「類は友を呼ぶ、て事かしら。ゼロスと良いコンビよ、あんた」 ニコニコと、握手を続けるガウリイに、嫌味を込めて、リナは微笑むが、 「“あんた”じゃなくて、ガウリイだ。ガウリイ・ガブリエフ。宜しくな」 ニコニコ笑顔で、自己紹介をするその顔は、どう見ても、頭の中が春満開。 嫌味に気付かない事に、リナは、内心ムカムカしつつ、ニコリと微笑み返す。 「宜しくしない。友達なら間に合ってるから」 「そんな事言うなって。年の離れたダチも良いぜ?」 「残念。そちらも間に合ってるの」 「まあまあ。ダチが多いのに、超した事ないじゃないか」 何があっても、友達に拘わるガウリイに、コメカミに青筋立て、リナは、掴まれている右手を見る。 左の腰に、帯剣している事から、相手は、利き手で握手している事に。 余程余裕があるのか、間抜けなのか、だが、身のこなしは、タダ者ではない。 どうにか出来ない相手だと悟り、リナは顔をしかめる。 「手、痛いわ」 「あ!ごめんな?!そんな、強く握ってるつもりは……」 慌てて、手を離したガウリイに、見せつける様に、溜め息を吐き、リナは、手を擦る。 「ごめんな、痛かったか?」 「友達なんて、なろうとして、なるもんじゃないんじゃない?ゼロスの、パートナーてだけでも、最悪なのに」 眉を下げて、心配そうに、見詰めてくるガウリイを、冷たく見て言い、リナは視線を横にずらす。 そこには、ニコニコと、笑みを浮かべながら、事態を見守っていたゼロス。 「もう宜しいですか?」 「嫌なヤツ」 ちっ、と舌打ちし、リナは、2人を気にも掛けず、歩き出す。 「じゃあ、友達候補な。それなら良いだろ?」 振り払われた手を、残念そうに、見ていたガウリイが、慌ててその後を追い。 「あの根性、どこから来ているのでしょうねえ」 面白がる口調で一人ごち、ゼロスもその後を追う。 「あんた、しつこい。て良く言われない?」 「いや?」 追いついて、横に並んだガウリイは、隣からの問いに、頭(かぶり)を振る。 それに、リナは手をポンと鳴らし、 「あ、そうか。普通の女の子だったら、あんたに言い寄られたら、嬉しいと思うから、しつこいなんて思わないのか。なら、覚えておいて。しつこい男は、嫌われるわよ」 うんうん。と、一人納得した。 「昨日、あの後どうしたんだ?」 分かっているのか、いないのか、コクコク頷いているリナに、ガウリイは首を傾げた。 脈絡の無い質問に、リナは、盛大に顔を渋くさせる。 「関係ないんじゃない?」 「そうなんだけどな……」 「市民の安全を守るのが、我々の仕事。未成年の、夜中の徘徊を、見過ごす事は出来ません。どこで、夜を過ごしたのか、聞く権利はあると思いますがね?」 残念そうなガウリイに、意外な助け船を出したのは、ニコニコ笑んでいるゼロス。 「だってよ。聞かせてくれるか?」 途端、ガウリイが嬉しそうに微笑み、 「余計な事を」 リナは、思いっきり、嫌そうな表情を浮かべる。 はっはっは、と、朗らかに笑うゼロスを、ギロリと一瞬睨み、リナは、嫌そうな表情のまま、口を開く。 「空き家に忍び込んだだけよ」 「えぇ?!いや……野宿よりかは安心か。だが……空き家に忍び入ったてのは……」 うんうん唸り出したガウリイに、やっと黙らせる事が出来たリナが、こっそり満足気に笑う。 その後、会話らしい会話もなく、西の関門から中央区へと、3人は入った。 リナは、2人を毛嫌いして。 ガウリイは、途切れてしまった会話に、切り出す事を躊躇い。 ゼロスは、ピリピリしたリナと、気不味そうなガウリイの2人を、後ろから黙って楽しんでいたのだ。 「寮に行かれるのですか?」 黙々とした歩みを、楽しんでいたにも関わらず、ゼロスが崩したのは、リナが、ラーダの屋敷とは、別の方角へと、足を向けていたからだ。 「父様は、あたしが、目の届かない場所に居るのが、嫌なだけ。学園内に戻れば、安心するわよ」 「なるほど」 「家に居るの、嫌なのか?」 何の感情も見えない声に、ゼロスは納得し、ガウリイは心配そうな表情を浮かべた。 そちらをチラリと見て、リナは口を開く。 「じゃあさ、あんたなら、どうすんの?大事なのは、格式やら世間体、家の存続。そんな家に、正式な血筋じゃない。と分かって、居られる?大事な跡取りは、健康を取り戻したし」 「つまり、拗ねてるのか?大事にされていないから」 「拗ねて……ないとは言いきれないかも。だけど、もし、あの家を継げと言われても、嬉しくないわね」 首を傾げ、端的に纏めたガウリイ。 一瞬嫌そうな表情を浮かべたが、それを真っ向から否定するのも、どこか違う気がして、リナは複雑な表情へと変えた。 それに、ガウリイが優しい笑みを浮かべる。 「じゃあ、オレが、安心出来る場所になってやるよ」 「へ??」 「本当は、家が安心出来る場所だと良いんだけどな。そうじゃないんだろ?なら、オレが、保護者の代わりになりたいんだ」 突拍子もない言葉に、呆気にとられ、口をパカンと開けたリナ。 その頭を、そっと撫で、ガウリイは照れた様に、鼻を掻く。 それを、リナは、瞬きしながら、見上げる。 「保護者の代わりて、お小遣いくれる。て事……?」 「さすがに、それは出来ん。そうじゃなくてさ、甘えたって、我が侭言ったて、構わないて事」 「甘えて良いなら、お小遣い頂戴♪」 「あのなぁ。お小遣い沢山貰ってんじゃないのか?」 うふふvと、こぶしを自分の顎に添え、上目遣いで見上げてきたリナを、困った顔で見、ガウリイは乱暴に、彼女の頭を撫でる。 「ちょっと!グシャグシャにしないでよ!髪が痛むでしょ!それに、女の子てのは、お金は幾らあったって、足らないのよ!貰えるなら、有り難く頂戴する。それが、乙女心てもんよ!」 「小遣いをやりくり出来ないのか?大人になったら、困るぞ?」 拳を作り、力説したリナに、呆れた声で、ガウリイは言い、 「とにかくさ、さっきみたいに、遠慮なんて要らないから、何でも、言ってくれて良いぞ」 と、リナの頭を撫で繰り回す。 「だ〜か〜ら〜!止めい!!」 「何でだ?保護者が撫でるのは、当然だろ?」 「認めてないわ〜!!」 ぎゃーぎゃーと、令嬢らしくない声で、撫でる手から逃れたリナ。 「まあまあ」 と、楽しそうに追い、撫でるガウリイ。 「僕の存在、忘れられてますね」 そんな2人に、所在なさげに苦笑し、ゼロスは、ゆっくりと追った。 「今度、様子見に来るな」 「来なくて良い!!」 無事に寮の前に着き、ガウリイが言うと、リナが、毛を逆立てた猫の様に、睨み付ける。 それを、優しい視線で、ガウリイは返す。 「じゃあ、友達に会わせてくれないか?心配なんだ」 「……分かったわよ!安心したら、もう来なくて良いからね!」 「そんな冷たい事言わないでくれよ」 心配という言葉に、ほんのり頬を赤らめたリナの言葉は、そっけない癖に、どこか、相手を気遣った音色があり、ガウリイは嬉しそうに微笑みを浮かべた。 そんなガウリイに、 「くっ!!ゼロス!父様には、無事に寮に戻ったから、安心してくれて構わない。と伝えて!」 不利を悟ったのか、悔しげに呻いてから、相手を変え、怒った様な口調で言うと、リナは、踵を返し、足早に寮の中へと消える。 今は、授業中の時間で、他には人の姿が見られないそこに、ガウリイは寂しくないのかな、と、彼女を思う。 「さて、報告に参りしょうか」 彼女の姿が、見えなくなると、用は済んだ。とばかりに、ゼロスが踵を返す。 薄情だと内心思うが、居続けても、どうしようもないので、ガウリイは、黙って上司の後を追うのであった。 |
≪続く≫ |